わたしだけノット・ファンタジー! いろいろヒドイ異世界生活。

月芝

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294 女神の御座

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 ノットガルドより星の海を渡り、跳躍転移を繰り返すこと十九回。
 ようやくたどり着いた女神の御座。
 わたしたちを出迎えたのは、女神の従者と名乗る黒髪の若い女性。
 彼女から女神のところへ、すぐに案内すると言われた。
 お誘いを受けてわたしは「タイム! ちょっと待って。準備をするから」と答える。
 偉大なる女神さまに会うのに、カラダを清め、きちんと身だしなみを整えるからなんぞと適当な理由をズラズラ並べたら、黒髪の従者は「ふむ。それは殊勝な心掛け」と感心し「それもそうですね。わかりました。では準備が整い次第、声をかけてください」

 我ながらナイス、ファインプレイ。
 機転にて猶予を稼いだわたしは、すかさず艦橋に戻ってルーシーに相談。

「どう思う? やっぱり誘い込んでパクリとか」
「罠ですか……可能性としてはありえますけれども。わざわざ使者を寄越したり、タイムを許容し、無理強いをしてこない点からみても、『とりあえず会ってみるか』といったところなのでは」
「ひょっとして、神さまのお戯れみたいなものかな」
「おそらくはそれに近い感覚かと。もしくはこちらの接近を容易に許している迂闊さから、我々に対する認識が著しく低いとも考えられます」

 超高次元生命体ゆえに、余裕しゃくしゃく。警戒なんて習慣がそもそもない?
 常日頃から神経をピリピリさせては、周囲にビクつきながら地べたを這いつくばって生きている、わたしたちとは根本的に在り方が違う。
 温い環境下で育ったがゆえの危機意識の低さ。いわゆる平和ボケ。
 あるいはすべてを跳ねのけ、ねじ伏せられるという自信のあらわれか。
 まぁ、女神イースクロアの真意については、どこまでいっても推測の域を出ないので、この話題はいったん脇へ置いておくとして……。

「それよりも問題はコイツをどう処理するかだよ」

 わたしはルーシーに自身の左足をペチンと叩いて見せる。
 魔導砲を全力でぶっ放そうと、魔力をズンズン注入されたコイツは、いまとんでもない状態にある。たぶんだけど星の十や二十ぐらい、まとめて消し飛ばすぐらいの破壊力を秘めている。
 そんなシロモノを身につけたまま、フラフラしていたら危なくってしようがないし、気分がちっとも落ち着かない。
 うっかり転んだ拍子にドカンとかなったら目も当てられない。
 どうしたものかと主従にて悩んだ末に、「やっぱり危ないから外しておきましょう」ということになった。
 言われるままに、わたしは左足をつけ根から外して、ルーシーに預ける。

 味のバランス度外視にて、栄養過多なチョコバーをムシャムシャかじりながら、激甘のホットチョコレートをすすり、わたしがせっせと左足を再生すべく準備を整えていたら、なぜだかルーシーはいそいそとヤバイ品を箱に納めて、キレイにラッピングを施していた。
 わたしが怪訝な顔をしていたら、青い目をしたお人形さんは言いました。

「いえ、さすがに生足一本をその辺に転がしておくわけにはいきませんから」と。



 左足がジャキンと復活したところで、シャワーを浴び、歯ブラシをし、髪を整え、服も着替え、身支度を余所行き仕様に整える。
 気合を入れて、いざ出陣!
 宇宙戦艦「たまさぶろう」の甲板に出て、「おーい」と声をかけたら、すぐに女神の従者が迎えにきた。
 お供にルーシーを連れて、わたしは女神の家へと乗り込む。
 案内されるままに玄関扉をくぐる。
 こじんまりとした外観とは裏腹に、中は……。
 なんてこともなく、普通の矮小住宅。
 歩くとギシギシなる廊下の床板。殴ったらベコっと穴が開きそうな漆喰の壁。暖炉のあるリビングには落ち着いた色味の家具やソファーが並び、奥には使い勝手が良さそうなダイニングキッチン。一階にある二部屋のうち一つは従者さんの自室にて、残りは物置と化している書斎。
 それでもって肝心の女神さまがいるのは、中二階という名の屋根裏部屋だというから驚きだ。

「こちらです」

 やや急な階段の傾斜。ハシゴに近い形状にて段の奥行が狭く、足の裏がしっかりと乗せられない。カカトが宙に浮いて不安定。手すりの類もない。「バリアフリーなんぞクソ喰らえ」と言わんばかりの造りにて、上りよりもむしろ下りがおっかなそう。
 そんな階段を慣れた様子で、スイスイ上っていく従者の女性。
 彼女のあとから、わたしはルーシーを抱き「ヨッコラセ」とついていく。
 足取りが微妙に重い。これは単に歩きにくいからだけではなくて、階段を一段上がるごとに、自身を取り巻く環境が激変していたから。
 空気、魔素、いろんなモノがより濃密に、濃厚になっていく。
 隙あらばこちらを圧し潰し、引き延ばし、千切って粉砕しようとでもいうのか。
 これが……神々が住まう世界。
 もしも以前のままのわたしだったら、果たしてどれだけ動けただろう。おもわず呑み込んだツバでゴクリとノドが鳴る。
 途中、先を行く従者の黒髪が揺れて、わたしの方をチラ見。
 彼女は「さすがですね。ここまで自力で来るだけのことはあります」とつぶやく。

 中二階は天井こそ低いものの、仕切りはなく、開けた空間にて大広間のようになっていた。
 手入れが行き届いているのか、床には塵一つも落ちてはいない。照明の類は見当たらないけれども、なぜだか室内は白色光で照らされており、清浄な空気が満ちている。
 一番奥に見えていたのは白いレースのカーテン。
 しつらえられた天蓋つきのベッド。
 カーテンの向こうから発せられるのは、凛とした抜き身の刃のごとき神気。
 それもただの刀ではない。
 おそらくは妖刀の類の。


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