わたしだけノット・ファンタジー! いろいろヒドイ異世界生活。

月芝

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164 マーキング

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「どう、しっかりマーキングした?」
「ばっちりです。リンネさま」

 まんまと亜空間へと逃れた主従は、にへらとほくそ笑む。
 本当にただの気まぐれにてグリューネを見逃したと思った?
 そんなワケないでしょ。しっかりと宇宙戦艦「たまさぶろう」のホーミングレーザーにてロックオンしておいたよ。
 いったん捉えた獲物は逃がさない、地獄の追撃機能を誇るこのレーザー。
 この機能を応用したのである。
 ばっちり照準に捉えているのに、あえて引き金をひかないという逆転の発想。この使い方を思いついてくれたのは鬼メイドのアルバ。
 門外漢の素人ならではの柔軟な思考。ついつい威力を高め性能を突き詰めることにばかりに気持ちがいってしまっていた開発チームの面々は、まさに目から鱗であった。白衣姿のグランディアが、手にしていた栄養ドリンクのビンをおもわずポロリしちゃうほど。
 マーキングは完了。これによりグリューネがどこにいようとも、ノットガルド上にいるかぎりは追跡が容易となった。
 聖騎士どもが、聖クロア教会の総本山であるオスミウムの都を根城にしているのは明々白々。
 まとめてドカンとやってしまうのが一番てっとり早くて簡単。
 だけれども教会ってば内部はとってもクリーンにて、活動内容もすこぶる健全。
 わたしが知る限り、もっともまともな宗教団体といっても過言ではない。
 基本的にいい人たちの集まり。聖騎士を中心にして、女神を妄信している一部がちょっとおかしくなっているだけ。だからまとめてボンというわけにもいかない。
 そこでわたしたちは考えました。

「悪の秘密結社っぽい連中のことだとだから、オスミウムの外にも、きっと活動拠点の一つや二つもっているはず」

 いわゆるアジトというやつである。
 あちらこちらで暗躍している聖騎士だもの。
 もしものときの隠れ家や秘密基地ぐらい確保していても、なんらふしぎではない。
 その場所を特定するのにグリューネをあえて見逃したのである。
 まぁ、その場所にもよるのだけれども、人口密集地ではない郊外とかに集まってくれたら、これさいわいとばかりに遠慮なく強力なのをぶっ放せるからね。
 最後の最後におもわぬ拾いモノをしたこの度の騒動。
 首脳陣がまとめて消し飛び、悪政から解放されたダロブリンがこの先どうなるかは、知らん。
「悪政も戦乱よりまし」という考えもあるらしい。賢いお人形さんが教えてくれたけれども、はてさてどうなることやら。
 あとは、ほとぼりが冷めた頃に、ちょいと王都の跡地にお邪魔して念のために漁る予定。
 ほら? ダロブリンってクソ虫の巣窟だったって話だから。この手の悪党ってだいたい地面に穴を掘って大切なモノを保管とかしていそうじゃない。
 ここ掘れわんわん、壺の中から大判小判がざっくざくとか夢が広がる。



