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176 血縁判定
しおりを挟む翌日、朝食後に早速、カーラさんのところに顔を出そうとしたら、あちらから使いがやって来て「すぐにモランくんを連れてきて欲しい」とのこと。
なんでも国元から待ちに待った鑑定士が到着したらしい。
これを受けてピコンとあることを閃いたわたしの灰色の脳細胞。アルバにごにょごにょと耳うち。ひと仕事を頼んでから、彼女とはあとで合流することにして、他のみんなで出かけることにした。
リリアちゃんたちには、たんにビスコ家から招待を受けたということにしておく。
使いの方に案内された場所は、以前にわたしがアルバと訪れたシビニング夫妻の宿泊先のホテルではなくって、山の高原地帯にある別荘だった。
なんでも国の持ち物らしくって、ある程度の高位の者なら事前に申請すれば、誰でも利用可能なんだとか。
ことはビスコ家の秘事に関わることだし、今回はこちらでということらしい。
ときには各国の貴人らを招いて華やかな夜会なんぞも開かれるという豪奢な別荘にて、わたしたちの到着を待っていた老夫妻。
カーラさんはソワソワとして、なんかかわいい。
ジジイはしかめっ面をいっそうしかめているので、ちっともかわいくない。
壁際にて控えている老執事のモルトさんは、あえて表情を殺して平然を装っている。
そして初めて見る小太りの中年男性が一人。ビスコ家とも古い付き合いがあって信用のおける人物にて、これがウワサの鑑定士らしい。
けれども、なぜだか汗をだらだらかいては、これをせっせとハンカチで拭っており、どうにも落ち着かないご様子。
「このおっさん、本当にだいじょうぶか?」というのが、わたしの率直な感想である。
いざ、鑑定! といっても、面と向かってじっくりとっくりなんて無粋な真似はしない。
なにせモランくんにはまだ事情の一切を説明していないので。
真偽が判明した後にカーラさんたちが肉親であることを打ち明けるのかも未定だし。
そこでリビングのソファーにみんなで腰かけ、お茶をしながらの歓談を装いつつ、チラチラと盗み見るかのようにしての鑑定作業となる。
でもしばらくしてから、鑑定士のおっさんが首を横にふる仕草をみせた。
これを受けて「あぁ、そんな」と悲痛な声をあげたのはカーラさん。シビニングのジジイも「そんなバカな!」と立ち上がり、鑑定士に掴みがからんほどの剣幕。
確信を持って臨んだ鑑定。なのに、よもやの否定判定。
これには老執事もおもわず手にしていたお盆を取り落とすほどの衝撃を受けている。
大人たちの態度の急変、その狼狽ぶりに事情を知らないモラン、リリア、マロンらはわけがわからずに、きょとんとなるばかり。
けれども、わたしとルーシーはちがった。
冷ややかな視線を青い顔をして小刻みに震えている鑑定士にじっと注いでいる。
そのタイミングにて懐のスマートフォンっぽい通信端末がぷるぷる。
相手はアルバにて、出がけに頼んでおいた用件の手配が完了したというので、早速、実行に移してもらう。
亜空間が開いて、姿をあらわしたのはトカードの五人の勇者のうちの一人。眼鏡っ子のヨシミさん。あいかわらず、美味しそうなたわわな果実を引っ提げている。
彼女はわたしが知る限り、最高レベルの鑑定眼ギフトの持ち主。
これがアルバに頼んでいたこと。宇宙戦艦「たまさぶろう」にてひとっ飛びしてもらい、亜空間経由にて彼女をこの場に召喚したのである。
「いきなりごめんね、ヨシミさん」
「いえ、アルバさんよりだいたいのお話は伺っていますから。それにリンネちゃんにはいつも美味しいチョコとかたくさん頂いていますし、これくらいはお安い御用です。それでこちらの彼とあちらのご夫婦の関係ですよね……。えーと、はい、まちがいなく血縁関係にありますね。お父さま系列の、いわゆる祖父母と孫の間柄で間違いありません」
はい、出ました。ちがう判定結果。
これを受けてジジイが鬼の形相と化し、充血した目ん玉をギョロリ。
睨まれた小太りの鑑定士は唇を真っ青にして、ついに泡を吹いて倒れた。
終始おどおどしていたし、明らかに挙動不審。たぶん小心で根は正直な人なんだと思うよ。
この分だと誰かに鑑定結果をねじ曲げるように強要されたのかな?
