248 / 298
248 夢の終わり
しおりを挟む竿が大きくしなり、うっかり手から離れそうになったのを、リネンビは慌てて持ち直した。
よほど大物がかかったのか、勢いに押されて引きずり込まれそうになるのを、両足を開いて腰を落とし、しっかりと踏ん張りこらえる。
「なっ! なんという引きの強さ。こんなの初めて。あなた、いったい何を望んだのよ?」
釣り糸の先にある何かと格闘しながら、リネンビに問われてわたしはヒューヒューと口笛を吹きそらとぼける。
こちらの態度に怪訝そうな顔をするリネンビ。しかしあまり余裕がないのか、すぐに釣りの方へと意識を集中しようとした。
が、その矢先のこと。
釣り場となっているわたしの胸の辺りから、にゅうっと姿をあらわしたのは細い筒状のモノ。
リネンビが「?」とおもわず顔を突き出し、よく見ようとしたところで、筒の先端がズドンと火を噴く。
発射されたのは一発の銃弾。
至近距離にて、これをモロに喰らったリネンビの顔の左半分が吹き飛ぶ。
もんどりうってソファーの向こうに倒れ込んだひょうしに、チカラ任せに一気に引き上げられた竿。
その動きに合わせて、わたしの胸の中から飛び出してきたのは、ライフル銃を手にした青い目のお人形さん。
これこそがわたしの秘策「自力でダメなら他力本願」である。
なにせここは夢の中にて、リネンビの支配領域。
わたしのギフトやスキル、武器類ともに封じられており、何もできない。この世界で自在にチカラを振るえるのは、リネンビただ一人。
そこでわたしは考えました。「よし、ならば彼女自身にがんばってもらおう」と。
だから、わたしは心の底から願ったんだ。「ルーシー、カモン!」ってね。
そいつをまんまと釣りあげてくれたリネンビ。いきなり挨拶代わりの銃弾を喰らって、あのザマというわけさ。
しかしリネンビはしぶとかった。
左目付近がごっそりと欠損し、白い頭蓋骨やら脳みそやらが露出し、全身血だらけ。
そんな状態にもかかわらず立ち上がる。
「私のチカラを利用した? ……おのれ、小賢しいマネを。甘い顔をしておればつけあがりおって。こうなったら」
残っている方の目玉が憤怒のあまり、いまにも飛び出しそうな形相のリネンビ。
けれども彼女の台詞が最後まで発せられることはなかった。
なにせ、ルーシーに続いてわたしの胸元より飛び出してきたサメのぬいぐるみによる、追撃を受けたから。
全長一メートルほどのミニチュアサイズで登場したのは宇宙戦艦「たまさぶろう」にて、出撃と同時にホーミングレーザーを斉射。数多の光の線がオカッパ頭の少女の肉体をズブズブと貫き蹂躙する。
「がはっ」
ノドを貫いた閃光により、リネンビが吐き出したのは怒声ではなくて血の塊。
どろりとした黒いそれが、足下へと落ちていく光景がやたらとゆっくりと感じられた。
立て続けに不意打ちを喰らい、とっさのことに反応できなかったリネンビ。その目はすでに焦点が定まっておらず、意識も朦朧とし、かろうじて立っているカラダが海中の水草のようにゆれている。
その身を最後に巨大な鋼の拳が襲う。
富士丸くんの正拳突きが炸裂。こちらは拳のみの登場にて通常サイズ。
そのためにリネンビごと自宅に大穴を開けてしまった。
「わーお、おかげで夕陽と街の風景がよく見える。たぶんこれが見納めになるだろうから、いまのうちにしっかりと拝んでおくかな」
大穴の縁にどっかと胡坐をかいて、わたしはもう二度と戻ることのない自分が育った世界を静かに眺める。
改めて思い返せば、こんな風に自分の街を見たことなんてなかったな。そんな機会を与えてくれたことにだけは、リネンビに感謝だね。
眼下に広がる街の景色。ずらっと並ぶたくさんの家々の中から仲のよかった友達の家の屋根を見つけた。そこでパジャマパーティーをしたとき、恋バナなんてせずに、わいわい徹夜でクソゲー攻略に明け暮れたっけか。
自然と目がよく見知っているところを探す。
たまに学校帰りに買い食いに立ち寄るコンビニ。
あのアフロな店員がオネエだと判明したときには、わたしの周囲ではちょっとした事件であった。
やたらと電気風呂が強烈な銭湯と、そのノッポな煙突。
いつかは登ってやろうとか、小さい頃にはわりと本気で考えていたっけか。さすがにやらなかったけど。
交通量が多くて信号待ちにイラつく国道。
年末年始になると地獄の大渋滞が発生して、歩道を走る園児の三輪車に抜かれる高級スポーツカーの姿に、わけもなく大笑いしたものである。
夏休みになるとラジオ体操が開かれていた公園。
皆勤賞でノートと鉛筆二本とかふざけんなっての……。
やれやれ、そこかしこに想い出がいっぱい。本当にイヤになるぐらい忠実に再現されてある街並み。
いつしかわたしは、それらを喰い入るように見つめていた。
頬を伝う涙に気づくこともなく。
やがて陽が沈み残光のひと筋が消える頃。
夢の世界は壁からペンキが剥がれるかのようにして、ポロリポロリ、ゆっくりと崩壊していった。
9
あなたにおすすめの小説
通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~
日之影ソラ
ファンタジー
ゲームや漫画が好きな大学生、宮本総司は、なんとなくネットサーフィンをしていると、アムゾンの購入サイトで妖刀が1000円で売っているのを見つけた。デザインは格好よく、どことなく惹かれるものを感じたから購入し、家に届いて試し切りをしたら……空間が斬れた!
斬れた空間に吸い込まれ、気がつけばそこは見たことがない異世界。勇者召喚の儀式最中だった王城に現れたことで、伝説の勇者が現れたと勘違いされてしまう。好待遇や周りの人の期待に流され、人違いだとは言えずにいたら、王女様に偽者だとバレてしまった。
偽物だったと世に知られたら死刑と脅され、死刑を免れるためには本当に魔王を倒して、勇者としての責任を果たすしかないと宣言される。
「偽者として死ぬか。本物の英雄になるか――どちらか選びなさい」
選択肢は一つしかない。死にたくない総司は嘘を本当にするため、伝説の勇者の名を騙る。
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?
サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。
*この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。
**週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる