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199 六番目と最凶ふたたび
しおりを挟む鉱山地帯の日没は早い。ゴツゴツした稜線が影絵のように映っていたとおもったら、じきにすべてが濃い墨汁をぶち撒けたようになる。
宵闇の中を悠然と廃坑へ向かうわたしとルーシー。
そこかしこに設置されてあるかがり火の明かりに照らされ、その姿が浮き彫りになると当然のごとく警備の者らが不審がって「何者か!」と武器を手に近寄って来ようとする。
も、数歩ほど歩いたところで、すぐさま崩れ落ちる。
空の上から飛来した光の筋に脳天を撃ち抜かれて息絶えるからだ。宇宙戦艦「たまさぶろう」からの精確無比なレーザー攻撃である。
ここにいる敵勢のうち、いったいどれぐらいの者らが聖騎士の企みを理解して悪事に加担しているのかはわからない。組織人として、ただ命じられるままに、それに従っている可能性の方がむしろ高いのかもしれない。
が、それらを個別に考慮する段階はすでに超えている。
帝都のど真ん中で爆破事件を起こし、どさくさにまぎれて母子をさらい、こちらに明確な殺意を向けた時点で、もはや情状酌量の余地なし。
いちいち撃つ前に選別なんてしていられない。だから気の毒だけれどもまとめて殺処分させてもらう。
うらむんなら、悪い上司に仕えることになった己の不運をうらみな。
ってなわけで、入り口周辺を固めていた連中をあっさり片づけてから、廃坑内へとお邪魔しまーす。
廃坑内はちょっとした迷路となっているらしいので、ここからはオービタルとセレニティたちにルーシーの分体らを付けて、先行させ露払いをさせる。
気分的にはこのまま丸投げしたいところだが、郎党を束ねる立場としては、要所要所のケジメはつけないと格好がつかない。だから聖騎士どもの相手はわたしが務めるつもり。
廃坑内のあちこちから聞こえてくる戦闘音や悲鳴を聞き流しながら、ゆるゆる歩くわたしとルーシー。
「騎士どもの装備類はいかがしますか」とのルーシーの言葉には「もちろん、すべていただく。残しておいても、どうせ悪用されるだけだろうし。資源は有限だもの。粗末に扱ったらバチが当たるよ。あと地底湖の方はどうなってる?」
「アルバ率いる回収班ががんばってくれているようで、進捗状況は六割弱とのこと。今夜中には総浚いが完了予定です。しかし塵も積もればなんとやら。帝国の長い歴史の分だけ、けっこうなお宝の量となりそうですよ」
「そいつはよかった。せっかくのバカンスなのに最後に邪魔されちゃったし、これぐらいのお駄賃がないとやってられないよね」
主従して臨時ボーナスの話にて盛り上がっていたら、先行していた一隊より報告が入る。「大扉を発見。内部に異様な気配アリ」
ちょうど地下へと向かう中間地点あたりにて、いかにも中ボスが待ち受けていそうな場所ゆえに、わたし自らが出向くことにした。
扉の先にあったのは、これまでのやや狭苦しい坑道内とはうってかわって、広い空間。岩肌の様子を見るかぎりでは天然っぽい。元からあった空間に少しばかり人の手を加えたようだ。掘り出した鉱石や運び込んだ資材などの一時保管に使われていた場所とおもわれる。
そこでわたしたちを待っていたのは「キシシシシ」という聞き覚えのある声。
なんとも人を小馬鹿にしたような笑いにて、聞く者をイラっとさせる相手は猫背の小男。第六の聖騎士イブニール。
星読みの神殿に続いての再登場である。
ただし今度は一人じゃない。
ずらりと同じ顔が五つも並んでいる。全員が寸分たがわず判で押したよう。同じ格好にて同じ凶悪なダガーの二刀流。野卑た「キシシ」もいっしょ。
そこまでお揃いならば言葉もハモればいいものを、そこだけバラバラ。
「まさか生きていたとはな」「おかげで借りを返せるぜ」「オレはあっちのキレイな目のお人形さんがいいなぁ」「オレもあっちがいいなぁ。女は削ぐところが薄そうだし」「オレもオレれも」
五人同時に好き勝手にしゃべるものだから、がちゃがちゃとやかましい。
あいにくとこちとら凡人につき、器用に聞き分ける耳なんぞもってないぞ。
でも悪口っぽいのはしっかり聞えたからな。
特に四番目のお前! お前だけはぜったいに泣かす!
わたしはルーシーに顔を近づけて、ちょいとごにょごにょ頼み事。
それを受けて青い目をしたお人形さんは後退し十分に距離をとり、静観の構えを見せた。
これに目つきがやや厳しくなったイブニール。
「おいおい、嬢ちゃん一人でオレたち全員の相手をしようってのかい? これまたずいぶんとなめられたもんだなぁ」
バカにされたと感じたのか、イブニールの声には若干のトゲが混じっている。
そんな彼らの足下にコロコロと転がってきたのは、小さな玉。
幼子の小指の先にも満たない、本当に小さな玉。だけれどもちょっと真珠っぽい艶もあって、なにやら高価そうに見えなくもない。
「うん? なんだコレは」
五人のイブニールの意識と視線が知らず知らずのうちに玉へと集まる。
そのタイミングでピカッと光って、地上に出現するは小太陽のごときかがやき。
この玉の正体は、わたしの右耳からとりだした光度ヤバめの照明弾である。かつてギャバナの勇者交流戦において、勇者アキラの眼をくらませ、まんまとその自慢の光の剣を奪わせた逸品。
まともに見れば一時的にだが視力が失われちゃう。
そんなシロモノを直視したイブニールたちは、当然のごとく目を抑えて「ぐぎゃあ」と悶えることになる。
「目がー、オレの目がぁー」「なんてことしやがる。このクソアマ!」「いきなり目つぶしとかありえねえ」「胸ナシ性悪女」「これが正義の味方を気取る野郎のやることか」
批難轟々、罵詈雑言の嵐、言いたい放題の五人組。
そのご批判は甘んじて受けよう。だがひとつだけ訂正しておく。
わたしは野郎ではない、ピッチピチの乙女だ。そしてさようなら。
ダブルファックユーからの、中指式マシンガンによる一斉掃射。
パラリラパラリラと穴だらけにして、決着。
だってポンポン跳ねまわるスーパーボール男になんて、まともにつき合っていたら時間がかかり過ぎるもの。だからちょっとヒドイかとも思ったけど、あっさり片づけさせてもらうことにした。
けれども……。
五つの骸がシュワシュワと泡になっていく。
つまりこれらはイブニールの分身体ということ。この中に本体はなし。
「ちっ、当たりなしのハズレクジだらけとか、とんだインチキだよ」
おもわず悪態をつくと「キシシシ」といやらしい笑みが聞えてきて、再び五人のイブニールが姿をあらわした。
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