わたしだけノット・ファンタジー! いろいろヒドイ異世界生活。

月芝

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239 絵空事

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 目覚めたイツキは、あまりのまぶしさにおもわず手をかざそうとするも、その手がビクともしないことに気がつく。
 わずかに動く首をどうにかひねり、目を懸命に動かし周囲を見てみれば、自分のカラダが台の上に寝かされ、がっちりと固定されているのがわかった。
 すぐさま脱出しようとギフトを発動するも、イツキの意志とは裏腹にチカラが応えることはない。

「くそ、まだ魔力が回復していなかったか。ということは、アレからあんまり時間がたっていないのか? あの女、よくもボクをこんな目に合わしやがって、絶対にただじゃすまさないからな」

 イツキがぶつぶつ文句を垂れていたら、足下の方にて扉が開く音がして、ドカドカと入ってきたのは複数の白い影
 それらが台をぐるりと囲むようにして立つ。
 天井に設置された明かりが逆光になって、どうにか白衣を着ているらしいとはわかるものの、自分を見下ろしている相手の顔はよく見えない。
 時間の経過とともに、じょじょに目が慣れてきて、ようやくその姿がはっきりと確認できたとき、イツキは悲鳴をあげた。
 なにせ巨大なセミたちが白衣を着て、節々した手にはギラリと光るメスを握っていたのだから。
 室内にルーシーの声で、次のようなアナウンスが流れる。

「ピンポンパンポーン。これより第十三回、勇者生態実験を開始します」

 ここはルーシーの亜空間世界内、ルーシータウン郊外にある研究施設の最深部にある、とても良い子には見せられない区画の実験室。
 頭蓋骨を切開されて、脳みそがむき出しとなった状態で、ずっと台座に寝かされたままのイツキ。
 泣こうがわめこうがおかまいなしに、淡々とスケジュール通りに実験が行われていく。
 実験項目がすべて消化されれば、脳に刺さった電極がびりびり。記憶は飛んでしまう。そして肉体は魔法やら薬品により超回復を施されて、あらふしぎ。たちまち元通りとなって、次の実験へと駆り出されることになる。
 これがイツキより徴収された利子の正体。
「カネがないならカラダで払え!」の刑である。別名モルモットともいう。
 いくら性根が腐っていようとも、カラダは健全。活きのいい勇者のカラダを使って医療や魔導科学の発展に貢献してもらおうとの魂胆。「あなたの何もかもを徹底的に否定してあげる」という宣言。その終着点がコレ。
 いちおうイツキが奪ったギフトの数に合わせて、六十九回の実験に協力したら、晴れて成仏させてあげる予定。
 だったのだが、研究開発部門から存続もしくは払い下げを求める声が多くて、突き上げが激しい。イツキには悪いのだが、このままだとちょっと押し切られそう。
 なにせ生勇者を堂々と自由にイジれる機会なんてそうそうないので、グランディアたちがここぞとばかりに、「アレがしたい」「コレも試したい」と実験要望書を寄越すものだから、「もういっそのこと、リンネ組のモルモットとして飼うか」という意見もちらほら出始めている。
 よってイツキの命運は先行き不透明。さすがにちょっと気の毒になってきた。
 でも最終的には無難に多数決かなぁ。
 ビバ、民主主義。衆愚政治バンザイ!
 と、胸がムカムカするお話はこれぐらいにして、勇者の国をめぐる一連の騒動の顛末について、少しふれておこうか。



 わたしがイツキをボッコボコにしてから、勇者らの本拠地にもどったら、地下に閉じ込められていたサキョウ以下は、まだ呆けていた。
 しょうがないので、わたしは心を鬼にして全員にビンタを見舞う。

