わたしだけノット・ファンタジー! いろいろヒドイ異世界生活。

月芝

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150 腐界の聖女

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 バクンとわたしことアマノリンネをひと呑みにした邪龍。
 ロープなんて即座にあっさりぷっつりよ。
 奈落へと落ちていく際に、ヤケクソになったわたしは、魔導砲にエネルギーを充填する要領にて、「オラオラ」と魔力を垂れ流す。
 邪龍内部のことについては、正直なところ、あんまり口にしたくはない。
 鼻がひん曲がるほどにクサイ汚物処理場の底にて、生きながらにたくさんのチェーンソーに切り刻まれる。そんな風だったとだけ言っておこうか。

 体内にて爆発どころか超新星ばりに膨れ上がる強大な魔力。
 こんなものを腹の中に抱え込んでしまった邪龍がどうなったのかというと、巨大ミミズっぽいカラダが、まるで空気をいれまくられたゴム風船のようにパンパンとなってしまい、そのまま空へぷかりぷかりと浮かびはじめた。
 この光景を目にしたルーシーはあわてて叫ぶ。

「いけない! たまさぶろう、全速力にて亜空間へ離脱」

 すぐさま宇宙戦艦がぬるっと自分の亜空間に退避。
 直後に、お空へと浮かんでいた巨大バルーンがパッチン。それはもう盛大にはじけた。
 と同時に現場には暴風が吹き荒れ、空からは大量の茶色いドロドロの液体が降り注ぐ。
 みなさまはお忘れかもしれないが、ジャミの体液はたいそうクサイ。そしてジャミの亜種である邪龍の体液は、これに輪をかけて超クサイ。健康スキル持ちにて神鋼精神であるリンネがおもわず顔をしかめるほどに。
 そんなシロモノが頭の上からざっぷんどっぱん。
 あまりの激しさにて豪雨どころか、ちょっとした津波状態。ドロドロがモナズセキ平原を席巻。
 一瞬にして戦場を阿鼻叫喚の地獄絵図へと変える。
 あまりにも強烈なニオイにて、目もまともに開けていられない。呼吸もままならず、朦朧とする意識。救いを求めすすり泣く声があちらこちらにて、泡を吹いて悶絶するものが続出。
 魔王軍も連合軍も関係なし。この場に集いしすべての種族、その誰もが等しく被害にあって、ひたすら地獄の責め苦を味わうことになる。
 そんな悪臭汚泥地獄の真ん中にてわたしは一人仁王立ち。鼻をひん曲げて、むちゃくちゃ不機嫌な顔をしていた。
 手には神殺しの漆黒の剣テュルファングが握られている。なんか途中でイライラするあまりプツンときて、邪龍の内部でめったやたらとふり回してやった。
 そしたらブスリといってパンッってなった。で、ドロドロといっしょに落っこちた。
 おかげで全身ドロドロのネタネタでヌタヌタだ。初心者にはあまりにもハード過ぎるマニアックプレイ。
 我、すこぶる不快なり。

「ふむ。どうやら邪龍はちゃんと退治できたようだね。しかしこれはヒドイ。ねえ、そうおもわない? テュルファング」
「……」
「ちぇっ、剣のくせしてナマイキにも悪臭で気を失っていやがる。この軟弱モノめ。それにしても、くちゃい」

 ぶつぶつ文句を言っていたら、上空よりペカーと光の柱が降りてきた。どうやらたまさぶろうが迎えに来てくれたみたい。
 ふよふよと浮かび上がるわたしのカラダ。
 しだいに遠ざかる眼下の景色は筆舌にしがたく、一切の戦闘行為が継続不能状態に陥っている。まぁ、毎日殺り合っていたみたいだし、たまにはゆっくり休むがいいよ。
 なんて考えていたら頭の中にてレベルアップの音がキンコンとやかましい。それもけっこうな勢いにて鳴っているところからすると、どうやら大古より邪龍の中にて累積されていた分も経験値に加算されている模様。

「そういえばわたしのレベルっていくつなんだろう。いい加減にルーシーも教えてくれてもよさそうなものなのに」

 ぼんやりとそんなこと考えているうちに帰艦。
 でもお出迎えをしてくれたのは仲間たちのステキな笑顔ではなくって、全身を白の防護服で固めマスクをつけたお人形さんたち。その手には何やら消火器っぽいモノの姿が。
「汚物は消毒」との掛け声にて、消火器っぽいモノが一斉に白煙を勢いよく吹き出す。問答無用にて、わたしのカラダにブシューと浴びせかけられる。ケホケホ。
 入念かつ執拗に、つま先から頭のてっぺんまで真っ白にされたわたしとテュルファング。
 そのまま「えっほえっほ」と担がれて、ポイッと放り込まれたのは消毒液のプール。
 うぅっ、冷たい。「せめて温水プールにして」と希望するも「有毒ガスが発生するからダメ」と言われ、さらに「最低一時間はじっとしていること。できれば二時間」とルーシーに厳命される。

「邪龍の体液ってば、そこまでしないとニオイが落ちないの!」

 そんなかなしい感想でもって、この度の活動は終了。
 当初の目的であった第四氏族ダイアスポアの人たちの救出は成功。いまだ各地に潜伏したり逃亡している同氏族の面々はおりおり回収予定。アルバもお母さんであるエタンセルさんと再会できたし、この点は特によかった。
 なお全員が故郷を失っており、リスターナへの移住を希望したので、そのまま連れ帰ることにした。
 でもそれ以外は、ほぼほぼ蛇足であった。
 新生魔王や聖騎士、ついでに邪龍まで倒すハメになった一連の戦闘行為は、まったくもって不本意にて不幸な出来事であった。



 リスターナに戻ってからしばらく経った、ある日のこと。
 懐のスマートフォンっぽい通信端末がぷるぷる。
「はーい」と出れば、相手はギャバナ国のライト王子さま。

「たったいま届いた朗報なんだが、おまえにも教えておいてやろうとおもってな。どうやら魔王軍と連合軍にて停戦協定が結ばれたようだ。なんでもモナズセキ平原にて未曾有の災害が発生したらしく、両軍共に甚大な被害を受けてとても戦線を維持できなくなったとか。あと未確認情報ながらもナゾの巨大生物や『腐界の聖女』と呼ばれる存在が介入したとも……」

 これを聞いてわたしは「へえー、そうなんだー」
 やっべー、まったくもって微塵も戦争に関わる気なんてなかったのに。
 なんてこったい!

 第七十九次聖魔戦線、とりあえずこれにて終了。


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