236 / 298
236 ごちそう
しおりを挟む勇者の国の都。
規模こそは街に毛が生えた程度ながらも、内部には平屋や二階建ての建物が並んでおり、それなりに体裁は整っている。
なのに、人っ子ひとりいやしない。
通りに立っていると、ゴーストタウンに迷い込んだホラー映画の主人公にでもなったような気分にさせられる。
いや、隣に動くお人形さんを連れている時点で、わたしもおどかす側か。
どおりでいつまで待っても過保護なイケメンヒーロー役があらわれないわけだ。
などと自虐しつつ、周囲をキョロキョロ。
「これは……、いくらなんでも静かすぎる。すでに狩られたあとかな」
「わかりません。しかし戦いの痕跡らしきものがまるで見られないのは妙です。いくら犯人が身内で油断しているからとて仮にも勇者、みんながみんなあっさり殺られるとは思えません。またあっさり殺られたとしても、心臓をえぐり出せばけっこうな出血が起こります。血の跡とかニオイというものは、アレでやっかいでして」
わたしとルーシーは用心しつつ、通り沿いに奥へと向かう。
目指すのは中央にある一番大きな建物。えらい人がいるところって、たいていそうだから。
が、そこにも人影はなし。
かわりに地下へと続く階段を発見したので、降りていく。
「上とはずいぶんと造りがちがうね」
「おそらく元からあったのを利用したのでしょう。こちらは魔法により処置が入念に施されていますが、形式はかなり古いです。やたらと頑強そうですので、もしかしたらここが旧王城地下にあったシロモノなのかもしれません」
ここがウワサの発掘されたという地下金庫。
なるほど、このシェルターばりの深さと強度ならば、あの主都を消滅させた爆発にも耐えうるか。
らせん状に続く階段の先には、地の底を這うように真っ直ぐに伸びた廊下。
その最奥には大きな扉にて、いかにも「宝物庫ですよ」と言わんばかりの面構え。
扉の向こう側からは気配があったので、わたしとルーシーはすぐさま臨戦態勢を整える。
タイミングを合わせて、わたしが扉を開く。ショットガンを手にしたルーシーが先陣を切って室内へ飛び込む。
わずかに遅れてわたしも突入。
扉の裏側にいたのは二人の男。
いきなりトテトテと駆け込んできたビスクドールに目を奪われ、すっかりそちらに意識が向いているところを、「スキあり」と前腕式警棒二刀流が炸裂。油断しているところをゴンガン。横っ面をまともにぶん殴られて、男たちはあっさり沈黙した。
見事に連携が決まり、わたしとルーシーは「いえーい」とハイタッチ。
それでもってわざわざ見張りを立てていた理由は何かといえば、室内には拘束具をつけられて、床に転がされている男女らが十二名ばかり。
なお、いましがたぶちのめした男二人を含めて、全員が異世界渡りの勇者である。
そんな中にあって、一人だけ座禅でも組むかのような姿勢で、静かに佇んでいる男がいた。
ガッシリした体格の男にて、彼がゆっくりと閉じていた瞼を開き、こちらに鋭い眼光を向けてくる。
勇者ですらも身動きが封じられ、チカラが抜けてぐんにゃりとなり、意識を保つのも困難な拘束具。
なのに、この不敵な態度。こいつはただ者じゃない。
それを見てわたしはピンときた。
「ひょっとして、あんたがリーダーのサキョウ?」
「いかにもオレがサキョウだ。ただし『元リーダー』だがな。そういうキミはいったい誰だ。見ない顔だが」
「わたしはリンネ。サクラに頼まれて、ここまで来た」
「サクラに? そうか、彼女は無事に逃げおおせたのか……、よかった。頭に血がのぼったバカどもにケガを負わされたと聞いていたから、心配していたんだ」
ほっとした表情を見せるサキョウ。その態度にウソはなさそう。
というか、先ほどの「元」とかいう発言がとっても気になるのだけれども。
で、拘束具をちゃきちゃき外しつつ、サキョウに事情を問えば、ことの発端はサクラの逃亡にあるそうな。
イツキはしきりに「裏切り者を狩れ」と仲間たちを扇動した。
すべては自作自演なのだが、それを知る由のないみんなは、疑うことなく与えられた情報を鵜呑みにし、これに従い行動を起こす。
だがサキョウは違和感を覚えた。それはこの場に集められて転がされていた他の連中も同じ。
