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235 狩り場
しおりを挟むミヤビを倒すも情報は得られず。
理由はこれまでと同じにて、彼女が完全にグロッキー状態に陥ったから。
もしかしたら召喚系ギフトは不遇職なのかもしれない。
そんな疑念を抱きつつ、わたしたちは諦めて先へと進む。
道すがら、ルーシーが「ヘンですね」と首をかしげた。
お人形さんが気になったのは敵の配置。これがどうにも奇妙。
そもそも勇者たちは百は超え、個の戦力としてはそこそこだけれども、数はとても充分だとは言えない。これっぽっちの人数で広範囲である国内のすべてを防衛するのなんてのが、もともとむちゃな話。
ふつうであれば国境付近に最低限の見張りを置き、敵の侵入に備えつつ、中央を固め、必要に応じて迎撃部隊を派遣するなどの対策がとられる。
なのに、実際には個々の能力に任せて、各地に分散するかのようにして配置されている。
これではまるで各個撃破してくれと言っているようなものではないか。
でもこの考え方は、何が何でも自分たちの居場所を守ろうとする者の思考。
もしも、そんな気がさらさらない人物が指揮をとっていたとしたら、見方はがらりと変わることになる。
サクラは言っていた。
どういうカラクリかはわからないけれども、イツキは奪うことのできないはずのギフトを奪える。そのためには勇者の心臓が必要らしい。自身を強化することに執着している彼は、己の欲求を効率よく満たすためだけに、勇者の国の建国なんていう途方もない計画を立ち上げた。
その偽りの夢はとてもまぶしくて、彼の真意に気づかぬままに、自分を含めた多くの者たちが、まんまとおびき寄せられてしまったと。
以上のことを踏まえて、ルーシーさんが導きだした答えは「狩り場の下ごしらえ」という最悪のものであった。
獲物を集めることには成功したものの、一度に複数の相手と戦うのはかなりのリスクをともなう。ここから先、ラクに確実に目的を達成するには一対一が望ましい。
そのため、より狩りやすいようにと獲物をバラバラに放ったのが、現在の状況。
建国に参加しているメンバーたちは、持ち場を与えられて各々が自分たちの国を守っているつもりになっているけれども、その実ここは彼らにとっては檻の中に等しく、イツキにとっては楽しい狩り場。
やがてこの最悪な予想が的中したことを証明するモノを、わたしたちは目にすることになる。
五人目に遭遇した勇者。
彼はすでに冷たい骸と成り果てていた。
しゃがみこんで死体を検分するルーシー。
「背後からの一撃にて、心臓をえぐりとられています。イツキの犯行とみて間違いないでしょう」
「夢の末路がコレとは、かわいそうに。それにしても心臓か……。もしかして勇者のギフトやチカラって、そこに宿っているのかな? たしか邪龍復活のときにバァルディアも似たようなマネをしていたでしょ」
「そうなのかもしれませんね」
生きた勇者はさすがにルーシータウンの研究所でも、まだ解剖したことがない。
ゆえにあくまで推測の域は出ないが、可能性が極めて高かろう。
それよりもこの状況……、おそらくイツキはすでに狩りを始めている。サクラが逃げ出したことを利用して、計画を実行に移したんだ。
この分では、おそらくショウキチは、もう……。
つい自分の口から出かかったその言葉を、わたしはムリヤリ飲み込む。
サクラから彼女が逃亡した時の経緯を聞いたときから、そのことはずっと頭の片隅にあった。けれども極力考えないようにしていた。諦めるにも結論を出すにも、まだ早すぎるから。
敏いルーシーは、わたしのこんな気持ちを察してか、いつもはズケズケ物を言うくせに、不自然なまでに彼のことには触れようとしない。
だからいまはそのやさしさに甘えることにし、わたしたちは先を急ぐ。
犠牲者を見つけるたびに、わたしたちの足取りは自然と速まっていく。
最初のを入れて計四名が、イツキの毒牙にかかっていた。
ただし発見されたのは、あくまでわたしたちの進路上のみにて。もしも他の地点でも同様の被害が出ているとしたら、いったいどれほどの数の勇者らが、すでに殺害されているのか想像もつかない。しかもイツキは仲間を殺すほどにギフトを獲得し、チカラを増していく。
これは……、さすがにヤバいかもしれない。
いや、わたしのことじゃなくって、お仲間の勇者たちの身がね。
正体を隠してこっそり犯行を重ねている分にはまだマシだけれども、イツキが充分にチカラを蓄えて「もう隠す必要がない」と判断してしまったら、オラオラ状態になって完全に暴走する。
そして誰もいなくなった。
とかいうバッドエンドは、ちょっと怖すぎるもの。
よって途中からルーシーを胸に抱えて、駆け足。スレンダーボディはムダにぷるんぷるん揺れないから、こういうときにはとっても便利。
「ねえ、ルーシー。もしもあなただったら、美味しそうなごちそうは先に食べる? それともあとのお楽しみに残しておく?」
ふと思いついたことを、わたしは走りながら腕の中にいる相棒にたずねる。
「ワタシですか? ワタシならば真っ先に食べますよ。現在は自分で選べますが、先のことなんて、どうなるのかわかりませんからね。惜しんだ挙句にあとで後悔とか、それこそ踏んだり蹴ったりじゃないですか」
ドライなお人形さんは、とっても刹那的な生き方をしている。だからいつも目の前のことに全力投球。
でも、のんびり屋さんなわたしは、わりとあとのお楽しみにとっておくタイプ。ケーキの上にのってるイチゴとか、チョコレートのプレートや凝った細工物とか、いつも一番最後にパクリ。
それでもって、イツキの場合はどうであろうか?
たぶんなのだけれども、彼もわたしと同じタイプのような気がする。
なにせここまで入念に狩り場を整えるぐらいなんだもの。
殺ろうとおもえば、これまでにいくらでも機会はあったはずだ。でもしなかった。そこに何がしかの理由があるのかもしれないけれども、たいそうな手間暇がかけられてあるのは確か。
ここまでがんばったのだから、少しぐらい感慨や余韻に浸りたいと考えるのが、人情ではなかろうか。
そうだと仮定して、では彼にとっての一番のごちそうは何? というか誰?
などということを考えているうちに、旧ダロブリン主都跡、現勇者の国の都という集落が見えてきた。
堀があり壁があり見張り台も建っており、それっぽく見えなくもない勇者たちの本拠地。
だというのに、お出迎えはなし。
堂々と桟橋を渡り、開け放たれたままの正門を潜るも、誰一人姿を見せやしない。
そこはまるでゴーストタウンのようであった。
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