わたしだけノット・ファンタジー! いろいろヒドイ異世界生活。

月芝

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177 爆門

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 ぐだぐだ結論を先延ばしするのもアレなので、サクッと言っとく。
 結果としてはセーフだった。
 事情を知ったビスコ家現当主シビニング・ビスコは激烈に怒った。それはもう火山の大噴火のごとく、そのまま頭の血管がぷっちんするんじゃないかと、見ているこっちがハラハラするほどのブチ切れ具合。
 で、鉄は熱いうちに打てとばかりに、その赤怒鬼とカーラさんと老執事のモルトさんに目隠しをして、半ば強引に宇宙戦艦「たまさぶろう」へと収容。そのままビスコ家へ突撃!
 さすがにこちらの秘密を明け透けにするには、まだちょっと早いと思うから、そこはガマンしてもらった。
 いやー、でも行ってみて驚いちゃった。
 ビスコ家ってばミロナイト国の王族が降嫁したこともある名家なんだもの。つまりビスコの血筋にはミロナイトの王家の血も混じっているということ。
 なんだかモランくんってば、いろいろと持ってる子だったんだなぁと、あらためてしみじみ。
 それにしても屋敷、超でけえ。
 門扉から母屋の建物までが遠すぎてろくすっぽ見えやしない。とんでもない大金持ちじゃん! 家だって下手な小学校よりも大きい。そりゃあ、こんな極上のエサが目の前にぶら下がっていれば、血迷う阿呆も現れるというもの。きっと過去にはあれやこれやと血みどろエピソードがあったはず。
 金持ちケンカせずとかいうけれども、あれは外向きの話にて内向きでは、バチバチに殺り合っているにちがいない。きっとそう。いや、そうでないと庶民はやってられない。ぜひともそうであってくれ。(※リンネの偏見です。彼女のお金持ちに対するイメージの基本は、二時間サスペンスドラマに登場するようなドロドロのお宅)
 あとこんな暮らしをポイっと捨てられるオリバーさん、あんたも立派な阿呆だったのだろう。ちゃんとユーリスさんに実家のことを話しておけば、残された母子がいらぬ苦労をすることもなかったというのに。
 でも、そうするとわたしたちが出会うことも、リスターナへと流れてくることも、ユーリスさんがゴードンさんと結ばれることもなかったわけで。ムムム、これもまた結果オーライなのかしらん?
 あぁ、それからミロナイトってのは、ギャバナよりもずずんと東の遠方にある大国ね。
 ギャバナにも大使館を構えており、かつてギャバナで臨時に開催された勇者たちの交流試合の発端となる不用意な発言をしてくれた、ナクラさんていうちょびヒゲのおっさんが、その駐在員。
 これまでとくに接点のなかった大国だけれでも、いい伝手が出来たことだし、いずれはゆっくりと観光にでも訪れたいところ。しかしいまはとりあえず目先の問題を片付けないとね。
 といっても、ここまできたらわたしにやれることは、ほとんどない。
 だってあとはビスコ家の問題だもの。
 だから完全にお気楽観戦モードにて、野次馬根性丸出しにてことの顛末を見守る気まんまん。

