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231 つながった線
しおりを挟む竹林に吹くやさしい風が、ゆらゆらと枝葉を踊らせ、穏やかな音色を奏でる。
これを耳にしながら、竹の葉茶をすすり、もっちゃもちゃと団子を食す。
竹姫ちゃんのところでゴロゴロしていたら、床に投げ出していたスマートフォンっぽい通信端末がぷるぷる。
相手はギャバナのライト王子だった。
「おひさしぶりー。また解呪の依頼? それともマコトくんがついに彼女から愛想をつかされて、フラれたとか?」
マコトくんというのはギャバナに所属している異世界渡りの勇者のこと。ライト王子の子飼いの隠密勤労青年。
いろいろあって長いボサボサ髪を失うのと引き換えに、けっこう歳の離れた幼い彼女をゲットした。私生活の充実ぶりにて、この頃ちょっと調子に乗っている。
だからわたしはひそかに「リア充、ハゲろ」と念じているが、いまのところ効果は見られない。
「いや、そっちの仕事の話じゃない。それにマコトの交際は順調だと聞いている。っと、そんなことよりも、おまえ、サクラという名前に聞き覚えはあるか」
「えーと、知り合いにはちょっと心当たりがないかなぁ。でも名前の響きからして、もしかしてご同業だったりする?」
「ああ、そのとおりだ。彼女も異世界渡りの勇者だ。じつは……」
大国ギャバナには関係各国から大使が派遣されており、多く駐在している。
その数うん十人。ちなみにリスターナに常駐しているのはトカード、ラグマタイト、ギャバナから派遣されている三名のみ。しかもみんなヨボヨボにて「田舎の空気サイコー」とか言ってるお年寄りだ。これが田舎と都会、マイナー小国とメジャー大国との差。
そんなギャナバにうん十人もいる中には、ベスプ商連合の大使も含まれている。
ベスプ商連合は、経済成長を第一に掲げる商人らの国。商売柄あちこちにパイプをもっているのは有名な話。
そこの大使を通じて、さる問い合わせがライト王子にきたという。
話の大筋はこうだ。
なんでも少し前に旧ダロブリン跡にて、勇者らが集った国が発足したとのウワサを聞きつけたので、ちょうど付近を巡回していたベスプ商連合の行商隊が足を運んでみた。
行ってみると、実際にそれっぽい集落が存在しており、多数の勇者らの姿もあった。
彼らは友好的にて無事に取引を終え、数日滞在ののち行商隊は出立する。
ところがその行商隊が隣国の森にて野営をしていたところに、サクラという女勇者が助けを求めて飛び込んできたという。
とにかく消耗が激しく、大怪我を負っており、尋常ではない様子。
勇者の国に滞在中、現地にて本格的な内偵とまではいかないものの、そこそこの情報収集をしていたので、彼女の名前と顔に見覚えのあった行商隊を率いる男は、懐に入ってきた窮鳥を保護することにする。
ふつうでアレば仲間であろう勇者の国に連絡を入れるところ。
だが商隊長は、しばし思案の後にこれをしなかった。なぜなら彼女が逃げてきた方角が、ちょうどそちらであったから。
自分たちが発ったのちに、あの地で何かが起こったのにちがいない。
そう直感した彼は、ひとまず彼女を保護下に置きつつ、しばし事態を静観することに決めた。
臥せって朦朧とした意識の中で、サクラがうわごとをくり返す。
彼女が口にしていたのは「リスターナ」と「リンネ」「ショウキチ」などという国や人の名前。
リスターナといえば、昨今、話題にこと欠かぬ奇跡の復興を遂げた国。
そして辺境の小国ながらも、大国ギャバナの後ろ盾を得ていることでも有名。
リンネという名には心当たりがないものの、ショウキチという人物は、自分たちを国境にまで見送ってくれた勇者。短いつき合いながらも、誠実そうな青年であった。
サクラのうなされ具合からして、ただごととはどうしても思われない。
これらの情報に、時間的なことや損得勘定を絡めて吟味した結果、商隊長はギャバナを通じて、リスターナに問い合わせをしてみることを選択。
彼としては大国を無視して庇護下にある小国に直接連絡を入れて、痛くもない腹を探られたり、ギャバナの機嫌を損ねたくないとの思惑もあったのだが、結果としてその配慮が、もっとも太く速く確実な線をつなぐことになった。
ライト王子から連絡をもらったわたしは、すぐさまルーシーに声をかけて発つ。
詳細はわからないけれども、この一件にはショウキチが関わっているらしい。
まえに旅立つ彼に向かって「何かあったら連絡をよこせ」みたいな威勢のいいことを言った手前、動かぬわけにもいかぬであろう。
リンネちゃんはそれなりに約束は守る女なのだ。
……にしても、当人じゃなくって、逃げてきた女からショウキチの名前が出たというのが気になるね。あのお人好しのことだ。またぞろ女性を庇って、ヒドイ目にあっていなければいいんだけど。
