わたしだけノット・ファンタジー! いろいろヒドイ異世界生活。

月芝

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208 使い道

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 薄暗い室内にて、ぼんやりと妖しいきらめきを放っていたのは、青い半透明な石碑。「青い心臓」と呼ばれるそれをまえにして、静かに佇んでいたのは銀の長髪の男。
 どこか恍惚とした表情の男が手をのばし、そっと石碑の表面に触れる。すると手の平越しにドクンという鼓動が伝わってきた。
 彼の背後の空間がゆっくりと縦に裂けていく。
 裂けた空間より姿をあらわしたのは白い仮面をつけた黒いミイラ男、第三の聖騎士ワルドである。ワルドが男に声をかけた。

「ゼニスさま。ラドボルグ殿はおそらく、もう……」

 ウインザム帝国、西の鉱山地帯にある廃坑の奥に一人残り、女勇者を始末すると言っていた第二の聖騎士。
 荷運びを終え、しばらくしてから様子を見に戻ったワルド。
 彼がそこで目撃したのは、すっかり変わり果てた地形であった。
 廃坑は埋まっており、山は崩れ、大地は窪み、あちらこちらに残る激しい破壊の爪痕。
 しばし周辺を彷徨うも、同胞の姿はどこにも見つけられなかった。
 報告を受ける間も、ゼニスのカラダはずっと青い心臓の方を向いたままにて、「そうか、ラドボルグは負けたか」とつぶやいただけであった。

「あの女勇者、いかがいたしましょうか」

 ワルドがお伺いを立てるも、ゼニスは「捨ておけ」と言った。「いまは何よりもまず『赤い心臓』の行方を追うことが先決」

 赤い心臓とは、この青い石碑と対を成す存在のこと。女神の神託を成就するためには必要不可欠なもの。
 その探索にずっと当たっている第五の聖騎士ストラノのところへ、ウインザム帝国の星読みの娘より得た情報をすぐに届けるように命じられて、頭を下げたワルドは出現してきた時と同じようにして姿を消した。
 ちょうどそれと入れ違いになるタイミングにて姿をあらわしたのは、灰色の髪の老婆。背筋をしゃんとして静々と歩く姿に品がある小柄な彼女は、第四の聖騎士リネンビ。

「右肩をヒドクやられており血も流しすぎにて。ジョアンはしばらく使い物になりません」

 青い心臓といっしょに担ぎ込まれた第八の聖騎士ジョアン。その治療結果の報告をしにきたリネンビ。

「イブニールの小僧もジョアンを傷つけたのと同じ女勇者に殺されたとか。大の男がそろいもそろって小娘一人にいいようにやられるとは情けない。聖騎士もずいぶんと焼きが回ったものです」

 不甲斐ないと同胞らの失態を嘆く老婆。
 そんな彼女にゼニスは淡々とした調子にて告げた。

「……二人だけじゃない。どうやらラドボルグもその女勇者に殺られたらしい」

 これを聞いてリネンビは「まさか!」と声をあげ、驚愕の表情を浮かべる。

「小僧どもだけならばともかく、よもやあのラドボルグ殿まで遅れをとったというのですか! 最初にグリューネから報告を受けたときから、何やらイヤな予感がしておりましたが、こういうことだったのですね。わかりました。それならばその女勇者はわたしが」

 このまま放置すれば自分たちの障害にしかならないので、すみやかに処理すべきだと主張するリネンビ。
 しかしゼニスがうなずくことはなかった。それどころか「放っておけ」と言う始末。
 いつもならばゼニスの言葉に逆らうことなく、言われるままに従うリネンビだが、九名中、すでに三名の聖騎士は命を落とし、一人は重傷という状況を鑑みて、あえて「しかし」と異を唱える。
 それに対してのゼニスの返答は「その女勇者にも使い道がある。いましばらくはこらえてくれ」というのみであった。
 だがその肝心の使い道については教えてくれない。
 会話を打ち切り、ふたたび意識を青い石碑へと向けるゼニス。
 第一の聖騎士にして女神の神託を受けることを許された選ばれし者。唯一無二である盟主の説明に、リネンビはしぶしぶ引き下がるしかなかった。



 真っ直ぐにのびた無人の長い廊下を一人歩いていたのは、ゼニスのもとを辞去したリネンビ。
 その表情はもの憂げにて、ずっと何ごとかを考え込んでいる。

「ゼニスさまはああ仰られたが、いったい何を考えておられるのか……。それに例の女勇者、やはり気になりますね。とりあえず我らに仇なす者の情報だけでも集めておくとしましょうか。時が来ればいつでも始末できるように、準備だけでも整えておくとしましょう」

 いちおう表向きはゼニスの命令に従うことにしたリネンビ。
 だからといって、ただおとなしくしているつもりはない。

「グリューネは自分が倒すと息巻いているけれども、相手はあのラドボルグ殿をも倒した勇者。えたいの知れない飛び道具を使うとの話ですが、あの子にはいささか荷がかちすぎているでしょう。きっとジョアンも再戦を望むでしょうけれども、ここは確実を期して、やはりわたしが出るべきでしょうね」

 いざともなれば自分の考えで、主命に背いてでも勝手に動くことをリネンビは密かに決意する。
 心の迷いが晴れたせいか、廊下にひっそりと響く足音は、やや軽やかとなっていた。


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