 貴族は、それも高位になればなるほどに当主の権力が絶対。
 ひと声、ワンと吠えたら、たちまち親族一同が何を置いても駆けつけてくる。
 とりあえずお子さまたちは、リリアちゃんとマロンちゃんが引き受けて、別室へ移動。醜い大人たちの顔なんてわざわざ見ることないしね。それに自分たちのお父さんやお母さんが説教されている姿なんて、絶対に見たくないだろうし。なお念のために警護にアルバとルーシーの分体たちをつけておいた。
 モランくんは当事者なので居残りを命じられ、集ったみなの好奇な視線に晒されて、なんとも居心地がわるそう。
 わたしとルーシーは彼の隣にて付き添いとして立ち会う。
 で、みんなの前で息子の嫁と娘の旦那を「バッカモーン!」と一喝したジジイ。
 空気がビリビリ震えて、部屋全体にカミナリが落ちたかのよう。
 なんて見事なカミナリオヤジっぷり。
 おかげで全員が巻き込まれて被害を受けることに。しかし慣れているのか、カーラさんや老執事、実の息子や娘らはちゃっかり両耳を手で塞いでいやがった。もうっ、そういうことは前もって言っておいてよね!
 お叱りを受けた二人が顔面蒼白になったのは言うまでもない。
 けれどもこの二人、ジジイより厳しい叱責を受けるも、「モランくんに刺客を差し向けた件」に関しては頑なに否定。確かに跡目争いにて無駄に競いはしていたけれども、暗殺とか非道な行為を命じた覚えは断じてないと揃って明言する。
 ふむ。観ているかぎりだと、その言葉にウソはなさそう。少し後ろに下がって冷静に観察してみれば、兄嫁も姉旦那もいささか子煩悩なだけで、あんまり悪人のようには見えない。暗殺とか後ろ暗いことに手を染めるような陰鬱な影がないというか、どちらかというと「上等だ、かかってこいや」「おうとも、やってやらぁ」な気質っぽい。
 相手の足を引っ張ることよりも、自力をあげることに血眼になるマジメなタイプ?
 というか、そもそも彼らはモランくんの存在すらも知らなかったことが、ここにきて発覚。
 情報が彼らのところへ届く前に握り潰され、悪意ある第三者によって都合よく利用されていたみたい。
 どうやら最悪の事態は回避されたようで、わたしは内心でちょっとホッとする。
 だって散々に苦労を重ねてきたモランくんなのに、ようやく出会えた親族が血みどろで殺し合いとかしていたら、あまりにも哀しすぎるもの。
 で、最後にして最大の問題なのは、「誰がその悪意ある第三者なのか?」ということ。
 混乱に乗じ、あわよくばうまい汁をちゅうちゅう吸おうと画策した輩がこの中にいる!
 ここまで話が進めば、次は犯人捜しとなるのが自然の流れ。
 そんなことは犯人もよくわかっているわけで、当然のごとく逃げるために何のかんのと理由をつけては席を立とうとした男が一人。
 一族の後ろの方にて、出入口に一番近い席に陣取っていたその男。
 気障ったらしい格好をしたにやけ面の青年。なんとも小狡そうにて、いかにもダメな金持ちのボンボン。私財を消費することにばかりかまけて、ついには借金にまで手を染め、にっちもさっちもいかないといった風。
 素人探偵リンネの、ちっとも頼りにならない審美眼にすらも、「あー、こいつ犯人」と思わせるフレグランスを全身からまき散らしている小悪党。いや、暗殺実行を命じている時点で、立派な大悪党か。

 四つん這いにてそろりそろりと扉へと向かう男。わたしはその背後へと忍びより、ケツを蹴っ飛ばす。
 ツンと突き出された右のつま先に込められしは、せっかくのバカンスを邪魔してくれたことへのうらみのパワー。
 サッカーマンガばりに大きく振りかぶってからの、スコーピオン断罪トゥーキック。「爆ぜろ! 菊門。天誅でござる」
 ジャストミート。いったね、親指のつけ根ちょい過ぎぐらいまでグサリと一気にトンネル開通。
 声にならない悲鳴をあげた男悶絶。
 かくして悪は滅びた。
 仲介業者に関してはあえて放置してあげる。そのかわりに盛大に失敗したことを宣伝してあげるけれどね。あとは厳しいスパイ業界のライバルたちが勝手に淘汰してくれるだろう。
 地に落ちる信用、加速する客離れ、積もる不良債権、潮が引くように離れていく友人知人、そして押し寄せるオラオラ系のお兄さんたち……。
 ククククク、背後からひたひたと迫りくる倒産の気配に、せいぜいおびえるがよいわ。


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