わたしだけノット・ファンタジー! いろいろヒドイ異世界生活。

月芝

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248 夢の終わり

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 竿が大きくしなり、うっかり手から離れそうになったのを、リネンビは慌てて持ち直した。
 よほど大物がかかったのか、勢いに押されて引きずり込まれそうになるのを、両足を開いて腰を落とし、しっかりと踏ん張りこらえる。

「なっ! なんという引きの強さ。こんなの初めて。あなた、いったい何を望んだのよ?」

 釣り糸の先にある何かと格闘しながら、リネンビに問われてわたしはヒューヒューと口笛を吹きそらとぼける。
 こちらの態度に怪訝そうな顔をするリネンビ。しかしあまり余裕がないのか、すぐに釣りの方へと意識を集中しようとした。
 が、その矢先のこと。
 釣り場となっているわたしの胸の辺りから、にゅうっと姿をあらわしたのは細い筒状のモノ。
 リネンビが「?」とおもわず顔を突き出し、よく見ようとしたところで、筒の先端がズドンと火を噴く。
 発射されたのは一発の銃弾。
 至近距離にて、これをモロに喰らったリネンビの顔の左半分が吹き飛ぶ。
 もんどりうってソファーの向こうに倒れ込んだひょうしに、チカラ任せに一気に引き上げられた竿。
 その動きに合わせて、わたしの胸の中から飛び出してきたのは、ライフル銃を手にした青い目のお人形さん。
 これこそがわたしの秘策「自力でダメなら他力本願」である。
 なにせここは夢の中にて、リネンビの支配領域。
 わたしのギフトやスキル、武器類ともに封じられており、何もできない。この世界で自在にチカラを振るえるのは、リネンビただ一人。
 そこでわたしは考えました。「よし、ならば彼女自身にがんばってもらおう」と。
 だから、わたしは心の底から願ったんだ。「ルーシー、カモン!」ってね。
 そいつをまんまと釣りあげてくれたリネンビ。いきなり挨拶代わりの銃弾を喰らって、あのザマというわけさ。
 しかしリネンビはしぶとかった。
 左目付近がごっそりと欠損し、白い頭蓋骨やら脳みそやらが露出し、全身血だらけ。
 そんな状態にもかかわらず立ち上がる。

「私のチカラを利用した? ……おのれ、小賢しいマネを。甘い顔をしておればつけあがりおって。こうなったら」

 残っている方の目玉が憤怒のあまり、いまにも飛び出しそうな形相のリネンビ。
 けれども彼女の台詞が最後まで発せられることはなかった。
 なにせ、ルーシーに続いてわたしの胸元より飛び出してきたサメのぬいぐるみによる、追撃を受けたから。
 全長一メートルほどのミニチュアサイズで登場したのは宇宙戦艦「たまさぶろう」にて、出撃と同時にホーミングレーザーを斉射。数多の光の線がオカッパ頭の少女の肉体をズブズブと貫き蹂躙する。

「がはっ」

 ノドを貫いた閃光により、リネンビが吐き出したのは怒声ではなくて血の塊。
 どろりとした黒いそれが、足下へと落ちていく光景がやたらとゆっくりと感じられた。
 立て続けに不意打ちを喰らい、とっさのことに反応できなかったリネンビ。その目はすでに焦点が定まっておらず、意識も朦朧とし、かろうじて立っているカラダが海中の水草のようにゆれている。
 その身を最後に巨大な鋼の拳が襲う。
 富士丸くんの正拳突きが炸裂。こちらは拳のみの登場にて通常サイズ。
 そのためにリネンビごと自宅に大穴を開けてしまった。

「わーお、おかげで夕陽と街の風景がよく見える。たぶんこれが見納めになるだろうから、いまのうちにしっかりと拝んでおくかな」

 大穴の縁にどっかと胡坐をかいて、わたしはもう二度と戻ることのない自分が育った世界を静かに眺める。
 改めて思い返せば、こんな風に自分の街を見たことなんてなかったな。そんな機会を与えてくれたことにだけは、リネンビに感謝だね。
 眼下に広がる街の景色。ずらっと並ぶたくさんの家々の中から仲のよかった友達の家の屋根を見つけた。そこでパジャマパーティーをしたとき、恋バナなんてせずに、わいわい徹夜でクソゲー攻略に明け暮れたっけか。
 自然と目がよく見知っているところを探す。
 たまに学校帰りに買い食いに立ち寄るコンビニ。
 あのアフロな店員がオネエだと判明したときには、わたしの周囲ではちょっとした事件であった。
 やたらと電気風呂が強烈な銭湯と、そのノッポな煙突。
 いつかは登ってやろうとか、小さい頃にはわりと本気で考えていたっけか。さすがにやらなかったけど。
 交通量が多くて信号待ちにイラつく国道。
 年末年始になると地獄の大渋滞が発生して、歩道を走る園児の三輪車に抜かれる高級スポーツカーの姿に、わけもなく大笑いしたものである。
 夏休みになるとラジオ体操が開かれていた公園。
 皆勤賞でノートと鉛筆二本とかふざけんなっての……。

 やれやれ、そこかしこに想い出がいっぱい。本当にイヤになるぐらい忠実に再現されてある街並み。
 いつしかわたしは、それらを喰い入るように見つめていた。
 頬を伝う涙に気づくこともなく。
 やがて陽が沈み残光のひと筋が消える頃。
 夢の世界は壁からペンキが剥がれるかのようにして、ポロリポロリ、ゆっくりと崩壊していった。


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