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018 集落奪還作戦・慮骸
しおりを挟む魔導兵の痩せぎすの男が御者に倒され、ふたたび戦局の天秤が大きく揺らぐ。
ダメ押しに俺は残る賊どもに告げた。
「おまえたちが頼りにしている頭ならば、ほら、そこに」
指し示す先に転がるのは生首。
誰のかなんて言わずもがな。
それを目にした瞬間、我先にと賊たちは逃げ出す。
住人たちが歓喜の雄叫びをあげ、これで勝負あり。
集落奪還作戦は成功。
残敵の掃討?
まぁ、それはおいおいということで。
連日の徹夜の上に今朝は方々を走り回り、手強い相手との二連戦、さすがに俺もいささか疲れている。拡張能力の行使は外からではわかりにくいが、体内にて細かい損傷が発生する。人の身に過ぎた力。その代償はしっかり払わされている。
ぶっちゃけ相棒が注意を引きつけてくれていたからこそ、魔導兵を屠ることが出来た。まともに対峙していたら、こうもたやすくケリはつけられなかったことであろう。
だから残党狩りは住人たちにまかせてもいいかなと。
もちろん少し休んで回復したら俺も手伝うつもりだが。
「あぁ、ダイアさん、よくぞご無事で」
子どもたちや戦えない連中といっしょに倉庫内に隠れていた行商人の青年ダヌ、周囲の人混みをかき分けこちらへと。
「しかし驚きました。よもやあの魔導兵が賊に混じっていただなんて……って、あっ! メロウ、メロウは大丈夫なんですか?」
緑のスーラと痩せぎすの男の戦い。その一部始終を物陰から見ていたダヌが俺の相棒の身を案ずる。
だがそれはいらぬこと。なにせ相手はあの謎生物なのだから。
俺が「おーい」と呼べば、彼方よりよちよちと近づいてくる緑の半透明の塊。
随分と遠くにまで吹き飛ばされていたらしく、ようやくのご帰還である。
「おまえもご苦労だったな」
俺が相棒をねぎらうとスーラの体表がぷるぷる震えた。
◇
住人共々みなで勝利の喜びを分かちあい、ひとしきり味わっていた時のことである。
突如として起こった地響き。
まるで崖崩れでも起きたときのような大きな破壊音。
音がしたのは集落の入り口の方。
賊の残党が逃げるときに腹いせに何か悪さをしたのかとおもったが、さにあらず。
駆けつけた俺たちが目にしたのは、崩壊した防壁と門、散乱する瓦礫、それから居合わせた賊の残党を手当たり次第に襲っては、ばりばり喰らっている異形の姿。
なんてことだ……、連中がついた嘘が本当になった。
慮骸の出現である。
でもどうしてここに? まるで頃合いを見計らったかのように。
◇
生体兵器「慮骸」は、大戦末期に人類の狂気が産み出した悪夢。
妖精の鱗粉の登場によって戦場の風景は一変した。
近代兵器、文明の利器の多くが使用不可となり戦いは原始に還る。
いいや、ヒト本来の戦いへと戻ったというべきか。
なにせ生殺与奪の権利を他人に委ねることなく、己が手に取り戻したのだから。
生と死の距離がもっとも近い戦場。
手にする武器は銃火器類から剣や槍などになった。
白兵戦を主軸に、高火力を誇る魔導兵などが随所に投入される。
各国がこぞって似たような戦法をとらざるをえない状況へと追い込まれ、兵の損耗率が尋常ではないぐらいに跳ねあがる。
この事態を打開しようと開発され戦線に投入されたのが、慮骸である。
人為的に創り出された疑似生命体。
様々な動物の部位を継ぎ接ぎされて、慮晶石なる動力源を埋め込まれた異形の怪物。
造物主である人間に従順忠実で、強力かつ使い勝手のいい駒。
慮骸の登場は劇的であった。
なにせあの強力な魔導兵のみで構成された五十人編成の小隊を、ほんの数体のみで全滅せしめたのであるから。
使えるとわかった道具は瞬く間に世に広がる。
各国がこぞって慮骸の研究開発にしのぎを削っては夢中になり、より強力な個体を産み出そうと躍起になる。
でもそのうちに、ときおり言うことを聞かない個体が出始めた。
原因は妖精の鱗粉……。
人類文明を著しく後退せしめた禁忌と、異形の怪物との親和性が何らかのひょうしに高まったのである。
その結果、異形の怪物はより強固かつ狂暴な異形となり、人類の枷をみずから引き千切る。
この現象はまるで病気のように伝染しては、次々と慮骸を狂わせていく。
しかし慮骸の暴走が激化したことにより、ようやく人類は大戦を終わらせる踏ん切りがついたのだから、なんとも皮肉な話であろう。
妖精の鱗粉に汚染された空と大地。
ここはもはや人類の世界ではない。ヒトは生態系の頂点の地位をみずから産み出した存在に奪われた。
この世界の主役は慮骸である。
我々は彼らの脅威に怯えながら、世界の片隅で暮らすことを強いられている。
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