「いつまでそうしているつもりなの? まずは領内に散っているみんなの安否確認をするのが先でしょう。しっかりしやがれ!」

 発破をかけたのが功を奏し、のろのろながらも動き出すサキョウたち。
 その結果判明した生き残りの数は八十一名。
 建国事業に参加していた勇者の総数は百二十一人だったというから、国外に逃亡中のサクラを除外すると、犠牲者は三十九人。
 全体の三割ほど。これを少ないと考えるか多いと考えるか、ちょっと微妙な数字だ。
 いささか不謹慎なれども、わたしとしては狩り放題な状況のわりにはやや、と首をかしげている。
 でもルーシーさんは「こんなものでしょう」とのご意見。
 集まった全員の中から欲しいギフト持ちを選ぶ段階で、候補者リストから外れた者も少なくないはず。またイツキのギフト「悪食」は、食べたモノを能力に変換できるけれども、イツキ自身がタフな胃袋を持つフードファイター化するわけじゃない。一度に食べられる量には、おのずと限界がある。朝から晩まで延々と心臓だけをムシャムシャしていられるわけじゃない。

「たとえ劣化コピーに過ぎないとはいえ、ギフトを体内に取り込み再現するという作業は、当人のカラダにもそれなりに負担をかけたはずです。せいぜい日に三から五あたりが限界だったんじゃないでしょうか」というのがルーシーの見解。

 自分たちがイツキの手の平で踊っていただけと知った連中の姿は、見るも無残にて、憐れ以外の何ものでもなかった。
 信頼していた同士の裏切り、夢や目標の消失、自分たちが犯した過ち、罪の意識、怒り、悲しみ……。一度にいろんなものに襲われて、押しつぶされんばかり。

「オレは、オレたちはこれからどうしたら……」

 大きな背を丸めて項垂れ、すっかりうち萎れているサキョウがつぶやく。
 そこかしこからすすり泣きや嗚咽が漏れている。
 完全にお通夜会場と化している現場。
 そんな最中に、わたしは誰に聞かせるでもなく、ポツポツと語り出す。

「勇者の国の話をショウキチから聞いたとき、悪いけどわたしはすぐにムリだと思ったんだよね。そんな絵空事、出来るわけがないって。国造りなんてそんなに甘いもんじゃない。国の運営舐めんな! と小馬鹿にさえしたんだよ。でも、アイツはそれでも『やってみたい』って言ったんだ。わたしはロクなことにならないからヤメておけって言ったんだけど、人の忠告なんぞまるで聞きやしない。楽しそうに目をキラキラさせちゃってさ……。まぁ、結果として死んじゃったんだけどね。ほれ、みたことか、このバカたれめが! って思ったよ。でも」

 そこでいったん言葉を区切り、わたしは深く息を吸い込む。体中に酸素が行き渡ったのを感じてから、ゆっくりと吐き出し、ふたたび話し始める。

「でも、ここを見てちょっと驚いた。まだまだぜんぜんだけれども、いちおうはそれっぽい形になっていたからね。ひょっとしたらイケんじゃね? と思った。絵空事だとばかり考えてバカにしていたのが、現実になるかもって、ちょびっとだけど思った。でも調子に乗んなよ! あくまで今はまだ、ほんのちょびっとだけだからな」

 わたしは言うだけ言うと、「じゃあな。あとは好きにしろ」と、さっさと歩きだす。
 ルーシーも女主人に続こうとするも、彼女は少し立ち止まり、サキョウに向かって「いきなり国から始めるからややこしいんですよ。何ごとにも順序があり段階があるのです。まずは身の丈にあわせて、村あたりから始めることですね。それでは」と言った。
 背中越しに青い目をしたお人形さんの助言を耳にしながら、わたしは勇者たちの国の都をあとにする。

 結局、サキョウたちはもう少しがんばってみることにしたようである。
 ベスプ商連合の行商隊にお世話になっていたサクラは、悩んだ末にみんなのところに戻ることに決めた。

「犠牲になってしまったホノカや他の仲間たち、自分のためにがんばってくれたショウキチくんのためにも、やれるだけやってみる」

 なんとも健気な言葉を口にするサクラ。
 汚名を着せられ、裏切り者呼ばわりされ、よってたかって追いかけ回されて、殺されかけたというのに。
 もろもろのわだかまりをヌルっと飲み込んでしまった。
 ……強いな、彼女。
 いや、彼女のこの強さを引き出したのは、身を呈して守ったショウキチのお手柄か。
 そんな彼女ががんばるって言ってるんだから、いつの日にか勇者の国なんていう絵空事が、本当に実現しちゃうかもしれないね。
 なんぞという感想でもって、勇者の国をめぐる騒動は終息した。


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