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月芝

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285 ギャバナの戦い

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 ギャバナ領空内にて。
 リスターナ方面より飛来した巨大な黒銀の怪鳥。大きな翼をはためかせるたびに、月明かりを受けて、体表がぬらりとした不吉な輝きを放つ。
 その前に立ち塞がったのは、空飛ぶクジラを彷彿とさせるギャバナ空軍が誇る巨大飛行船「オニックスマーブル」号。
 艦長席にて指揮を執るのはライト王子。かたわらには護衛役の勇者マコトの姿もある。
 オニックスマーブルを旗艦とし大空に展開されていたのは、カーボランダムより派遣された多数の飛竜船、飛竜隊、ドラゴン隊、そして……。

 キーンという耳をつんざく吸引音。
 大量の空気を飲み込んでは後方へと盛大に炎を吐き出すのは、機体の両翼に取り付けられた円筒状の魔導機械。 
 爆音をあげ、空を切り裂くように飛ぶのはカーボランダムが誇る最新鋭機。
 ルーシーを師と仰ぎ、指導協力のもと研鑽を重ねた勇者ツバサ。空に恋焦がれる彼が、研究開発の末に手に入れた新たな夢の結晶である。
 プロペラを捨てたことでゼロ戦ほどの小回りは失われたが、その分、直線でのトップスピードが格段に上昇。
 この機体で構成された部隊が先陣を切って、怪鳥へと肉薄。
 射程に入ったところで機体にぶら下げていた高威力の魔弾を射出。
 幾筋もの白煙が真っ直ぐに伸びて突き進み、怪鳥へとぶつかり激しい閃光と爆炎をあげた。
 これを開戦の狼煙とし、ライト王子が「全軍、攻撃を開始せよ」と静かな声で命じる。
 命令を受けて、真っ先に飛び出したのは紅い飛竜。
 カーボランダムのスコロ王が駆る個体である。

「いくぞ、野郎ども! 飛竜乗りの誇りに駆けて、ノットガルドの空を守るのだ!」

 後方に続くは、どれもこれも不敵な面構えをした空の戦士たち。
 彼らの操る飛竜が群れをなし、一匹の巨大な龍のごとく夜空を駆ける。
 怪鳥が自分へと向かってくる集団相手に、口を開けて火球を次々と放つ。
 一つ一つがまるで小太陽のごとき輝きにて、触れたが最後、身が灼熱の炎に焼かれてしまうほどの熱量を持つ。
 しかし先頭をゆくスコロ王は怯むことなく、見事な手綱さばきにて相棒を操り、獄炎地獄の間隙を縫っては突き進む。
 スコロ王の進んだ軌道をなぞるかのようにして、空の戦士たちも猛追。
 幾重にも折り重なる熱気と焔のカーテンを抜けて、怪鳥の眼前へと躍り出たスコロ王は、愛用の槍をくり出す。穂先が肉に喰い込むと、勢いのままに怪鳥の脇を駆け抜ける紅い飛竜。
 黒銀の怪鳥のカラダに一筋のひっかき傷ができた。
 それは大きな黒銀の怪鳥にとっては、とても小さな傷に過ぎない。
 だが後続の群れがこれに倣うことで、怪鳥の身が暴風となった飛竜の集団に飲み込まれる形となる。
 やがて最後尾の一頭が飛び去り、嵐が駆け抜けたあとには、全身に無数の斬り傷を負った怪鳥の姿だけが残っていた。
 スコロ王が率いる一団が敵より離れたタイミングにて、ライト王子が全艦に砲撃を命じる。
 飛竜船の側面に設置された砲塔が次々と火を吹き、大空に轟音が鳴り響く。放たれた魔弾が目標に命中。発生する破壊のエネルギーにて夜空が赤く染まる。
 手の空いてる者らは甲板より魔法を放ち、これを援護。
 一斉砲撃の最中に、先陣にて活躍した最新鋭機の部隊が最寄りの基地から補給をすませて戻ってきたので、これに加わる。



 搭載されてあった魔弾を撃ち尽くした艦がじょじょにあらわれ、次第に砲撃の音が減っていき、ついに止まった。
 目標の姿は黒煙に包まれており、視認できない。
 空の向こうを見つめるライト王子の目つきが険しいまま。彼は微動だにせず、静かに煙が晴れるのを待っている。
 重苦しく緊迫した時間が流れる中、おもわず「やったか?」とつぶやいたのはオニックスマーブル号の艦橋内にいた乗組員の誰か。
 それを耳にしたマコトが「おいおい、その台詞はマズいって」と小声でツッコミを入れたところで、動きがあった。
 夜風にて煙が散り、次第に薄まっていく。

