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237 チキンなキマイラ
しおりを挟む悪辣で遠大な計画のフィナーレを飾るのにふさわしいメインディッシュ。
味付けは、いまサキョウが浮かべている絶望の表情と、ノドの奥からとめどもなく溢れる慟哭。
せっかくイツキが用意しておいた、とっておきの「ごちそう」を台無しにしてやったところで、わたしとルーシーは地下室をあとにした。
ここで諦めるのか、ふたたび立ち上がり前を向くのか。
気の毒だけど、あとは彼ら次第だ。
「イツキの身体的特徴については、さきほどぶちのめした見張りの男らから聞き出し、すでに手配済みです。発見次第、すぐに連絡が入る手筈を整えておきました」とルーシー。
地上へと出たところで、早くも懐にあるスマートフォンっぽい通信端末がぷるぷる。あいかわらずうちの子たちは仕事が速いねえ。
ここから西へしばらく行ったところにある川原。
そこに、それらしき人物がいるとのことなので、早速向かうことにした。
わたしの視線の先にて、イツキとおぼしき人物が川の浅瀬に立ち、水に手を突っ込んでじゃぶじゃぶしている。
いったい何をしているのかと思えば、手の中にあるモノを洗っていたようだ。
手にしていたのは真っ赤な生肉の塊。
よくよく見れば、それは人間の心臓だった。
水を切ってから、イツキが心臓にカブリつき、ムシャムシャ。
うげぇ、アレがギフトを奪うからくりだったのかよ。
あまりの浅ましき所業にて、見るに耐えない。
わたしは右の薬指式ライフルをかまえると、狙いを定めてコレを発射。
銃弾を受けて、かじりかけの心臓は、びちゃりと潰れて四散した。
「誰だい、こんなひどいことをするのは? これじゃあ、せっかく手に入れたギフトが台無しじゃないか」
飛び散った際に顔についた血や肉片を手の甲で拭いながら、こちらに険しい目を向けてくるイツキ。
負けじとわたしも無言でにらみ返していると、隣にいたルーシーが口火を切る。
「数多の勇者を殺し、次々と心臓を喰らうことでギフトを奪う。あなたはまるでキマイラみたいですね」
キマイラとは古代神話に登場する、獅子の頭にヤギのカラダ、毒ヘビの尾を持つモンスターのこと。
異質なもの同士をつなぎ合わせ、ひとつに合成された存在を表す言葉でもある。
青い目をしたお人形さんは、イツキをそう称した。
するとその例えが気に入ったのか、一転してイツキは目元をゆるめ「キマイラか……、いいねえ、ソレ。うん、キミの言うとおり、ボクは確かにキマイラだ。前々から『悪食』だの『模倣』なんて、ちょっとダサいと思っていたんだよねえ。これからはギフトとスキルを総じて『キマイラ』って呼ぶことにしょう。うんうん、それがいい。ありがとう、お人形ちゃん。いいことを教えてくれて」
一人はしゃぐイツキに、わたしは唖然。
でもルーシーは平然としたままで、淡々と会話を続ける。
「ひとつ、おたずねしてもよろしいでしょうか」
「いいよ。ボクはいまとても気分がいいからね。おしゃべりに付き合ってあげる」
「では、おたずねします。あなたはいったい『何のため』にチカラを求めているのでしょうか?」
問われて、イツキはキョトンとした表情を浮かべた。
友を欺き、仲間の心臓を喰らい、ギフトを集め、己の能力を高め続けるイツキ。
彼は自分自身が強くなることに執着しているとサクラは言っていた。
だからわたしもてっきりそうなんだとばかり思い込んでいた。ほら、マンガやアニメの主人公とかでも、たまにいるでしょ? 「そんなもの、強くなってから考えるさ」とか言っちゃうキャラ。だからそういうものなのかと考えていたんだけど。
でもそれは正確ではないと、お人形さんは言っている。
強さを求めるのにも、ちゃんとした理由や原因がある。
守りたいモノや場所、人がいるから強くなる。
負けて悔しかったから、倒したい相手、越えたい相手がいるから強くなる。
誰よりも強くなりたい。一番になりたい。それはみんなに認められたいという、承認欲求の裏返し。
ただ強くなりたい。
そういう想いは確かにある。でもその想いを抱く発端となった出来事が、必ず存在するはず。
ルーシーはそれをイツキに問うたのだ。
「何のために」という意外な質問を受けて、イツキの目が泳ぐ。顔にちらりと浮かんだのは、とある感情。
すぐに振り払うかのようにして、かき消されてしまったけれども、青い目をしたお人形さんは見逃さない。
それは紛れもなく「怯え」の感情であった。
これをバッチリ目撃したルーシーが、にへらと笑みを浮かべる。
「なるほど、あなたはいま脳裏に浮かべた、その人物なり出来事なりを恐れるあまり、凶行に手を染めてしまったのですね。ぷぷぷぷっ、呆れました。こいつはとんだチキンなキマイラ野郎です」
小馬鹿にされて、頬にサッと朱が差し、みるみる目を吊り上げ、イツキは「黙れ!」と声を荒げた。
どうやら図星だったらしい。
イツキはどこぞの誰かにビビッて、その影を振り払うために、ひたすらチカラを追い求めてギフトを奪い続けてきた、と。
反応からして、たぶん当人も無自覚だったのだろうけど、そこを的確に暴き出すルーシーさん。これすなわちトラウマをざくざく掘り起こす作業。
誰にも見られたくない、知られたくない記憶や感情をむき出しにされ、コレをチクチクいちびる。
なんて容赦のない精神口撃!
うちの子、超おっかねえ!
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