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189 星読みの神殿
しおりを挟むノノアが落ち着きをとり戻したのを見計らい「ところで、どうしてアルチャージルに飛んできたの?」とたずねたとたんに、ノノアが「あーん、おかあさまー」とピーピー泣き出してしまう。
母親の安否に関わることだったらしく、ものの見事に地雷を踏み抜いたわたし。
だが、問題はそれだけではない。
とっても困ったことに、ノノア自身もまた自分がどうして送りだされたのかを、よく理解していないらしいのだ。
何度たずねても母親から「アルチャージルにいる人形連れの女勇者に会え」と言われたとくり返すのみ。
念のためにブランシュにもたずねてみたが、「キュイ」と鳴いて首をコクコク。
言葉は話せないけれども、こちらの言うことは理解しているみたいだが、やはり明確な解答は得られない。
ノノアのお母さんはベル・ルミエールさんという方らしいのだが、当方とは一面識もない御方にて、いきなり子どもを預けられたこちらとしては困惑するばかりである。
「なんてこったい。どうやら自分でも気づかぬうちに、カッコよくて出来る女勇者の評判が遠い帝国にまで伝わっていたようだ。いやぁ、まいったまいった」
真剣な面持ちでわたしがそうつぶやくと、青い目をしたお人形さんが「それだけは断じてありえない」とこれまた真剣な調子でつぶやき返した。
鬼メイドのアルバまでもが神妙な面持ちにて「うんうん」頷いている。
二対一にて、わたしの「いよっ! イケてるね。リンネちゃん」説は却下された。
が、そうなるとわからないことだらけにて一同、揃って首を傾げることになる。
話から察するにわたしがご指名を受けたことはまちがいない。
そうそう人形連れの女勇者なんてものがいるとも思えないし。
でもその理由がやっぱりさっぱり。いくら考えてもわからん。
というわけで、どのみちノノアのお母さんであるベル・ルミエールさんのことが心配なので、とっととウインザム帝国にある例の神殿に行ってみることにした。
ライト王子からは「くれぐれも軽挙妄動を慎むように」と言われたけれども、そんなことなんぞ、ぬるっと忘れてやったわ。
文句があるのなら、母を恋しがって泣いている幼女をサクサクあやしてみせろってんだ。
なにせわたしをはじめ、リンネ組が全滅した超難題だからな。
アカシックレコードにて検索をかけたルーシーであったが、掲載されていたのは「一発ギャグで笑わせろ」とかいうふざけた情報だったそうで、早々にギブアップ。
鬼メイドのアルバが「たかいたかい」をしてあやそうとするも、身長三メートルの鬼女のソレは、リアルに高すぎてよけいにピーピー泣かせるハメとなる。
セミ人間のグランディアたちは、その節々した姿をチラリと見せただけで大泣かせ。容姿のみで幼女から嫌われたことに、地味にへこむことになる。
アリ人間なオービタルたちは特撮ヒーローのような見た目を活かして、即席でヒーローショウっぽいのを披露するも、バトルシーンがあまりにも迫力があり過ぎて、やっぱり怖がられることに。お客が小さな女の子だということを忘れたのが敗因だな。
その点、ハチ人間っぽいセレニティたちは女系家族ゆえに子育て経験が豊富。だから余裕しゃくしゃくにて一冊の絵本を手に登場。だがしかし、それが作戦コード「かると」関連の書籍だったので、わたしがあわてて止めたので、没収試合となる。
多脚砲台に乗った魔導書や神殺しの剣テュルファングも、あまりの得体の知れなさと馴染みのないカクカクした動きにて、近づくことなく気味悪がられて轟沈。
竹姫ちゃんにもちょっと顔を出してもらったが、幼女は植物系もダメらしい。
おもいのほかに箱庭育ちの箱入り娘なノノアちゃん。人見知りというか、種族見知りがけっこう激しい?
唯一、マシな反応を示したのは竹犬ぐらいという体たらく。
これまではわりと小さなお友だちからも人気であったリンネ組の面々が、まさかの全滅。「子どもの相手ぐらい楽勝」とか自惚れていてごめんなさい。
こうなれば総力戦だと腹をくくり、ついには恥を忍んでカネコにも出馬してもらった。
ヤツは巨大なネコ型種族。生産性には乏しいものの、そのモフモフ具合はクセになり、おおいに癒されると愛好家から評判。もちろんリスターナの子どもたちにも大人気だ。
だからさすがにこれにはメロメロとなるだろうと考えたのだが、甘かった。
すでにその頃にはすっかりヘソを曲げていたノノアちゃん。「イヤイヤ」と駄々をこね、ぶちぶち尻尾の毛をむしるという暴挙に出て、カネコが悲鳴をあげて逃げ出すことになる。
ついに根負けしたわたしが「じゃあ、お母さんのところに行こうか」と言って、ようやく笑顔を見せてくれたというわけさ。
よって誰にも文句は言わせん!
それにいちおうはライト王子の言いつけを守って、ルーシーにもお伺いを立てた。
青い目をしたお人形さんも「しかたがありませんね」と納得したんだから、いいよね。
宇宙戦艦「たまさぶろう」にいつもよりも更にギューンとかっ飛ばしてもらい、神殿上空へと到着したのは夕闇迫る時刻。
麓の村にはポツポツと明かりが灯り、炊事の煙がいくつもあがっている。
そちらは平穏そのものといった雰囲気ながらも、一転して神殿の方は静まりかえっていた。
神殿の正面入り口に降り立つわたしとノノアちゃんとルーシー。
ブランシュとかアルバはたまさぶろう内にて待機。
なにせブランシュは超竜と化しちゃってるので、デカいし目立つし相手を驚かしかねない。
アルバは鬼メイドだし、つい先ごろまで魔族とバチバチに殺り合っていた国をうろつくと、やっぱりデカいし目立つ。
いらぬ騒動を避けるためのこの配慮。
「こんばんわー、ごめんくださーい」
ぽっかりと開いた入り口から、奥に向けて声をかけるも返事はなし。
夕闇に染まり次第に陰影が濃くなっていく石造りの建物。
眺めているだけで、なにやら寒々しいものを感じ、おもわず身震いしちゃう。
「いつもこんな感じなの?」
わたしがたずねるとノノアちゃんは首を横にふるふる。
ふだんは必ず神官やお手伝いの人がいるとのこと。
いるはずの者がいないこの状況。
ムムム、こいつは面妖な。
みんなノノアちゃんのお母さんと一緒に連れ去られたのか? あるいは意図的に退去しているのか? それとも立ち入り禁止?
虎穴に入らずんばとも言うし、とりあえずお邪魔してみることにするか。
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