では、どうしてわたしがこんな事態を予測できたのかというと……。
ぶっちゃけ、単純に、わたしならばそうするから。
いや、だって、判別方法が鑑定なんていう希少な個人の能力に頼る以上は、そこさえ押さえてしまえば結果なんて捏造し放題じゃない。悪徳古美術商のインチキ商法と同じだよ。まじめな大人ほど専門家の肩書に弱いもの。けっこう無条件に信じちゃうんだよねえ。
悪党どもと思考が似たり寄ったりなのは、いささか業腹ではあるものの、頭の中で考えるだけなのと、実際に行動に起こすのとでは雲泥の差がある。
ここんところ大切なんで、よくよく覚えておくように!
でもって、いきなり肉親絡みの事情を暴露されたモランくん。
あっちゃー、ヨシミさんに口止めをしておくのをすっかり忘れていたよ。もう、リンネちゃんてば、とんだおまぬけさんなんだから。テヘぺろ。
でもそんな心配はいらなかったみたい。だってモランくんってば、とくにとり乱すこともなく、案外、冷静だったんだもの。
数多の才能のみならず、肝まで据わってるとか、どれだけハイスペック。我ながら本当にいい拾い物をしたものである。
「いえ、内心ではとても驚いていますよ。ただ、お二方の雰囲気がなんとなく亡き父に似ており、どこか懐かしいとは感じていたもので。それに接するほどにその想いが強くなるばかりでしたから」
聡明な孫のこの台詞に、カーラさん感無量。ひしとモランくんを抱きしめる。
頑固ジジイ、天を仰いでグフグフ男泣き。鬼の目にも涙って、きっとこういうことを言うだね。
老執事もハンカチで目元を拭っている。
期せずして祖父母と孫との初名乗りの場面に立ち会うことになった、リリアちゃんはパチパチ拍手にて「おめでとう」と祝福の言葉を贈る。以前より彼の出自を疑っていたマロンちゃんは、「やっぱりね」とちょっと得意げであった。
やれやれ、これにて一件落着。
となればよかったんだけど、後始末がまだあるので、とりあえずヨシミさんにはお土産をたんと持たせてお帰りいただき、問題は泡を吹いている小太りの鑑定士。
これ以上は騒動を隠し通せないと判断した老執事に、主人夫妻への説明は丸投げして、わたしたちは鑑定士の方を担当することにした。
青い目をしたお人形さんが、「おら、とっとと起きろ」と小さな手で頬をビシバシ。
それでも起きないから、背中に冷たい水をぶっ込んでの強制覚醒。「ひゃん」と奇声を発して目覚めたおっさんを事情聴取。
まぁ、おおかたの予想通りにて、家族に危害を加えると脅されたり、「これはビスコ家のためだ」となだめられたりして、泣く泣く丸め込まれたと。
涙ながらに「すみませんでしたーっ」と土下座をくり返すおっさんの姿からは、微塵もウソが感じられない。映像に残して企業の謝罪会見のお手本として売り出したらきっとバカ売れしそうなほどに、全身全霊にて誠実さが溢れている。ノットガルドの謝罪の神さまはここにいたよ!
もともと鑑定持ちは、その能力ゆえに珍重されるかわりに、トラブルにも巻き込まれやすい。だから身辺にはわりと注意を払っているはずだけれども、それを潜り抜けて接近してきた時点で、相手はかなり近しい、もしくは顔見知りの犯行の可能性大。
はてさて、セーフ? それともアウト?
ビスコ家の命運やいかに!
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