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188 原液
しおりを挟む死にかけの白い飛竜と、意識を失っている銀髪のトリの巣頭の幼女を保護したわたしたちは、騒ぎが大きくなる前にこれらを亜空間内に収容し治療を施しがてら、リリアちゃんらと合流。
バカンスの予定を急遽一日繰り上げてアルチャージルを離脱。
すぐさまリスターナへと帰国する。
救助した幼女は、よほど疲れていたのか昏々と眠り続けること丸二日。
やたらとうなされており、ときおり「おかあさま」「ブランシュ」などと寝言を口にしていた。
白い飛竜とちがい彼女には目立った外傷もなく、やや脱水症状ながらもそれ以外は問題なしとの診断結果。それでも一向に目覚めなかったので、やきもきしていたところ、ようやくお目覚め。やれやれ、ほっと胸を撫でおろす。
開口一番、幼子が発したのは、ずっと自分を乗せてがんばってくれた白い飛竜の安否をたずねる言葉だった。
「この子、いい子だなぁ」わたしは感心するのと同時に、ものすごーく困った顔となる。
それを見て、何やら不安になったらしく幼女が泣き出しそうになった。
わたしはあわてて手をふり「ちがうの、元気だから、むちゃくちゃ元気だから」と言ってなだめる。
「ほんとう? ブランシュだいじょうぶ?」
「大丈夫、大丈夫、リンネちゃんウソつかない。ところでお姉ちゃんは、あなたのことをなんて呼んだらいいのかなぁ」
「あたい? あたいはノノア。ノノア・ルミエール!」
はるばるウインザム帝国から飛竜を駆ってやってきたという幼女。
上目遣いにてこちらをおずおずと見つめる円らな瞳。ルビーを清廉な岩清水で薄めたかのような色をしており、とっても澄んでいてキレイ。そこに浮かんでいるのは「すぐに会いたい」というお願い。
それも無理からぬことなのだが、わたしがなおも渋ると、またもや雲行きが怪しくなってきたので、ついに覚悟を決めて彼女をブランシュのところに連れていくことにした。
で、待望の再会をはたした幼女。
お口をあんぐりにて、第一声が「あれ? なんかでっかくなってる」
そう、白い飛竜はでっかくなった。
どれくらい大きくなったのかというと、飛竜の通常個体がドラゴン級にサイズアップ。わかりやすく言えば元の大きさから二倍強ぐらいに、スクスクと育ってしまった。
というか、見た目はまんま白いドラゴンっぽい容姿。
全身傷だらけにて血もずいぶんと流しており、気力も体力も使い果たし、どうにか役目を終えたことで、そのまま昇天しそうだったブランシュ。
そこで大量に投入されたのが「だいたいよくなるポーション」の原液。
じつはこれまでに使用されていたのって、十倍に希釈したもの。ちなみに栄養ドリンクやらアルバが鍛錬の合間に飲まされている怪しげな飲料は、二十倍希釈がベースとなっているらしい。
「どのみちこのままだとギリギリだから。カラダも大きいし、きっとイケるだろう」というノリでじゃんじゃん投薬。
大きな口を無理矢理こじ開けて管を突っ込んでの経口摂取だけじゃなくって、原液プールに放り込み、点滴状態にて体内にも直接ガンガン注入。
内より外より超回復を図った結果、なんだか形態がドラゴンっぽいのに変化した。
それどころか通常のドラゴンなんぞとは比べものにならない知能の高さをも備えていることからして、ルーシーをして「もはや新生物。よし、超竜と名付けよう」と言わしめるほど。
これにはリンネ組の医療班や研究チームがおおいに色めき立つ。
「だからって、勝手に生物実験とかするなよ! ぜったいにするなよ!」
いちおう釘はさしておいたが、はたしてどこまで抑止力が働くかは、怪しい。
そんなわけにてわたしはノノアの反応が怖くって、ブランシュと会わせることを躊躇していたのだけれども、それはいらぬ杞憂であったようだ。
すっかり立派になったブランシュを前にして、ノノア「すっげー」と大はしゃぎ。
ちょっとぐらい姿形が変わったところで、彼女たちの友情にヒビが入ることがなくって本当によかった。「こんなのブランシュじゃない。わーん」とか泣き出されたらどうしようかと、こちとら内心でずっとドキドキしていたよ。
ブランシュの側を離れたがらないノノア。
まぁ、ここはルーシーの亜空間内なので、それでも別に問題はないから、食事を与えてからしばらく好きにさせることにする。
現時点においてノノアの口から語られたのは、彼女の名前と出身地のみ。あとは白い飛竜のことぐらい。
あの登場の仕方からして、ただごとではない事情があるのは明白。
とりあえず出身国の情報が欲しいので、わたしはギャバナのライト王子に連絡をとることにした。いやはや、持つべきものは情報通の友人ですな。
「……ってなわけで、ウインザム帝国について教えて」
スマートフォンっぽい通信端末で連絡を入れ、ちゃっちゃと事情を説明したら「おまえなぁ」と呆れながらも、ライト王子はいくつかの有力な情報を教えてくれた。
「帝国のことか……。どうやらまだそちらには情報が届いていないようだな。現皇帝ダンガー・ル・ウインザムが退位を表明したそうだ。まぁ、ずいぶんと長いこと在位なされていたし、第七十九次聖魔戦線が停戦したのを期に退かれる英断をしたようだ。なんともいさぎよい身の処し方にて、あちこちで無駄に居座り続ける年寄りどもも、少しは見習ってもらいたいものだな。また、これにより次期皇帝選定の儀が始まるので、停戦直後だというのに帝国は大さわぎだ」
帝国どころか、周辺やら関係各国でも水面下での動きが活発になっているという。
誰について、誰を切り捨てるのか。これにより自身の栄達もおおいに変動する。ゆえに次世代の見極めが始まっているそうな。
「ところで保護した娘の名前はノノア・ルミエール。髪が銀色でまちがいないのだな? それから白い飛竜も」
「うん。そうだけど、ひょっとして心当たりがあるの」
「あぁ、おそらくだがその銀の髪の娘、星読みの一族の者だ。あそこには珍しい白い飛竜がいると聞いたことがある」
「星読みの一族?」
「くわしいことは不明だ。帝国の秘事に関わるらしく、あまり公に情報が出回っていないんでな。ただこの時期にその娘が国外に飛び出してきたというのが、どうにも気になるな」
星読みの一族の長は、帝国の首脳陣である最高評議会の外部顧問のような役割があるらしく、次期皇帝の選定にもそこそこの発言力を有する。
ライト王子が「この時期に」と気にしたのは、そのこと。
明らかに逃げてきたことといい、その辺のことが絡んでいるのではないかと王子は心配する。超大国の跡継ぎ問題なんぞに関わったところで、ロクなもんじゃないから。
「とにかくこちらでも情報を集めるから、あまり早まったことをしてくれるなよ。なにせ相手は帝国だ。経済規模だけでもうちの八倍はある。おまえのところの連中ならばチカラでねじ伏せることも可能だろうが、戦いはなにも武力のみで行われるものではない。やりようはいくらでもあるのだから、くれぐれも軽挙妄動は慎むように。それから何か行動を起こすまえには必ずルーシー殿に相談しろ。いいな、わかったな」
いちおう協力してくれるみたいなことを言ったのちに、最後にちょっぴりお説教をオマケしてライト王子は通信を切った。
相変わらずわたしに対する信頼度が低い。というか行動することが前提のような言い草。
青い目をしたお人形さんに対するのとはえらいちがいだよ。
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