わたしだけノット・ファンタジー! いろいろヒドイ異世界生活。

月芝

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209 戦勝記念館

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 ここのところリスターナに商取引以外の訪問客が増えている。
 こんなご時世につき、わざわざ外国を遊興するなんて、そこそこの富裕層。
 おかげで落としてくれるオカネもけっして少なくないので、経済的にはありがたい。ありがたいのだ……。
 それがギャバナのバカップルの恩恵というのが、わたしはどうにも納得がいかないっ! ぐぬぬぬぬっ。

 かつてリスターナの空を舞台にして行われた、ギャバナとカーボランダムとの空中大決戦。
 わずかなギャバナ軍を率いて見事に劣勢を覆し、これを撃退したことになっている、メローナ姫と勇者アキラの二人。
 真実はまるっきりちがうのだが、ギャバナとリスターナ両国の取り決めにて、対外的にはそういうことにしてある。
 捏造英雄の二人。中身はざんねんだけれども、外身はいいので、遠くから眺めている分には問題ない。大衆の多くはその外面にコロリと騙されている。
 そんな騙されている大衆からすると、リスターナは自分たちが敬愛してやまない英雄たちが、勇敢に戦い勝利した栄光の地。伝説の足跡を残す場所のようなもの。
 その足跡を辿る旅。いわゆる聖地巡礼というやつである。
 だが、わざわざ足を運んだところで、ここは辺境のド田舎の小国。
 国内は地味に整っているけれども、娯楽には乏しい。
 戦場跡とかいっても、あるのは野原と荒地と、のどかな田園風景ばかり。
 それでも熱心なファンたちは満足していた。この平和をメローナさまたちが守ったんだと、勝手に脳内補完して自己完結。感無量にてなんだかジーンとなっていた。
 でも、世の中の大半はミーハー揃いにて、にわかの大群。
 それらがのほほんとした風景なんぞに納得するわけもなく、密かに不満の声が水面下で増幅。
 わたしの個人的な意見としては「知ったこっちゃねえ」であったのだが、この不満の増幅を見過ごすと、いずれはリスターナへの風評被害となりかねないとの指摘をルーシーさんから受けて、しぶしぶ対策に乗り出すことになる。

 とりあえず戦場跡とされる場所に、それっぽい記念碑を立てた。
 ついでにそれっぽいポーズをした二人の銅像も飾った。
 造形はセレニティたちに頼み、制作はグランディアたちに任せる。彼らは芸術性にも富んでいるので、実物よりも八割強は盛られた立派な銅像が仕上がった。
 勇壮なアキラ像に寄りかかるように肩を抱かれているけれども、ともにしっかりと大地に立ち、前を見据えている可憐で健気なメローナ像。
 わたしにすれば「誰だこれ?」と首を傾げるほどに、実物とはちがう出来栄えながらも、観光客には好評だ。
 敷地内に併設されてあるお土産物屋では、これを模したお土産用の置物も大人気。
 しかしお土産物人気ランキングの一位は、二人の肖像画を印刷したダサいシャツ。白地に胸のところにでっかいピンクのハート、そのど真ん中にて微笑む男女。
 冗談で作った品がまさかの売り上げトップ。これには現場も困惑を隠せない。わたしならばこんなのを着ているところを誰かに見られたら、たぶん迷わず己のノドを真一文字にナイフでかき切る。
 思いのほかに押し寄せる観光客。順調に伸び続ける客足と収益。
 でも、記念碑と銅像だけでは、観光地としてはどうにもインパクトに欠ける。
 そこで戦勝記念館も建てた。内部には捏造資料のオンパレード。想像と妄想と創作のツバサをはためかせて、やりたい放題。たぶんこの館内で本当なのは、メローナとアキラの名前ぐらいじゃなかろうか。
 飛竜や飛行機などが入り乱れる空戦の様子を疑似体験できるアトラクションも設置。
 カーボランダムのゼロ戦に似せて作られた乗り物。コクピット席に乗り込みコインを投入すると、ガタンゴトンと揺れはじめ、同時に周囲の壁に映像が映し出されるという仕組み。
 映像の作り込みとか機体の挙動とか甘々なので、ルーシーいわく「しょせん子どもダマし」なのだが、それに大人たちが列をなし、夢中になってはしゃいでいる姿はなんとも滑稽である。
 物珍しさもあってか、国内外からも客が集まり、客層はより幅広く老若男女へと。
 それに合わせて施設や設備も拡張。どんどん規模が大きくなっていく。