ライト王子経由にてベスプ商連合の大使館から、サクラという女勇者を保護している行商隊のだいたいの現在地を教えてもらったわたしは、宇宙戦艦「たまさぶろう」にてギューンと向かった。
宇宙戦艦「たまさぶろう」の艦橋内にある大型モニターに表示されている地上の映像。
岩と土くれだらけの砂埃の舞う荒地の中、真っ直ぐにのびた街道をゆくのは、装甲車みたいなモノを引いたサイみたいなケモノ。同様なのが鈴なりにて、周囲には物々しい格好をした強面どもが警備についている。
なんだか思っていたのとずいぶんちがう行商隊の一行。
ラホースのホロ馬車でぱっかぽっこ。そんなのんびりしたのを想像していたのに、実物はずいぶんと殺伐としている。まるで傭兵部隊の遠征のようだ。
まぁ、いまのご時世、各地を転々とするにはこれぐらいの備えも必要なのかと、わたしは納得して降下を開始。
空からいきなり降ってきた不審人物。
人形連れの小娘に行く手を阻まれれば、当然のごとく、行商隊はざわめき警備の者らはイキリ立つ。
でもわたしがきちんと名乗って用件を伝えたら、すぐに顔を見せたのはこの隊を率いる男。
時間的なことや、距離的なことなんかで、いろいろと驚いている彼を適当になだめて、すぐに例の女性のところに案内させる。
サクラという女勇者は荷台に設置されたベッドにて、包帯グルグル巻きで臥せっていた。カラダは傷で熱を持ち、白い布のところどころに滲む血の赤が、なんとも痛ましい。
「おもったよりヒドイね。これは『だいたいよくなるポーション』の出番か。ということでルーシーお願い。必要ならアルバも呼んでいいから」
「了解しました。すぐに治療を開始します」
「わたしはその間に、こちらの商隊長さんから話を聞いておく。というわけでここから先は男子禁制。ほら、さっさと出た出た」
商隊長さんやらここまで付き添っていた護衛の面々のケツを蹴飛ばし、全員、放り出してからわたしも外へ。
表で改めて挨拶を交わしてから、今回連絡を寄越してくれたことに礼を述べ、本題に移る。
「勇者の国って本当に作ったんだ。てっきり夢物語の与太話かと思ってたんだけど」
わたしがそう言えば、意外にも商隊長さんは「それについての認識は、間違っていないかと」と答えた。
「えっ、でも実際に取引をしたんでしょう?」
「しましたよ。だからこそです。なんといいましょうか……、彼らの意気込みは本物だと思います。熱量もあるし、リーダーのサキョウ殿もすばらしい御仁かと。しかしイチから国を立ちあげるとなると、自分にはどうひいき目にみても人材不足、準備不足が否めません。ごっこ遊びとまではいいませんが、明らかに時期尚早かと」
そこでいったん言葉を切った商隊長さん。
続きを口にすべきかどうか思案しているみたいだけれども、結局、腹の中にあるものをすべて吐き出すことにしたらしく、話しを続ける。
「実際に我々と交渉にあたったイツキさんという方がおられたのですが、自分の感触では、どうも彼は本気じゃないような気がしてならないのです」
「それはどういう意味なの? 交渉を任されるぐらいだから、集団の中でも結構な立場なんでしょう?」
「ええ、参謀に近い役割を担っている方らしく、中心メンバーとのことです。でも、だからこそなのですよ。言ってることは立派で筋も通っている。頭の回転も速い。みんなの信任も厚い。しかし自分に言わせれば、人物が薄いといいましょうか、底が浅いといいましょうか。これは各地を回って、いろんな方を見てきた経験による、あくまで個人的な見解なのですが」
「それでもかまわないから、教えて」
「イツキさんは……、というかあの手の人物は、とにかく大衆をのせるのが上手いのですよ。なにせ耳触りのいい言葉ばかりを吐いて、他者を否定することなく肯定するばかりですからね。なんとも気持ちがいいから、うっかりするとついその気にさせられる。それはそれで稀有な才能なのですが、ここに悪意が潜んでいるとなると話がちがってくる」
「そのイツキとかいうやつには、それが垣間見えたと」
「ええ。当人は上手に隠しているつもりのようですが、自分には彼がときおり仲間たちに向ける眼が、アレにそっくりに見えましたよ」
「アレ?」
「かつてダロブリンに巣食っていたクズどもです。あんな国でも仕事だから仕方なく付き合いがありましたけれども、アレはひどい。思い出すだけでハラワタが煮えくり返りそうです」
商業の第一線で活躍している男。
そんな彼が唾棄するような視線を持つものが中枢にいる集団。
こいつは、どう考えてもヤバイニオイがぷんぷんだよ。
その時、荷台の奥から「リンネさま、治療が完了しました」とのルーシーの声が聞こえてきた。
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