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271 クアドラプル
しおりを挟む顔面にゼニスの放った光のドリルを喰らって、凄まじい回転に首だけでなくカラダまでもが巻きまれて、そのまま大地に叩きつけられた。
脱出しようともがくも、上からの勢いに押されて、どうにもままならない。
地中深くにずんずんとめり込んでいく。
「イダダダッ、乙女の顔になんてことをしやがる! こんチクショーめ!」
わたしは右腕で強引にドリルを掴むなり、肩のあたりに意識を集中。
すると腕が根元からポロリ。これにより外れた腕はドリルに巻き込まれる形となり、吸い込まれるようにしてたちまち我が身から遠ざかっていく。それすなわちゼニス本体の方へと近づくということ。
ちょうどいい頃合いにて、ドカンと盛大に爆ぜた右腕爆弾。ざまぁみやがれ。
至近距離にてモロに爆発を喰らったゼニスの身が吹き飛び、わたしはようやく解放される。
穴倉の底にてポケットより取り出したチョコバーをむしゃむしゃ。
通常の品よりも数倍濃厚激甘仕様にて、わたし専用のアイテム。味は微妙だけど栄養満点。これによって失われた右腕がしゃきんと復活。
すぐさま「とぅ!」と飛び上がれば、地表がけっこうな広範囲に渡ってすり鉢状に抉れており、ズタボロになったゼニスが離れたところに転がっていた。
が、またしてもゆらゆらと立ち上がるなり、その身が光の翼に包まれてしまう。
「チィッ、またかよ」
おもわずわたしは悪態をつき、舌打ち。
そのとき、待ちわびていた一報がついに届く。
「お待たせしました、リンネさま」とルーシーからの通信。
彼女は上空に待機していた宇宙戦艦「たまさぶろう」艦橋内にて、戦いが始まってから、ずっとゼニスを観測分析していたのである。
「まずあの光の翼ですが、周囲から随時魔素を吸収している模様。それがあの異常な能力の乱用を実現させているカラクリです」
「げげっ、それって燃料切れはナシってことじゃないの?」
「はい。たぶんいまのペースでは百年殺し合っても決着はつかないかと」
「とんだ泥試合!」
「頭部を失っても活動を続けていることについては現時点では不明。ただし、気になる点が一つ」
「?」
「あの状態のときには、必ずゼニスの頭上にてわずかながらも空間の揺らぎが発生しているのです。これと似た現象にワタシは心当たりがあります」
そう言ってルーシーが口にしたのは、ノノアちゃんのこと。
ウインザム帝国の星読みの一族。そこの長であるベル・ルミエールさんのご息女。
彼らは第三の眼と呼ばれる特殊能力にて未来を垣間見る。チカラを使っているときには、頭上にボーリングの球のような目玉が出現。
その時の状況に酷似しているらしい。
でもそれらしいモノは浮かんでいない。
「うーん。そういえばゼニスってばノノアちゃんのお母さんの兄だから、伯父さんにあたるんだよね。ということはあってもふしぎじゃないわけか」
姿は見えていないけれども反応はある、と。
こいつはどうにも怪しいねえ。
ならば四の五の考える前にズドンと一発いっときますか。
わたしは復活したばかりのゼニスめがけて攻撃を放つ。
ただし狙いは彼の頭の上の何もない空間。
するとゼニスはわずかに身をよじってかわす動作をとった。
これまでこちらの銃弾を喰らうに任せていたというのに、初めての回避行動!
ということは……。
「なるほど、そこがアンタの弱点か」
にへらと笑みを浮かべるわたしに対して、初めて険しい表情となったゼニス。赤い瞳に殺意が滲む。
「なんだ、ちゃんとそんな顔も出来るんだね。ちょっと見直したよ」
「……」
減らず口を叩くわたしを無言で睨みつけてくるゼニス。
そのまま怒ってくれたら、わたしとしても対処が楽なのに、ゼニスはここでスーッと潮が引くようにして冷静さをとり戻してしまった。
感情のコントロールが上手い。伊達に聖職者というわけではないらしい。
「光翼をこれだけ受けてなおも健在……。攻撃の多彩さといい、頑強さといい、あなたはいったい何なのでしょうかねえ。あの人形といい、本当に興味は尽きないのですが、これ以上のんびりと付き合っていたら、こちらの足下がすくわれかねません。ですので、ここから先は本気でお相手をさせていただきます」
言うなり、ゼニスの背から新たな翼が出現。
合計で八枚となる。
「この二翔は我が『信仰』をチカラに変えるもの。その意味があなたにお分かりになりますか?」
問われてわたしは首をかしげる。
次の瞬間、わたしの身ははるか後方へと吹っ飛ばされていた。
その身に並走するかのようにして飛ぶゼニス。「女神イースクロアへの想いが我がチカラを高める。この意味があなたにお分かりになりますか?」
まばたきしたら景色が一変。
なにやら白いモノの中を突き抜けている。
それは雲。
ここが空の上だと気づいたときには、上空に先回りしていたゼニスによって第三撃を受け、地上へとものスゴイ勢いで落下を開始。
そのままの速度で大地に激突。ガラスの平原に幾筋もの亀裂が走る。
地面に大の字にめり込んだところを、第四撃に見舞われ、より深くカラダが沈む。
衝撃により舞い上がった大量の粉塵が、ダイヤモンドダストのようにきらめく。
わたしを踏みつけながらゼニスが言った。
「もうお分かりしょう? つまりわたしが『光翼』と『信仰』にて、どこまでも強くなれるということが」
女神の声を受信できる「神託」
高次元の存在である女神の言葉を理解できる「翻訳」
女神の威光が込められ、様々な奇跡をなす「光翼」
女神への想いをチカラに変換する「信仰」
ある種の興奮状態にあるのか、高ぶる感情のままに得々と己のことを語るゼニス。
その言葉を信じれば、ゼニスは四つもの能力を保有するクアドラプルチートということになる。
踏みつけられ、地面に縫い留められたままのわたしは、ウゴウゴともがきながらヤツの話しを聞くことしかできない。
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