わたしだけノット・ファンタジー! いろいろヒドイ異世界生活。

月芝

文字の大きさ
238 / 298

238 キマイラと最凶

しおりを挟む
 
 言うだけ言って、すっきりしたのか「じゃあ、あとはリンネさまにおまかせします」と、さっさと自分の亜空間に引っ込んでしまったルーシー。
 今回の一件、彼女は彼女なりに思うところがあったようだ。そしてデキる従者は女主人の気持ちを汲んで、あとをまかせてくれた。
 そう。わたしはかなり怒っている。
 これまでにも外道堕ちした阿呆どもは、たくさん見てきた。どいつもこいつも立派なクズだったけれども、このイツキはやり口のいやらしさが群を抜いている。
 なお、わたしにこんな不快な気分を抱かせてくれた張本人は、ただいま地団太を踏み、絶賛激昂中。
 ルーシーにトラウマをムリヤリ引きずり出されて、グリグリ弄られたイツキは、怒り全開にてわめき散らしている。

「このボクがヤツを恐れているだと! たしかにラドボルグ将軍には圧倒されたさ。だがボクは変わった。もうあの頃のボクじゃない。とっても強くなったんだ! いまや六十九もの多彩なギフトを自在に操つれる。いまならきっとアイツにだって負けやしないハズだ!」

 ここにきてイツキの口からツバといっしょに飛び出す、意外な人物の名前。
 なんてこったい! イツキにトラウマを刻んで、彼を悪の道へとひた走らせたのは、第二の聖騎士だったのか。
 彼らの間に何があったのかは知らないけれども、生きてても死んでても、過去に遡ってまで迷惑を及ぼすとは。聖騎士どもが関わると、本当にロクなことがありゃしない。

「ボクをコケにしやがって。あの人形、ぜったいに許さない。手足を引き千切ってバラバラに……って、あのクソチビ人形はどこへいった?」
「どこって、ルーシーなら、チキンなキマイラには用がないって、とっくに帰ったよ」
「ふざけんなっ!」

 怒りのままにイツキの左腕から青い光が射出される。
 ひゅんと風を切り、飛んできたそいつをわたしは、あっさりキャッチ。
 何かとおもえば、蒼光の矢。
 見覚えがある。ショウキチのギフト「蒼弓」による攻撃だ。
 よりにもよって、わたしを相手にして、初手にコレを放つのかよ。
 これによりショウキチの死亡が確定。
 ずっとそんな気はしていたけれども、改めて事実を突きつけられると、やっぱりちょっとこたえるね。
 あー、女を庇って逝っちまったか……。まぁ、ショウキチらしいといえばらしいか。
 そんなこちらの心情なんておかまいなしに、無神経にも「蒼弓」による第二射を放つイツキ。
 だがその矢はどうにも動きに精細を欠いており、へろへろ。
 わたしは、めんどうくさそうにペチンと手で払い落とす。

「なんだい、これは? わざわざ殺して奪っておいて、この程度なのかよ? まえに見せてもらったけど、ショウキチの弓はもっとずっとスゴかったぞ」

 率直な感想を口にすると、イツキが悔しそうな表情を浮かべる。「うるさい!」と怒鳴って、今度は水のヘビのようなものを出現させた。

「あんまりいい気になるなよ。武器系のギフトはまだ扱いに慣れていないだけだ。でも、この『水蛇』はちがう。こいつに触れられたら、その時点でお前はカラカラに乾いて、即ミイラだ」

 散水用ホースぐらいのサイズだったのが、急に膨れ上がって電柱ほどの太さもある大蛇となって、猛然と襲いかかって来る。
 こちらを丸呑みにしようと、大口を開けて迫る姿には迫力がある。
 が、わたしは特に避けることもなく、これをも前腕式警棒にて無造作に叩き潰した。
 カラダが水だから、ふつうならば物理攻撃とかがあまり効かないのだろうけれども、あいにくとわたしはレベルもカラダもふつうじゃない。
 振り下ろされた一撃にて、飛び散った水のヘビ。
 先ほどのイツキの言葉からすると、たぶん対象の水分を奪ったりできるのだろう。なかなかに凶悪なギフトである。
 でも、そのわりにはなんだか……。

「なぁ、ひょっとしておまえ、奪ったギフトをそっくりそのまま使えるわけじゃないのか?」

 わたしの質問にイツキはだんまり。
 返事のかわりに巨大なトリ型をした炎が飛んできた。
 もちろんコイツもチカラまかせに叩き潰す。
 威力はそこそこ。けっして弱くはない。なにせ足下の岩の表面が溶けるほどの高温。だがジャニス女王のジェット噴射に比べたら数段落ちる。なんというか、軽い?

「なるほど。つまりは劣化コピーってことか」

 独りごちるわたしに対し、イツキはギリリと奥歯を鳴らすものの、「たとえそうだとしても、それのどこが悪い」と開き直った。
 いや、べつに悪いとは言っていない。
 銃で例えたら、大口径にて鉄板をぶち抜くような強力なモノじゃなくて、手の平に収まるようなかわいらしいモノでも、人は殺せる。
 火炎放射器とまではいかなくても、ガスバーナーでもやっぱり人は焼き殺せる。
 元のギフトが十だとして、奪ったギフトが七や八程度のチカラしか出せなくても、脅威にはちがいない。いくつものギフトを使えるということ、その多様性はとても有益。ようは使い方次第。
 だからこそイツキはギフトをたくさん集めることで、強くなろうとした。
 それが盛大なる勘違いだと気づきもせずに。
 断言できるけど、いまここでイツキがラドボルグと戦っても、百回やれば百回負ける。
 いくら伝説の名剣を千本集めたとて、大剣豪にはなれない。
 でも大剣豪はどの剣でも戦える。それこそ木の枝でもそれなり戦うだろう。イツキはそこのところがまるでわかっちゃいない。
 イツキはまちがえた。
 ある程度、数を揃えたところで「もっともっと」なんて収集欲を出さずに、山奥にでも篭って、ひたすら修行に明け暮れるべきだったんだ。

 蒼光の矢、水のヘビ、炎のトリ、と続いて今度は黒いケモノっぽい何かが五体出現。イツキは「影喰い」とか言ってたけれど。バウバウと襲いかかってくるこれらも、ぬるっと撲殺。
 たしかにビックリ箱みたいに、いろんなギフトが飛び出してくるから、驚かされる。
 けれども、はじめからそういうモノだとわかっていれば、さほどでもない。
 繰り出す攻め手が次々と潰されて、やや表情から余裕が失せつつあるイツキ。

「どうしたものかと、わたしなりにいろいろと考えてみた。どうすればショウキチや、死んでいった他の連中、騙されていたみんなの無念が晴らせるのかって。どうすれば一番アンタが悔しがって、一番ダメージを与えられるのかって」
「おまえはさっきから何を言って……」
「それで決めたの。わたしはアンタのすべてを否定することにした。アンタの手に入れたチカラも、成したことも、その存在も、何もかもを徹底的に否定してあげる」

 ひたすら攻撃を続けるイツキに対して、わたしは正面からこれを受け続ける。
 巨大な氷の槍を打ち砕き、竜巻を薙ぎ払い、飛んできた岩をカキンと打ち返しホームラン。出現した毒沼では優雅に背泳ぎを披露し、ワラワラ向かってきた食欲旺盛なムシの群れをぷちぷち踏みつぶす。レーザーみたいなのはあえて胸で受けとめて平然と仁王立ち。
 及び腰になったイツキが「韋駄天」とかいうギフトで移動速度をあげて、いったん距離をとろうとしたら、「けけけ」と笑いながら横を並走してやった。
 カマイタチみたいな真空の刃には、前腕式警棒二刀流クロス斬りで対抗。
 重力操作みたいなギフトには、ヒンズースクワットを鼻歌まじりでフンフンフフン。
 わたしは一発の銃弾も放つことなく、乱雑に次々とイツキの放つ攻撃を粉砕していく。
 これがわたしなりの彼のチカラや成してきたことへの否定の表明。「てめえには、神様印の武器、弾の一発ほどの価値もない」という貶め。
 六十九もあるというイツキご自慢のギフト。
 でも、四十を超えた当たりでイツキがガス欠を起こす。
 これが彼の犯した盛大な勘違いその二。
 いろんな異能が使える。一見するとそれはとても華やかで素晴らしいように思える。でもギフトによって消費魔力はまちまち。たくさん使えばそれだけ計算も複雑になる。これを実戦の最中に暗算処理するのはとってもたいへん。
 ようはご利用は計画的に、ということ。
 いくら他の勇者らよりも能力値が高く魔力量にも自信があるからって、調子にのって飛ばしすぎはいかんよ。

 どんなに強力な戦車でも、ガス欠となったらただのオブジェ。
 先立つモノを使いきり、借金まみれとなった愚者を、わたしは蹴飛ばす。地面に仰向けに寝転がせると、これにどっかと馬乗りになった。

「よいっしょっと。それじゃあ、まずはショウキチの分からね。気合入れて歯ぁ食いしばれや。わりと本気で殴るから。わたし、これでも高レベル生命体なんで、けっこう痛いと思うから覚悟してね」
「や、やめろ。ムダだ。ボクには『回復』ギフトが」

 ドン!

「あんたはバカか? 魔力切れを起こしているのにギフトが満足に機能するものか。えーと、それで次はサクラの分かな。やっぱり男子たるもの女の子を泣かしちゃあ、いかんでしょ。その点、ショウキチは最期まで立派だったよ」
「ま、待って」

 ドン!

「あとは……、途中で死んでた四人、それからサキョウらの分もまとめて」
「もう、やめて、おねがっ」

 ドン! ドン! ドン! ドン! ドン!

「たしか奪ったギフトは六十九だから、ショウキチと四人の分を引いて、残り六十四発ね。うん? おーい、勝手に寝るな。まだまだこれからなんだから」

 わたしがパチンと指を鳴らすと、ルーシーが亜空間よりひょっこり顔を出し「へい、お待ち」と「だいたいよくなるポーション」を差し出した。
 そいつをすっかり歯抜けとなったイツキの口にむりやりねじ込む。
 ある程度回復させてから、また殴る。これを何度も繰り返して、きちんと最後までやり遂げご精算。
 これにて元金の回収は完了。
 でも、まだ終わらない、終わらせない。
 ここからは、しっかりと膨れ上がった利子の分を徴収させていただきます。


しおりを挟む
感想 124

あなたにおすすめの小説

通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~

日之影ソラ
ファンタジー
ゲームや漫画が好きな大学生、宮本総司は、なんとなくネットサーフィンをしていると、アムゾンの購入サイトで妖刀が1000円で売っているのを見つけた。デザインは格好よく、どことなく惹かれるものを感じたから購入し、家に届いて試し切りをしたら……空間が斬れた!  斬れた空間に吸い込まれ、気がつけばそこは見たことがない異世界。勇者召喚の儀式最中だった王城に現れたことで、伝説の勇者が現れたと勘違いされてしまう。好待遇や周りの人の期待に流され、人違いだとは言えずにいたら、王女様に偽者だとバレてしまった。  偽物だったと世に知られたら死刑と脅され、死刑を免れるためには本当に魔王を倒して、勇者としての責任を果たすしかないと宣言される。 「偽者として死ぬか。本物の英雄になるか――どちらか選びなさい」  選択肢は一つしかない。死にたくない総司は嘘を本当にするため、伝説の勇者の名を騙る。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

処理中です...