わたしだけノット・ファンタジー! いろいろヒドイ異世界生活。

月芝

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293 使者

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 照りのある黄土色の瓦で覆われた三角屋根。
 屋根の上にはちょこんと短い煙突がのっている。
 アイボリーの壁に四角い窓枠は緑色。
 玄関の扉は木製にて、背の高い男性だとかがまなければ頭をぶつけてしまいそう。
 扉の脇にレンガ造りの花壇があるけれども、植物の姿はない。
 敷地内をぐるりと囲んでいるのは白板の柵。
 柵沿いに視線を動かせば、芝が整えられた庭へと至る。
 庭に面した縁側は日当たり良好にて、昼寝に最適そう。
 物干し台が設置されており、真っ白なシーツが風にゆれていた。
 こじんまりとした庭付き一戸建て。
 そんなシロモノが宇宙空間にて、敷地ごとふらふら彷徨っている。

「なんだかスノードームっぽいね。あれが……女神さまのお宅?」

 目の前の光景が信じられずに、わたしは首をかしげた。

「座標および発せられるエネルギーの波形からも、まず間違いないかと」

 データ上は正しいとわかっていても、ルーシーの返事もどこか自信なさげ。
 とはいえ、ここがそうであるというのならば、わたしがやることは一つだけ。

「それじゃあ甲板に行ってくるよ」

 わたしは艦長席を立つ。
 健康スキル持ちは宇宙でもへっちゃら。だから気軽にハッチから外へと出る。
 ただし落とし穴もあるので注意が必要。いくら平気だからとて無重力下で自由に動けるわけではない。体内に仕込まれた神様印の銃器類を上手に扱えば、推進力にて自在に動けるようになるらしいのだが、あいにくとわたしの運動神経はかなり鈍い。不器用にて要領もすこぶる悪い。ゴッドスレイヤーの称号を得た今となっても基本的にかわっていない。
 下手にチカラを込めると自分のチカラに翻弄されて、クネクネと怪しい音頭を踊ることになったので、むしろちょっと悪化したかも。
 カラダとココロとチカラのバランスが著しく崩れたせいで、修行も一からやり直しにて、トホホな状態。
 ルーシーいわく「究極の宝の持ち腐れ」とのこと。
 そんなワケにて、外に出てからは手すりをしっかりと握り、腰に頑強な命綱をつけ、艦橋からはマーキングで監視されつつ、そろりそろりと動く。これでうっかり明後日の方向に飛んでいってもだいじょうぶ、のはず。
 宇宙戦艦「たまさぶろう」甲板にて新たに設置されてあるのは、擬神鋼造りの固定台座。
 片膝立ちにて、すっぽりとわたしの身が収まる造りになっており、計算上では魔導砲をぶっ放してもこの身が飛んで行ってしまうことはない。
 ということになっているそうな。
 いまいち心もとないが、ルーシーたちを信じてわたしは台座に身を置く。
 あちらこちらをしっかりと固定してから、左膝の頭をパカンと開いた。
 中からジャキンと姿をあらわしたのは黒光りしている小型の砲塔。見た目はちょっとずんぐりむっくり。それこそ、いつの時代の兵器だよと言いたくなるようなレトロ具合。しかしそのふざけた見た目とは裏腹に、実態はわたしの魔力を攻撃へと転化して放つ超兵器。魔力を注げば注ぐほどに威力が増す。
 かつて三割程度の感覚で放ったら、次元の壁をぶち抜き、ついでに月も抉り、勢いのままに世界を隔てる境界域をも駆け抜け、ついには隣の宇宙の彼方まで飛来して、パームレスト・エース・レノボニック・クリンクリン・ポリブクロ星人たちとの縁を繋ぐ赤い糸となった。
 あの頃とは比べものにならないほどのレベルアップを成したいま、果たしてその威力やいかに?

 わたしは意識を集中して魔力を練って練って練りまくりのコネまくりにて、こいつをギュギュウっと濃縮して、左膝の魔導砲にドバドバと注ぎ込む。
 一生懸命にがんばっていると、足下より小刻みな振動。
 宇宙戦艦「たまさぶろう」全体がビビビと震えていた。
 てっきり武者震いかと思いきや、単に恐怖で震えているだけだとルーシーが教えてくれた。そんなルーシーの声もちょっと裏返っている。
 うーん、コレはこのまま放っていいものなのだろうか?
 エネルギーがずんずん魔導砲に充填されるほどに、不安も同程度に高まっていく。
 すると視線の先、女神さまの家にて変化があった。
 庭に面した縁側から姿を見せたのは、黒髪ロングの若い女性。
 これが女神イースクロアであろうか? 柴犬頭だったケモ耳な姉とはまるで似ていない。清楚系の色白美人さんである。
 スラリとした細身の彼女が、干してあった洗濯物を取り込もうとするも、その手がぴたりと止まる。
 こちらを見て、キレイな顔がギョッとなり、あわてて家の中へと戻っていった。
 家の中から伝わってくるのは、何やらバタバタとした気配。
 油断していたところに急な来客。住人が戸惑っているのが、手に取るようにわかる。片付けでもしているのだろうか。
 じきに静かになった。
 どうなったのかと様子をうかがっていると、いきなり黒髪の女性が甲板上にあらわれ、不意打ちをかますつもりだったのが、逆に不意打ちを喰らってしまう。
 マズい! 内心にておおいに焦るわたし。冷や汗が背中を伝う。
 しかし黒髪の女性は特に何かを仕掛けてくる様子がない。
 それどころか先ほどの狼狽ぶりはどこ吹く風にて「遠路はるばるようこそ、客人よ。自分は女神イースクロアに仕える者」ツンとすまし顔にて自己紹介をし、「女神さまがお会いになられるそうです」と告げた。


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