「も、目標、いまだ健在なりっ!」

 見張り員の声がかすれて震えていた。
 幾分、草臥れた容姿となった黒銀の怪鳥。
 その瞳が怒りに燃えていた。自分よりもはるかに劣る矮小な存在に、一方的にカラダを傷つけられたことに、黒銀の怪鳥は憤っていた。
 月を仰ぐかのようにして、長い首が天へと向けられる。
 口を開いてい啼き声をあげるも、それはよく聞き取れない複雑な発音をしていた。
 なんら前触れもなく怪鳥の身が風船のように膨れ、シャボン玉のようにはじけて消えた。
 あまりの光景に呆気にとられる一同。
 しかし直後にライト王子は叫ぶ。「くそっ! 総員、抜刀。白兵戦の用意、急げ!」
 怪鳥がはじけたあとに出現したのは翼を生やした無数の異形たち。
 それらがイナゴの群れのごとく、どっと押し寄せてきたのである。

 艦橋のガラスを打ち破り、飛び込んできた一匹を斬り伏せたライト王子。その背を守りながら勇者マコトも戦う。
 艦内のそこかしこで戦闘が始まり、怒号と悲鳴が入り乱れる。
 おそらくは他の飛竜船でも同様の事態に陥っているはず。
 空は秩序を失い乱雑を極めていた。
 最悪の展開であった。ライト王子は乗組員らをまとめつつ、手近な敵を屠り、どうにか態勢を立て直そうとする。
 が、しばらく戦っているうちにライト王子は何やら違和感を覚えた。
 わらわらと群がり、無秩序に襲いかかってくる連中だというのに、ふしぎと艦そのものへの攻撃をしてこない。せいぜいガラスを突き破って侵入してくるばかり。艦を沈めたければ機関部を潰してしまえば簡単なのに。それをしてこないのは、なぜ?
 その理由を考えた際、ライト王子の脳裏にサッとよぎったのが、分裂する前に怪鳥の瞳に浮かんでいた強い憎悪。

「あの目……、なるほど。そういうことか。ならばまだ希望は残っている」

 ライト王子が気づいたのは、黒銀の怪鳥の意図。
 自分を傷つけ貶めた存在を決して許さない。
 ドロドロの怨念。これを晴らすためには、ただの一人たりとも生かしてはおかぬという、凝縮された殺意。それゆえに艦を落とさない。なぜなら空の上であれば逃げ場がないから。
 強すぎる黒い妄執。
 だが皮肉にも、それが異形たちの行動を縛り、ライト王子たちの命脈を皮一枚でつなぎ止めていた。

「じきに頼りになる援軍が駆けつけてくれる。それまで、いま少し持ちこたえよ」

 これに励まされ奮起する兵士たち。
 ライト王子の言葉にウソはない。
 どうにか持ちこたえているうちに、待望の頼りになる援軍が戦場に飛び込んできた。
 敵勢が密集している箇所を狙って突っ込んだのは、ラグマタイトのジャニス女王。

「右を向いても左を向いても敵だらけじゃないか。いちいち狙わないでいいから、こいつは楽でいいねえ」

 炎の魔女王が四肢の先より放つ焔が敵勢を切り裂く。
 そのまま回転を始め渦となり竜巻となり、戦場を薙ぎ払っていく。
 あまりの猛火に、そこかしこで分散して戦っていた飛竜隊の面々が、あわてて逃げ出す。
 先ほどは怪鳥の放った火球の雨の中を、恐れ知らずに突っ込んだカーボランダムの飛竜乗りの猛者すらもが、「ひえー」「うわー」と飛び去るほど。
 苛烈な炎の演舞。
 夜空の舞台で踊るジャニス女王の首には、リンネ式充電池のネックレスの姿があった。
 ジャニス女王の介入によって、再びギャバナ側がどうにか息を吹き返す。
 そこに頼りにある援軍の第二弾が到着。
 ルーシーエアフォースが誇る「ハイエンドペンLG」、千機が敵勢の背後より奇襲に成功。
 戦局を一気に盛り返す。
 とはいえ、まだまだ苦しいガマンの時間は続く。


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