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292 跳躍転移
しおりを挟む宇宙へと飛び出したたまさぶろうが、ノットガルドの惑星を軽く一周遊覧飛行。
わたしは艦橋のモニター越しに見える青を基調とした雄大な景色に、しばし魅入る。
暗黒の世界にポツンと浮かぶ星の存在感が際立つ。
このかがやきは、きっとそこに生きる者たちの命が放つかがやき。
いろいろ問題だらけにて、つまらないいざこざも絶えない場所だけれども、実際に住んでみると案外そう捨てたものでもない。
悲喜こもごも。いいことも悪いこともたくさんあったし、これからもあるハズだ。
玉石混合の宝箱。
というのは少々言い過ぎか、せいぜいごちゃ混ぜのオモチャ箱といったところかな。
わたしの目には、それでも充分にキレイに見えているのだけれども、女神イースクロアにはどうなのだろう。
聖騎士どもを使役し、混乱と破壊の果てに世界の滅亡を誘うような行為をくり返させた彼女の瞳には、このノットガルドがどのように映っているのか?
そのことを彼女に問うてみたい気もするが、めんどうなので止めておく。
その代わりといってはなんだけど、イースクロアのお宅へと近づいたら、これまでのお礼の意味を込めて、魔導砲を全開でぶっ放す所存である。
惑星軌道上を離れた宇宙戦艦「たまさぶろう」が、今度は七つの月へと進路をとる。
最初に向かったのは、因縁浅からぬ青い氷の月エレジー。
狂神ラーダクロアの復活劇は、この地より出土した銀の腕から始まったといっても過言ではあるまい。もっともアレで復活が早まったのか、予定がおかしくなったのかはついぞナゾだが。
そもそもの話、女神フォークロアも姉をバラして封印するのならば、穴を深く掘って埋めるだけじゃなくって、上からコンクリートでも流し込んで、しっかりと固めてくれていればよかったのだ。
わたしがグチグチ言っているうちにも、ラージュ、ゼギナン、スタマーマ、ルクテ、ヤルミ、順番に月を巡っていくたまさぶろう。
七つ目の月カダンへと差しかかったところで、艦長席の隣に立つルーシーが言った。
「座標軸の固定および、エネルギーの充填が完了しました。いつでも跳べます」
わたしはたまさぶろうにお願いして、最後にもう一度だけノットガルドの方を向いてもらう。
しばし無言にて自分たちが住まう星を見つめる。
これまで何度も宇宙へはやって来ていたけれども、今度のはちがう。完全に惑星の姿が視界から消えることになる。
未知の世界に飛び込むことにカラダの芯が熱を持ち、ワクワクとした高揚が抑えきれない。それとともに不安とさみしさが内よりにじみ、胸の上にて消せない染みとなる。
母なる星を旅立つとき、パームレストの女王オハギもきっとこんな気持ちであったのだろうか。
しっかりとノットガルドの姿を目に焼きつけてから、わたしはコクンとうなずく。
それを確認してルーシーが乗組員らに「跳躍転移」と命じた。
宇宙戦艦「たまさぶろう」のハッチおよび、窓という窓にシャッターがおり、各隔壁も次々と展開され、外部との接点を一切遮断。
完全な動く密室となった、たまさぶろう。
その魚々した巨体をくねらせ、長い尾をブンとひと振り。
グンっと加速した宇宙戦艦「たまさぶろう」の身が光に包まれる。
発生した光体は次第に進路上へと向かい形状を鋭角化。矢となって走り、夜空を駆ける流星のようになり、やがてほうき星となって、ふいにその姿が宇宙の闇の中へと潜り込むかのようにして消えた。
空間、距離のみならず時間の流れすらも跳躍するかのごとき転移。
移動中は無音無抵抗にて、一見するととても穏やかな道行。
でも実態はかなりちがっている。例えるならば高層ビルの間に通された一本のロープの上を、命綱なしにて綱渡りしているようなもの。
少しでもバランスを崩してしまえば、あとは奈落へと真っ逆さま。
このロープがわたしたちの突き進んでいる道。気を抜いてうっかりはみ出そうものならば、たちまち外部にある存在にグイっと腕を引かれてカラダを持って行かれてしまう。世界を形造り、世界に満ち、世界を支えている激しいチカラの奔流に巻き込まれて、バラバラにされてしまうことであろう。
わたしのレベルアップにともない、たまさぶろうもまた大幅にパワーアップした。
それによってパームレストの技術を導入するだけでなく、オハギたちの巨大円盤よりも一度に数倍の距離を超える跳躍転移が可能となるも、これを持ってしても一足飛びにはたどり着けないはるか遠方に、女神イースクロアがいると思われる地点はあった。
適度に休憩を挟みつつ跳躍転移を繰り返すこと十九回。
ついにわたしたちは、女神が住まう場所を視界の先に捉えた。
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