わたしだけノット・ファンタジー! いろいろヒドイ異世界生活。

月芝

文字の大きさ
246 / 298

246 バザー

しおりを挟む
 
 教会の敷地内にてブルーシートが広げられ、ところ狭しと並べられた品々。
 それを目当てに集まった客たち。
 バザー会場はオープンと同時に大盛況の満員御礼。がやがやと賑やか。
 そんな中にあって、わたしは店番をしていた。
 マンションの自治会で参加することになったのだけれども、いかに週末とはいえ大人たちはいろいろとやることがある。そこで暇なわたしが助っ人として駆り出されたわけ。
 そしてとっても忙しい。
 善意のバザーだというのに、集う連中は鵜の目鷹の目にて物欲丸出し。お宝探しに勤しんでいる。妹は「助け合いの精神だよ。お姉ちゃん」とか言っていたが、これを見る限りでは新たな争いの火種をバラ撒いているようにしか、わたしには見えない。
 主催者側のおおらかさ、志の高さとは裏腹に、現場にはほんのり殺伐とした雰囲気が漂っているほど。まるでお正月のバーゲンセール一歩手前といったところにて、ちょっと怖い。
 釣り銭を渡すのに少しモタモタとしただけで、客にギロリと睨まれちゃう。
 おかげで慣れない接客に追われる売り子はたいへん。これで日当五百円とか、お母さんのケチンボっ!

 二時間ばかりも過ぎただろうか。
 ようやく仕事にもこなれて、客足の流れもひと段落ついた頃。

「あっ! この青い目をしたお人形さんかわいいー。ねえ、お母さん。あたしこれが欲しい」
「もう、しょうがないわねえ。お姉さん、こちらはいくらかしら」

 わたしが出品したビスクドールを手にしたのは小さな女の子。
 母親から値段をたずねられた時、なぜだか急にノドがつまって、とっさに金額が出てこなかった。

「ねえ、おいくらなの? 早くしてくださらない。このあとこの子をピアノのお稽古に連れて行かなくっちゃならないの」

 再度、母親より声をかけられるも、わたしの口から出たのは「ゴメンなさいっ! それは売り物じゃないの。うっかり間違えて持ってきちゃったみたいで」という言葉であった。

 女の子の手から、青い目をしたお人形を引ったくるようにして返してもらう。
 自分でもどうしてそんな行動をとったのかは、よくわからない。
 ただ、どうしてもイヤだったのだ。
 これを誰かに持って行かれるのが、手放すのが、失われるのが、どうしてもイヤであったのだ。

 思いがけず乱暴なマネをしてしまったので、すぐに女の子に謝ろうとするも、その時になってわたしは周囲の異変に気がつく。
 ついさきほどまで、あれほどお祭りのように賑やかであった会場内が、シーンと静まりかえっていた。
 全員がこちらに顔を向けており、じっとわたしの方を無言で見つめている。
 目の前の女の子も、その母親も、同じようにこちらを黙って見つめているばかり。
 いつしか世界から音が消えていた。
 教会の敷地外の道路を走っているはずの車のエンジン音も、木の枝にとまって歌っていた小鳥の声も、はるか上空を飛ぶ飛行機の音も聞えない。
 一切の音が途絶し、無数の瞳だけがわたしの視界を埋め尽くす。
 誰も何も言わない。ただ光沢のあるガラス玉のような瞳で静かに見つめてくるだけ。
 何がなにやらわからない。わたしは突然のことに混乱し頭がうまく働かない。
 人混みの中にクラスメイトの知った顔を見つけたときには、ちょっとだけホッとした。
 そんな彼女がポツリと言った。

「悪い子だ」

 その声は池に放り込まれた小石。
 水面をゆらし、波紋となって広がっていく。

「悪い子だ」「悪い子だ」「悪い子だ」
「悪い子だ」「悪い子だ」「悪い子だ」
「悪い子だ」「悪い子だ」「悪い子だ」

 どこかで金切り声が聞こえたような気がした。
 それが自分のあげている悲鳴だとわかったときには、すでにカラダは聖クロア教会の敷地内より逃げ出していた。



 我に返ったとき。
 全身汗だくにて、わたしは自宅のあるマンションのエントランスに立っていた。
 ただただ必死にて、どこをどう走ってここまできたのかは、まるで覚えちゃいない。
 でも、自分の大切なダンボールだけはしっかりと抱きかかえていた。
 あわてて箱を開ける。

