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060 足止め十一日目・裏工作
しおりを挟むいずれはこうなることを予期していたのであろう。
これまでの十日間、オリガはただ無為にぼんやり過ごしていたわけではない。俺を含む第三勢力の十九名と交流を深め、着々と人脈を結び、いざという時には自陣に加わるようにと働きかけていた。
おかげで対立が明確化するなり、全員がアマノ商会側へとつくことを表明する。
対するチグモ商会側は、おもいのほかにグラついている。
ネソに人望がないのは今更だが、警備主任ミアルの職務怠慢ぶりに部下たちの不満が高まっていたところに加えて、ロウセたちの離脱が地味に効いている。
商会長からネソの教育係を任されていたロウセ。彼は疎まれ遠ざけられてからは裏方に徹していたのだが、その支えが失われたからだ。
放っておいても勝手に自滅しそうなチグモ商会。
とはいえそれはこちら側の視点に立った場合の話。向こうは向こうの思惑と手前勝手な理屈と都合で動く。
◇
「……となると、早ければ今夜あたりかな」
「あぁ、ばらけていたら守りきれない。すぐに砂船を動かしてみなで固まっておいた方がいいだろう」
「でもそんなことをして、かえって挑発行為にとられないかな?」
「それならそれで好都合だろう。どのみち衝突は避けられないだろうから」
「だな。あとのことを考えると、向こうさんから先に手を出したという体裁が欲しいな」
「しかし火を使われたらやっかいだな」
「この乾燥した中でか? おいおい、さすがにそこまでバカじゃないだろう」
「向こうは一艘、砂船を失っている。その分を狙うだろうから、たぶん火は使わないはず」
「とはいえ万が一の備えはしておこう。水は厳しいから、念のために消火用の砂を集めておくんだ」
アマノ商会側の御者や警備の者らが集まっての協議中。
そこに俺も混ざっている。大方の予想としてはチグモ商会がちょっかいを出してくることは確定とし、その対策を速やかにこうじるべしとの意見で一致している。
きちんと守りを固めてしまえば、多少の兵力差はどうとでもなる。だが数の上ではこちらが優勢でも、単純な武力では向こうが勝っているのは否めない。
そこで俺は挙手し提案する。
「なぁ、あっちにもまともな頭を持ったやつがいるはずだから、それとなく声をかけておかないか? さすがに大商会に雇われているから面と向かってネソに歯向かうのは躊躇するだろうけど、積極的に戦いに加担しないようにと言い含めておくのは可能だと思うんだが」
ミアルや直近の旗下の者たちはともかく、それ以外や同業者の連中はみな今回の件について内心では辟易しているはず。本来ならば起こる必然性がまるでない衝突だからだ。
御者と騎獣の業務は人流と物流を担うこと。
預かった荷をより安全確実に指定された先へ届けることこそを職務としている。戦いはあくまで必要に迫られて、副次的なことに過ぎない。
隣国へと向かう旅路。大なり小なり危険がつきまとうので、依頼主と御者が特約条項を結んでいる可能性は多分にあるが、だからとて依頼主の蛮行に付き合う義理はない。今回のは完全に逆恨みと私怨による暴走。さすがに契約の適応外であろう。
外商に駆り出されている御者だけあって、全員がそれなりの実力者揃い。相棒の騎獣の戦闘力もかなり高いはず。そんなシロモノが敵味方となり本気でぶつかって殺し合いをしたら、中州がしっちゃかめっちゃかになってしまう。肝心の荷を台無しにしてしまっては元も子もない。
これを回避するだけでもかなり損害は抑えられるはず。
提案は支持された。
俺は自陣を整える準備を免除されるかわりに、裏工作を任されて声かけに専念することになる。
方針が固まったところで各々、さっそく行動を開始。
俺は散歩を装ってふらふらほっつき歩いては、隙をみてチグモ商会の御者たちに接触をはかる。
実際に声かけをしたところ、感触は悪くない。
というか一部は憤りを隠そうともしなかった。
御者にとって騎獣は特別な存在。苦楽を共にしてきた相棒にして家族も同然。なかには半身みたいに考えている者もいて、もしも相棒が倒れればそれを機に引退する者もいるほど。
だからこそ昨夜見た光景に衝撃を受けた御者は多く、危険な夜の砂河へと船出をさせて、無駄死にをさせたネソにたいそう腹を立てていたのである。
「この分ならば、御者と騎獣たちの方は大丈夫そうだな」
ほくそ笑みつつ朗報を手土産に、俺はアマノ商会の陣営へと合流した。
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