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第八話 怪異伝
しおりを挟む戦国乱世において、表舞台の主役が武士ならば、忍びは裏舞台の主役。
けっして役者を支える黒子などではない。
何代にも渡る狂気じみた鍛錬によって、人を捨てた化け物たちが、ただの下働きなんぞであるものか。
頼りとするのは己が腕のみ。
諜報、暗殺、戦の手伝い、なんでもござれ。
仕事に見合う報酬さえ差し出せば、あるいは帝や天下人の首でさえも嬉々として狩りにいくことであろう。
金次第でどこの誰にでも雇われる無節操ぶりを厭う輩も多いが、それでも彼らの有益性は認めざるをえない。なにより時代がそんな忍びたちを必要とした。
伊賀に甲賀、風魔に根来、世鬼一族に軒猿に甲州透波に鉢屋衆などなど。
いずれも音に聞こえた名だたる忍び集団。
そんな各地の忍び集団たちが、こぞって人を派遣していたのが京の都。
なんといっても日ノ本の中心にて、権謀術数がつねに渦巻くゆえに、裏稼業にて生計を立てている彼らにとっては、いちばんの稼ぎ処の激戦区。
おかげで仕事には事欠かないものの、水面下ではつねに同業者らとの衝突が絶えない。
おそらくは年がら年中、京の夜のどこかでは、必ず忍び同士の壮絶な戦いが繰り広げられていることであろう。
高槻より京へとのぼったとたんに、うっかりそんな場面に遭遇してしまった鈍牛。
だが彼とていちおうは忍びの一族の末席に連なる者。
だからあわてることなく、お勤めの邪魔をしないようにと、遠目に眺めるだけにしておく。そして「ごくろうさまです」の意をこめて頭を下げたら、納得してくれたのか相手はどこぞへ消えたので、やれやれ。
「ふぅ、都はおっかないところだと聞いてたけれど……。それにしてもあの女の人、すごかったなぁ、小梅」
「にゃあ」
「さすがは都の忍びはちがう。うちの里なんてあの人だけで全滅するんじゃないかな」
「にゃにゃあ」
「あんまりうろうろして面倒にまきこまれるのも嫌だし、さっさと安土に向かうとするか」
「うにゃーん」
夜の鴨川のほとりを、肩に乗せた猫と会話をしながら歩く六尺越えの大男。
はたから見れば、忍びたちに負けずおとらずの怪異に映る。
おかげでこののち、都の人々の口をしばし賑わせることになる。
そしてこんな噂の真偽を確かめるようにと、物好きな雇い主から頼まれた忍びたちこそがいい迷惑。
なぜなら草木も眠るよし三つ時に、おっとり刀にて鴨川の河原へとやって来てみれば、同業者らとはち合わせ。「おのれ! 正体を見られたからには」と丁々発止。そこかしこにて忍びの術合戦が起こり、きったはったの地獄絵図。
もっともその頃には、原因となった猫連れの青年の姿はすでに京になく、安土へとのびる街道上にあった。
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