「よかった。ルーシーもたまさぶろうも富士丸も、グランディアもオービタルもセレニティもリリアちゃんもマロンちゃんも、他のみんなも無事だ」

 つぶやいたとたんに頭の中でパチンと何かがはじけた。
 次々と記憶が鮮明に蘇り、濁流となって脳内を駆け巡る。
 自分のこと、かけがえのない仲間のこと、友だちのこと、ノットガルドで経験した良いことも、悪いことも、楽しいことも、そうでないことも、何もかも……。
 すべてを思い出したわたしは、エレベーターに乗り込むと自宅へと向かう。

 不用心にも自宅のドアに鍵はかかっておらず、チェーンロックもかけられてはいない。
 一歩足を踏み入れたら、懐かしいニオイに包まれる。
 ネコの額ほどの狭い玄関。廊下を奥へと真っ直ぐ進めば、突き当りがリビングと台所。
 玄関を正面に廊下の左側にトイレ、その隣にお風呂場と洗面所。右側には二部屋あって洋室と和室。手前の洋室がわたしの部屋で奥の和室がお母さんとお父さんの寝室。
 あとはちょっとした納戸にパンパンな押し入れ。失敗続きで放置されたプランターが隅っこに転がるベランダ。
 これが我が家の間取りのすべて。
 だからわたしは「おかえり、リンネお姉ちゃん」と出迎えてくれたオカッパ頭の女の子に向かって、「ただいま。ところで、あんた誰?」とたずねた。
 なにせ、我が家は三人家族。
 わたしには妹なんていなかったんだから。
 もしもお父さんが外に愛人をこさえて、隠し子をもうけていたというのならばともかく、大人の映像資料一つすらもロクに隠し通せない父に、お母さんやわたしの目を欺いて外で悪さをする甲斐性があるとは、とても思えない。
 というか、財布のヒモをがっちり母に握られている父には、経済的にも不可能。
 そしていないはずの子がウチにいる。
 それすなわち、この不可解な現状をもたらしている犯人なり!
 わたしがビシッと指摘すると、自称・妹は「やれやれ」と首をふった。

「その箱……。結局、オモチャは手放さなかったようですね。こちらの想定していたよりも、結びつきがずっと強かったか。たんなる使役する者とされる者だと考えていたのですが、なかなかどうしてしぶとい」

 口調ががらりと変わった。これまでの無邪気さはどこぞに失せてしまい、隙の無い目つきとなり、老獪な表情を見せるオカッパ頭の少女。

「あなたはいったい何者なの?」

 わたしが問うと、彼女は「第四の聖騎士リネンビ」と名乗った。


しおりを挟む
感想 124

あなたにおすすめの小説

通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~

日之影ソラ
ファンタジー
ゲームや漫画が好きな大学生、宮本総司は、なんとなくネットサーフィンをしていると、アムゾンの購入サイトで妖刀が1000円で売っているのを見つけた。デザインは格好よく、どことなく惹かれるものを感じたから購入し、家に届いて試し切りをしたら……空間が斬れた!  斬れた空間に吸い込まれ、気がつけばそこは見たことがない異世界。勇者召喚の儀式最中だった王城に現れたことで、伝説の勇者が現れたと勘違いされてしまう。好待遇や周りの人の期待に流され、人違いだとは言えずにいたら、王女様に偽者だとバレてしまった。  偽物だったと世に知られたら死刑と脅され、死刑を免れるためには本当に魔王を倒して、勇者としての責任を果たすしかないと宣言される。 「偽者として死ぬか。本物の英雄になるか――どちらか選びなさい」  選択肢は一つしかない。死にたくない総司は嘘を本当にするため、伝説の勇者の名を騙る。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

処理中です...