 賊から救出された子どもたちは、ルーシータウンにてしっかり保護。
 ぼちぼち聞き出したところでは、みな悲惨な境遇にて帰るところがないというので、このままリスターナに移住させることにする。
 しばらくは孤児院で暮らしてもらい、里親とかみつかったらそちらに引き取られることになるだろう。もしみんなと離れたくないというのならば、そのまま大きくなるまでいっしょに孤児院で過ごしてもらってもかまわない。
 いちおう言っておくけど、いまのリスターナの孤児院ってば、ちょっとスゴイからね。
 個室のホテルスタイルにて、衣食住の完備。遊戯場とかも併設。お世話や心のケアをするための要員もばっちりにて、よく学びよく遊びよく食べてよく寝る環境を整えてある。
 これはきちんとした国営事業。いずれは孤児院をベースにして、一般向けの学校へと昇華させるつもり。
 なにせ先の騒乱のおりに、ボコボコにされて敗戦し、じつに多くの将兵を失ったリスターナ。
 そのせいで戦災孤児も山ほど出た。この問題を放置したり後回しにしたら、必ずとんでもないしっぺ返しを喰らうことになる。
 なにより未来ある子どもたちに、自分たちの不始末のツケを払わせるわけにはいかないと、シルト王さまはがんばった。その心意気に感銘を受けたわたしたちもがんばった。関係者一同、とってもがんばった。
 おかげで立派な箱物は出来たけれども、中身の方はまだまだ現在進行形にて試行錯誤中。
 教育や子育てって、本当にむずかしいよね。コレと毎日向き合ってるお母さんやお父さん、先生方ってとってもエライ!
 ところで、それはそれとしてちょっと気になることがあるの。
 施設内の図書室。そこになぜだかセレニティ・ロードのところで見かけた絵本類が、しれっと棚に収まっていた。
 あの無垢な幼子たちを「ビバ! リンネさま」へと誘う、悪魔の書が!
 だから見かける度にせっせと撤去しているというのに、いつの間にかまた元通りになっている。しかも地味にちくちく増えていく。
 いくらルーシーに「やめて」と文句を言っても、お人形さんはそらとぼけるばかり。
 うぅ、わたしの知らないところで作戦コード「かると」の魔の手が……。救うはずの未来に早くも暗雲が垂れ込めはじめているよ。

 えー、コホン。
 ちょっと話が横道にそれた。
 で、一番重篤だった魔族の子は現在、宇宙戦艦「たまさぶろう」内にある集中治療室にいる。
 ちなみにこの設備を使うのは初めて。なにせリンネ組の面々はどいつもこいつも異様に頑強なもので。
 容体はいまのところ落ち着いている。砕けていた足の骨の再生手術も無事に終了。手術を担当したグランディアから、経過も良好にてすぐに元気に走り回れるようになると聞いて、わたしもほっとした。ちょっとサービスしておいたという言葉は気になるけど……。
 その子なのだが、アルバによれば「どうやら第十氏族ランショウ出身らしい」とのこと。
 魔族は十二の氏族の連合体。
 第十氏族ランショウには身体的特徴として、カラダのあちこちに水晶体のような部位が埋まっており、それが背中に見られたらしい。
 どういう経緯を辿って遠い北の魔族領から、ダロブリンくんだりにまで流れてきたのかはわからない。そのへんのこともあの子の回復を待ってからとなる。

「ところでこんなことを聞いてゴメンなんだけど、魔族って売り買いされたり、奴隷としても扱われたりしているの?」とわたし。

 カラダは大きく頑強にてチカラも強い。
 ちょっと不謹慎だけれども奴隷としては、重宝しそうなイメージがある。
 でもこれにはルーシーが否定的な意見を口にする。

「基本的に他種族の奴隷というのは扱いがムズカシイのですよ。なにせカラダの大きさから中身までかなり異なるのですから。ラホースや飛竜を飼うには、それ相応の設備や知識が必要になるのと同じことです」

 つまり人間種が奴隷を持つのならば、同じ人間種が一番使い勝手がいいと。
 それでも中には好事家みたいな存在もいるらしく、そういった輩は酔狂にもお金を惜しまない。
 異種族の奴隷を多数侍らすことは、それだけ己の財力やチカラを誇示することにも通じるそうな。
 どちらにしろ胸クソの悪い話だ。
 ノットガルド全土では奴隷制度を否定している国が多いという。聖クロア教会も積極的に賛同しており、長年の草の根活動の成果とのこと。
 連合軍の中心となって魔王軍と戦っていたウインザム帝国ですらもが、魔族を捕虜として扱うことはあっても、奴隷に落とすことはしないという。
 世界有数の大国ですらもがソレだというのに。この一事でもってダロブリンがいかに時代の流れに取り残されていたのかがよくわかる。
 彼の国は滅ぶべくして滅んだ。ただそれだけのこと。
 けれども、巻き込まれた大勢の人たちこそが哀れである。
 その魂たちの冥福を祈りつつ、わたしたちは帰路についた。


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