だから以降、ことあるごとに異を唱え対立することになるのだが、結果として組織を二分することになり、ついには「裏切り者を庇うのか!」と責められ、「弱腰のことなかれ主義」とののしられ、大勢の支持を失い、リーダーの地位を追われることになってしまった。
そして代わりにリーダーの座にまんまと収まったのがイツキ。
「しばらくの間、そこで頭を冷やせ」
もっともらしいことを言って、新リーダーは自分の思い通りにならない連中に拘束具をつけ、まとめて地下室に放り込む。
これにはさすがに「少しやり過ぎなのでは」という意見が仲間内からあがるも、その声はイツキにひとにらみされて、黙らされてしまったという。
説明を終えたサキョウは「ところで地上はどうなっている?」と逆にたずねてきたので、わたしはサクラから聞いたこと、これまで見てきたこと、自分が知っていることをすべて話した。
「そんなバカなっ! あのイツキがそんなことを? とても信じられない……、しかし」
困惑し愕然としているサキョウ。
ここのところのイツキの豹変ぶりに、不信感は募らせていたものの、まさかそこまでとは思いもよらなかったのであろう。
全身全霊をかけて取り組んできた建国の夢。そのすべてが仕組まれた虚像。
まさしく驚天動地にて、ずっと欺かれイツキの手の上にて踊らされていたなんて真実、あっさり受け入れられるものでもない。
「もしも、もしもその話が本当だったとして……。ならば、どうしてイツキはオレたちを生かしておくんだ? 拘束具をつけた状態ならば、労せずして目的を果たせるだろうに」
友を信じ、仲間を信じ、同士を信じ、一縷の望みが込められたサキョウの言葉。
大きくて、頼り甲斐があって、信義に厚くて、夢に向かってどこまでも真っ直ぐ。
ほんのちょっと接し言葉を交わしただけでも、彼を見ていれば、みんながリーダーと認めて、ここまでついてきた理由がよくわかる。ショウキチもきっとこんな男が率いていた集団だからこそ、己の命運を託したのであろう。
だがそれすらもがイツキの計算のうち。
こんな男だからこそ、サキョウは夢の旗頭に選ばれた。選ばれてしまった。
酷だけれども、わたしは彼に伝えなければならない。
その目を覚まさせるためにも。例え傷つき心がへし折れようとも、ふたたび立ち上がってもらうために。
いったん目を閉じ深呼吸をしてから、わたしは意を決し、できるだけ抑揚のない声にて告げる。
「どうして生かしておくのかって? それはあなたたちがイツキにとって、とっておきの『ごちそう』だからだよ」
6
あなたにおすすめの小説
通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~
日之影ソラ
ファンタジー
ゲームや漫画が好きな大学生、宮本総司は、なんとなくネットサーフィンをしていると、アムゾンの購入サイトで妖刀が1000円で売っているのを見つけた。デザインは格好よく、どことなく惹かれるものを感じたから購入し、家に届いて試し切りをしたら……空間が斬れた!
斬れた空間に吸い込まれ、気がつけばそこは見たことがない異世界。勇者召喚の儀式最中だった王城に現れたことで、伝説の勇者が現れたと勘違いされてしまう。好待遇や周りの人の期待に流され、人違いだとは言えずにいたら、王女様に偽者だとバレてしまった。
偽物だったと世に知られたら死刑と脅され、死刑を免れるためには本当に魔王を倒して、勇者としての責任を果たすしかないと宣言される。
「偽者として死ぬか。本物の英雄になるか――どちらか選びなさい」
選択肢は一つしかない。死にたくない総司は嘘を本当にするため、伝説の勇者の名を騙る。
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?
サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。
*この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。
**週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる