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175 襲撃
しおりを挟む深夜、みなが寝静まった頃合いを見計らって、動き出す襲撃者たち。
その数、三名。
これまでの情報収集を目的とした動きではなく、手には武器を持ち、明らかな害意を持ってこちらへと侵入を試みようとする。
も、事前にそれを察知したわたしたちは座して待つことなく、こちらから出迎えることにした。
だって先方は殺気や気配を一切隠す気もないらしいから。悪意が駄々洩れ。
いや、これはわざとこちらを誘っているのか……。
ホテルの屋上で対峙したのは三人の男たち。
みな異世界渡りの勇者であったが、雰囲気が随分と荒んでいるのがひと目でわかるほど。
どうやら環境とチカラに酔って、ものの見事に道を踏み外し身を持ち崩したようだ。いわゆる外道オチというやつである。
「おまえ、勇者だな? 同じ転移者のよしみで手を引くのならば見逃してやってもいいぜ。俺たちの目当てはあの黒髪のガキだけだからな」
ゴテゴテした装飾が施されてある槍を手にした男が言った。
おそらくは彼がリーダー格みたい。ずいぶんと淀んだ目をしていやがる。こりゃあ、言葉を鵜呑みにしてうっかり背中を見せたら、後ろからズブリとか平気でやる輩だね。完全なる独断と偏見にて、わたしはそう決めつける。
すると連れの、これまたゴテゴテした装飾が施されてある盾を持つ男が「おいおい、何を勝手に決めていやがるんだ。こっちは金髪の上玉をいただくつもりなんだから、逃がすつもりはないぞ」
金髪の上玉とは、おそらくリリアちゃんのこと。
ゲスの発言にわたしのこめかみがピクリ。
「だったらオレはもう一人の栗毛の子をもらうとするか。あの気の強そうなところがなんともたまんねえ。どんな泣き声をあげるのか楽しみだ」これまたゴテゴテした剣を持つ残りの男が口を挟む。
栗毛の子とはマロンちゃんのことだね。
ゲス発言その二を受けて、わたしのこめかみがさらにピクピクリ。
この言い草、手にした得物、連中のカラダに染みついている血と死のニオイからして、これまでにも相当数の悪行を重ねてきたのに違いあるまい。あげくに今では金を貰っての殺し屋稼業とか、もはや情状酌量の余地なし。
わたしが無言で小さくうなづくと、ルーシーとアルバも小さくうなづき返す。
主従での意志の疎通が済んだところで、戦闘開始。
とはいえ、それはとても戦闘とは呼べないほどの、一方的な蹂躙劇となったのだけれども。
鬼メイドのアルバのやや乱雑ともとれる大上段からの槍の振り下ろし。その一撃を、剣を横にして十字に防ごうとした男。その際に「無駄だ。この剣は数多の血を吸って成長を遂げた魔剣。いかに魔族の剛腕とて、傷ひとつつかんわ」と得意げにのたまっていたが……。
たしかに自慢の剣が砕けることはなかった。
でも鬼メイドのかなーり手加減をした一撃にて、中ほどからグニャリとくの字に折れ曲がった。
まぁ、彼女もいちおうは魔王討伐者だしねえ。
たぶん魔族の中でも最強の部類に入るのは間違いあるまい。もっとも面倒ごとを嫌って、表に出ない陰の実力者とかもいるだろうから、必ずしも一番とは言い切れないだろうけれども。正面きっての殴り合いならばたぶん一番。いまの成長ペースだといずれ近いうちには頂点に君臨することにもなるはず。
そんな魔族の女戦士もとい、鬼メイドの重たい一撃をもらった男。
剣がアメ細工のようにひん曲がり、その余波で脳天までもがベコンとへこんで、そのまま逝った。
ルーシーが対峙したのは大きな盾を持つ男。
男によれば「どんな攻撃も倍返し」するだけでなく、いろいろとギミック満載の自慢の盾とのことだけれども……。
お人形さんの腕が亜空間に突っ込まれるのと同時に、中空よりにょきっと顔を出したのはショットガンの銃口。
ズドンと一発! 亜空間殺法が炸裂。
突如として頭上至近距離より降り注いだ銃弾の雨に晒されて、カラダ中を穴だらけにした男は即昇天。それこそ瞼を閉じる暇も与えない問答無用の瞬殺ぶり。
この亜空間殺法、万能そうにみえてじつはそうでもない。なにせわりと座標軸の計算がムズカシイらしく、あんまり動きの早い相手とかだといまいち狙いが定まらない。その点、限られたスペース内や今回みたいに待ち戦法の相手だと、極めて相性がいいのである。