 ある日のことだ。
 わたしが館内を見回っていると、小さなお子さま連れの若夫婦を見かける。
 一家は揃って、例のアトラクションに乗ったらしいのだが、子どもが驚いてピーピー泣き出してしまったらしい。これをどうにかあやそうとしていた。
 この微笑ましい光景を見て、わたしはおもった。「あー、小さい子が楽しめるヤツも必要だよね」
 そんなわけで館内および敷地内を、小さな電車が走ることになった。
 ウインザムの帝都にあったちんちん電車っぽいやつのミニチュア版。
 速度はあまり出ないけれども、お子さまたちには大人気となった。

 あるときカップルで来訪している客を見かける。
 二人して熱心に銅像を拝んでいた。捏造英雄にあやかって二人であっちっちというわけさ。
 続けて銅像脇に作った「願掛けの井戸」にコインを投げ込むカップルたち。
 もちろんこいつも捏造だ。ご利益なんぞ微塵もない。でもありがとう。寄付して頂いたオカネは恵まれない子たちのために使わせていただきます。
 そんなカラクリになってるとは露知らず、いちゃつくカップル。
 その姿にムカついたけれども、わたしはおもわずこうつぶやく。「カップルといえば、やっぱり観覧車デートかなぁ。やったことないけど……」
 次の日になると敷地内に高さ三階建て位のかわいらしい観覧車が出来ていた。
 ゴンドラを吊るした巨大な輪っかが、ただグルグルと回るだけの乗り物。だというのに、ほどよい狭さと密着度、ゆったりと過ぎる時間、見える景色に独特の雰囲気を求めて、連日カップルが押し寄せて大盛況。長蛇の列をさばくために、気づけば観覧車の高さがずんずんと伸びていき、十階ぐらいにまでグレードアップしていた。
 夜になると点灯するライトアップがとってもキレイ。
 そしてこんなことを無軌道にくり返していたら、いつの間にやら戦勝記念館を中心とした遊園地が出来上がっていた。
 いまではリスターナでもっとも集客力のある人気スポットとなっている。



 賑わう園内の休憩コーナーにて腰を下ろしている三人の乙女。

「このソフトクリームって冷たくておいしいですね。リンネお姉さま」
「本当に……。これであのウソの館とムカツク銅像が無ければ最高なのに」

 ウワサを聞きつけて、お忍びで遊びにきたリリアちゃんとマロンちゃん。
 カツラにて髪の色を変え、帽子を目深にかぶり、庶民的なドレス姿の二人。
 それでもそこはかとなく漂う品の良さは隠しきれていなくって、ときおりすれ違った人が「アレ?」と首を傾げるなんてこともしばしば。リリアちゃんは救国の聖女として国民から絶大な支持を得ているので、うっかり正体がバレたらたいへんなのだ。
 なお二人ともに捏造英雄についての事情は知っているので、まずこの地を訪れた者たちが最初に足を運ぶであろう、戦勝記念館と銅像のところには寄りつきもしない。あの二人の本性を知る者の、これが正しい反応。

「まぁねえ。マロンちゃの意見にはわたしも賛成なんだけど、建前上はアレがあっての遊園地ということになっているから。だから見苦しいだろうけどガマンして。そのうち周囲に背の高い木でも植えて外から見えなくしちゃうから」とわたし。

 あまりの言い草に、二人はくつくつと笑って肩をふるわせる。
 つられてわたしもいっしょになってひとしきり笑ってから、腰を上げた。

「さてとお姫さま方、まずはどちらからご案内しましょうか」


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