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135 緊急出動ひがみちゃん
しおりを挟むわたしの名前はひがみ。
心の代弁者にして、愛と勇気のハートウォリアー。
残酷なリアルを前にして心が「ガッデム!」と悲鳴をあげるときが、わたしの出番。
すぐに駆けつけてレスキュー。心の負担を軽くしてあげるの。
そうして精神のバランスを保ち、健やかにすごせるようにしてあげる。
それがわたしのお仕事、わたしの使命。
……のハズなんだけど。
「どうしたのよ、ひがみ。あんた、えらく疲れているんじゃないの?」
「あっ、そねみ姉さん」
自宅のリビングにて、ぐったりとソファーに身を投げ出し、お疲れモードに入っていたわたしに声をかけてきたのは、二番目の姉であるそねみ。
母ジェラシーと父羨望のいいところをもらった、美人の姉二号。ちなみに長姉であるねたみが美人の姉一号。
なのにわたしは三号ではない。
お姉ちゃんたちは当たりハーフ。でもわたしだけガッカリハーフなのだ。
生まれながらの明確なる格差はいかんともしがたく、成長するほどに差はますます広がるばかり。
ご近所では「三姉妹のイケてない子」として存在がすっかり定着してしまっている。
おかげで猫撫で声にて近寄ってくる異性は九割がたお姉ちゃんたち狙いにつき、早くもわたしは男性に対する幻想を捨てた。
「その様子だと、ひょっとしてまた出動がかかったの? いくらなんでも頻度が多くない?」とそねみ姉。
「そうなの! リンネちゃんってばヒドイのよ! しょうもないことですぐにプクプクするんだから」
わたしはここぞとばかりに姉を相手にリンネちゃんのことを愚痴る。
夕食のオカズのからあげが一つ少なかったとプクプク。
朝、寝坊してリリアちゃんに会えなかったとプクプク。
蹴飛ばした小石が壁に跳ね返って自分の額を直撃してプクプク。
愉しみにしていた連載マンガが安易なハーレム展開でプクプク。
いちゃこらしているゴードン将軍とユーリスを見かけてプクプク。
城下に買い物に行ったら、お目当ての品が売り切れでプクプク。
マロンちゃんに声をかけたらダッシュで逃げられてプクプク。
マロンちゃの姉のキャロと夫のロンが腕を組んで歩いていたらプクプク。
下着専門店の前で、飾られてあるマネキンと自身の胸元を比べてプクプク。
仲良さげなカップルだらけの街の公園にプクプク。
コインが落ちててラッキーって拾ったら、鉄くずだったのでプクプク。
それをカネコたちに目撃され「キシシ」と笑われてプクプク。
あんまりプクプクきたもので、追いかけたらまんまと逃げられて更にプクプク。
ちっ、と舌打ち。テクテク歩きだす。しばらくするとまたもや足下できらりと光る物体を発見。「今度こそは」と手をのばしたら、やっぱりコインじゃなかった。
そしてまたもやカネコたちに見られて笑われ、プクプクして同じようなことをくり返す。
などなど……。
連日連夜がこんな調子につき、なんとも熱しやすく冷めやすく、とくに学習することも反省することもなく、呆れるほど気ままに、日々のべつまくなしにプクプクしまくっているアマノリンネ。
怒りや苛立ちがずるずると尾を引かないことは感心だけれども、そのたびに出動を強いられるひがみちゃんとしては、もう少し頻度を抑えてもらえるとありがたい。
「今日だけで六回だよ、六回っ! いくらなんでも多すぎるよー。しかも夜までわりとウロウロしているから、こっちは休むヒマもありゃしない」
プクプク怒る末妹を「まあまあ」となだめるそねみ姉。
その時、リビングの壁に設置されているライトが赤く点滅、ジリリリとベルが鳴る。
これは緊急出動の合図。
あわてて跳ね起きたひがみは、「まさかの七回目、まったくもう、ガッデム!」と悪態をつきつつも、すぐさま部屋を飛び出していく。
そんな末妹にそねみ姉は「なんだかんだでマジメなんだから。しっかり気張るのよ、ひがみ」とエールを送る。
縁の下ならぬ、意識の下にて人知れず活動を続けるひがみちゃんとその家族。
彼女たちの活躍によって、不動の神鋼精神が維持されていることをアマノリンネは知らない。
がんばれ、ひがみちゃん。
負けるなひがみちゃん。
キミこそがノットガルドの最後の希望にして、最終防衛ライン。
世界の平和はあなたの双肩にかかっている。
もしもここが突破されたとき、リンネは暴走する。そしてきっとノットガルドは悲惨な終焉を迎えることになるであろうから。
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