襲撃者たちのリーダー格の男の槍の一撃を、ぬるりとかわす。
繰り出される突きを、それはもうぬるぬるかわし続けるわたし。気分はウナギかドジョウのごとし。
ぶっちゃけ遅い、鈍い、温い、稚拙。
わたしとて伊達にアルバからボコボコにされ続けてきたわけじゃない。他にもオービタル・ロードたちなど、常に一級品の武芸と間近に接しているせいで、すっかり目が肥えてしまったようだ。
しょせんは好き勝手に己の快楽のみを追い求めてきた軟弱者の槍なんぞ屁でもない。
相手が焦れてきて、そろそろ自慢の槍の能力解放! みたいなことをやり出しそうな雰囲気を見計らって、わたしはいっきに間合いをつめた。
高レベル生命体にて、最近ではマジメに鍛錬を積んでいるリンネちゃん。武道の心得なんぞ微塵もなく、センスなんてどこをほじくり返しても粒ほども見つからなかった。
けれども近頃、諸動作なんぞが多少はマシになってきたと、誰もホメてくれないから自画自賛している。
きっと相手にしてみれば視界からいきなり消えて、いきなり目の前に現れたように映ったことであろう。
驚愕する表情を浮かべる男の顔面を、無造作にワシ掴みにしてアイアンクロ―。ぎゅぎゅぎゅっとね。五本指にチカラを込めて、メキメキみしみし。
からの手の平式スタンガン。
出力はもちろんマックス。
「うらむんなら、不用意な発言をしたお仲間をうらみな。マイシスターたちに手を出す? チッチッチッ、そいつは禁句さ。絶対に口にするべきじゃなかったね」
深夜のホテルの屋上より、蒼いイカズチが大量放電。
ほんの一瞬だけ夜空が青白く照らされるも、すぐにもとの暗闇へと戻った。
持ち主が生命活動を終えてしばらくすると、武器たちがサラサラと砂が崩れるかのようにして消えていく。
「どうやらギフトの類だったようだね。スキルの方は確認する前に殺ってしまったからわからないけど」
わたしは足下に転がる黒炭の塊をこつんとつま先で小突く。
今後はこの手の輩の出現もあるのか。この分だと他にもまだまだ性根の腐った異世界渡りがいそうだね。なんとも迷惑な話だよ。どうかリスターナに流れて来ませんように。
「仮にも勇者が殺し屋の真似事とは、なんとも嘆かわしいことです」
やれやれと首をふる鬼メイド。
かつて戦場の白雪と名を馳せた槍使いとしては、敵とはいえ相手の凋落ぶりに呆れているみたい。
「問題は今回の襲撃が誰の指図なのかということかと」とはルーシーさん。
「どういうこと?」わたしが意味をたずねたら、彼女はこう答えた。
「もしも依頼主からの指示によるものだとしたら、もはやことを穏便にはとても済ませられないということです。しかもいきなり勇者崩れを送り込んできていることからして、向こうが本気なのは明白です。ですが、意地になった仲介業者の暴走との可能性も残っており、こちらならばまだ救いがあるのですが」
ようはモランくんの殺害依頼を誰が出したのか? ということが問題。
仲介業者が面子を慮っての暴走ならば、一番簡単にことはすむ。こいつをプチっと叩けばいいだけのこと。
長男嫁側、長女旦那側、どちらか、あるいは双方の外野の命令による凶行ならば、こちらもこいつらを叩けばいい。
だが最悪なのは嫁と旦那がことに加担していた場合。
完全なる殺人教唆。さすがにこれは見過ごせない。というか見過ごしてたら、どのみち親族同士にて血の雨が降ることになり、孫たちが次々と……なんて事態になりかねない。
これまでちょっかいを出してきた連中をひと通り締め上げたけれども、依頼主への糸が見事なまでにプツリと切れている。それどころか業者の特定すら至っていない。
生き馬の目を抜くスパイ業界に席を置いているだけのことはあるらしく、業者もしたたかにて、なかなか尻尾を掴ませてくれない。
いっそのことバカンスを切り上げてリスターナに戻るべきか。
襲撃もどんどん過激になっているし、いずれ周囲に迷惑が及ぶかもしれないから。爆破系とかやられたらたまんない。
その辺のことも踏まえて、一度、ビスコ家の老執事さんに相談することに決めて、わたしたちは亜空間に遺体を放り込んでから、あちらのみんなに処理を頼んで深夜の屋上をあとにした。
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