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290 いつもの風景
しおりを挟む日が昇り、カーテンの隙間から差し込む陽の光にて、むくりと起きる。
枕元に置いてあるベルを鳴らそうと手をのばすが、鳴らせた試しがない。
鬼メイドのアルバが姿をあらわす方が早いから。
わたしはアルバの手にかかり、身だしなみを整えてもらう。メイド道を極めんとするアルバのお世話は日を追うごとに、細に密にと行き届いている。
はて、最後に自分で髪をとかしたのはいつであったか……。
わたしの朝は、早くもなければ遅くもない。
予定なんぞあってないようなモノだからだ。
なのに極力、きちんと起きるようにしているのは、リリアちゃんと朝食をともにするためである。
仮にも相手は王族の姫君。居候風情がなんと不敬な! なんて無粋な小言を口にする輩はリスターナ城内にはいない。それにこれは双方が望んで行っていることは周知の事実。
なにせリリアちゃんは学業に政務にと忙しいご身分。ヘタをすると何日もすれちがい。同じ城内にいても姿を見かけないなんてこともある。
これをリリアちゃんがたいそう嘆いた。「リンネお姉さまと会えないのがさみしい」なんてかわいいことを口にする。
わたしとしても癒し要素の欠乏、マイシスター成分不足に苦しむ。
この難問を解決するための朝食会なのである。
今朝の朝食会は、竹林庭園の方でと事前に連絡があったので、そちらに向かう。
すると先に着いていたリリアちゃんとマロンちゃんの姿があった。
早朝にエタンセルさんの剣の指導があると、鍛錬後にマロンちゃんが朝食会に参加することもある。
マイシスターたちがそろい踏みにて、みるみる成分補給。おかげでわたしの中のシスターメーターがぐんぐん上昇。
竹女童の給仕にて優雅に食事をとる。今朝のメニューは竹の葉茶粥膳であった。
和気藹々と朝のひとときを過ごし、やさしい風味に胃とココロをほっこり満たされたところで、リリアちゃんとマロンちゃんは学園へ。
彼女たちを見送ってから、わたしは竹女童から握り飯の竹包みを受け取り、執務室へと足を向ける。
扉をノックして中に入ると、すでに半数ほどの机が埋まっており、職務に精を出している役人たち。
多脚砲台に乗ってシャカシャカとマシンアームを動かしては、書類仕事を手伝っている魔導書とテュルファングの姿もあった。
彼らの向こうにモランくんの顔を見つけて、わたしは「おはよう」と声をかけ、竹包みを手渡す。
ここのところ艶々黒髪の美少年は、よく食べ、よく寝て、よく働き、よく鍛錬している。
心身ともに健やかにて成長期に突入しつつある。食べても食べても、やたらとお腹が空いてしょうがない状態。それゆえの差し入れ。
「ありがとうございます。リンネさま」
うーん。向けられる笑顔がまぶしいぜ。
母親のユーリスさんのお腹も目立ってきており、じきに産まれてくる弟か妹のためにもと、一層の精進を見せるモランくん。おかげで成長著しく将来がますます楽しみ。そろそろ巷に分散している大小のファンクラブを一つにまとめる頃合いかもしれない。
でも、ちょっと困った問題も起こっている。
義父にてリスターナの将軍であるゴードンさん。
師匠にてリスターナの宰相であるダイクさん。
この二人がモランくんの進路を巡って、バチバチ対立。
天から愛されまくって、文武の才が溢れまくっている主人公体質のモランくん。
事務方として政務に携わり国を支える人物として、いずれは自分の後継を託したいとさえ考えている宰相のダイクさん。
剣の才を磨き、立派な騎士となり、ゆくゆくは軍部を担い国を支える人物として、いずれは自分の後継を託したいとさえ考えている将軍のゴードンさん。
とはいえ、どの道に進むのかという選択権はあくまでモランくんにある。
二人もそれは重々承知しているらしく、愛と期待を込めて厳しく指導しつつも、なんとか自陣営に引き込もうと、しのぎを削っているというわけ。
ちょっと想像してみて欲しい。
いい歳をしたジジイどもが、ネコ撫で声にて「こっちへおいでよー」と美少年を誘っている姿を。
どうだい? なかなかにキツイものがあるだろう。
そんなジジイどもは、シルト王や他のえらい人たちと朝から会議中。
優秀であるがゆえに若くしていらぬ苦労を背負い込んだモランくん。その肩をポンと叩き「強く生きろよ。少年」と告げてから、わたしは颯爽と執務室を去る。
そのまま自室へと戻ろうとするも、考えなおして城外へと向かうことにした。
だって下手に大人たちと顔を会わせたら、面倒ごとを押し付けられるかもしれないから。
城を出て街中を散策。
先の狂神との一件の影響はほとんど受けていないので、こちらはとっくにいつも通りの活気を取り戻している。
屋台で串焼きを買っていたら、一匹のカネコがふらふら近寄ってきた。「いい匂いがするにゃあ」
デカい図体をしているネコ型種族の彼らは、本能に従順忠実。恥じも外聞もなく年齢性別関係なしに「欲しいモノは欲しいにゃー」と駄々をこねる特技を持っている。
無法なマネはしないが、グレーゾーンギリギリを突いてくるしたたかさにて、こいつに目をつけられたが最後、逃れるのは至難の業。むしろわずかな身銭を惜しんでグズグズしていたら、気づいたらたくさんのカネコどもに囲まれていた、なんとことも。
しようがないのでわたしは屋台の店主に「そこのカネコにも一本やってくれ」と追加注文。
指ではじかれたコインが宙を舞う。
これを見事にキャッチしたオヤジは「まいどあり」とニカっと笑った。
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