にゃんとワンダフルDAYS

月芝

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011 気がつけば檻の中

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 ガタンとの揺れ。
 ハッと目を覚ました和香は、しばし呆然。
 流れる車窓、ブロロロと走るワンボックスカー。
 和香はいまネコの姿にてペット用キャリーケースの中にいる。
 頑丈そうなハードタイプの箱はまるで檻のよう。
 車内後部には似たような箱がいくつも積まれており、中には自分と同じように閉じ込められているネコたちがいた。

 ――どうしてこうなった?

 和香はぽわぽわ記憶を辿る。

  ◇

 自室にて練習がてらネコに化けた和香は、いい陽気だったもので近所を散策しようと思い立つ。
 ネコの体の使い方にも慣れておくようにと、御所さまから言われていたからだ。
 はじめは視点の低さに戸惑い、何もかもが大きく感じられて腰がひけていたものの、じきにブロック塀の上でもスタスタ歩けるようになり、高いところから飛び降りるのもへっちゃらになった。
 人の姿のときの和香は可もなく不可ものなく、平凡な運動神経である。
 なのに、ネコになったとたんに飛んだり跳ねたり、まるで忍者のように軽やかに動ける。なんなら爪を使ってシュタタタと壁走りなんて芸当もできちゃう。

 これは楽しい!

 ただし、狭い穴とかを見ると、なぜだか無性に頭から飛び込みたくなるのにはちょっと困った。
 あと鼻がやたらと利くようになって、イヤなニオイまで拾っちゃうことも。
 図鑑で調べたらネコの臭覚は人間の二十万倍とのこと。ちなみにイヌは数千万から一億倍らしい。
 おかげで慣れるまでが、たいへんだった。

 でも、やっぱり楽しい!

 ネコの姿で自分の住んでいる町を探検するのは、とってもワクワクする。
 浮かれてにゃんにゃん鼻歌まじりに散歩をしていたら、ふと漂ってきたのはとってもいい香りであった。
 バラのような香りにて、甘く官能的でドキドキする。
 おもわず鼻をスンスン、嗅ぐほどに目がとろんとして頬が緩むのを抑えられない。
 和香はニオイがする方へとふらふら引き寄せられていく。

 気づいたらどこぞの袋小路に入り込んでいた。
 三方を高い建物の壁に囲まれており、町中の死角のような場所。
 突き当りまで進むと、そこには観葉植物の鉢がひとつ置いてあった。
 周囲には自分と同じように、香りに誘われたのであろうネコたちが複数たむろしている。
 みんなご機嫌にて、まるで酔っ払っているかのよう。
 なんとなく妙だと和香は警戒しようとするも、そんな意志とは裏腹に視界は霞がかかったかのようにぼやけ、足は止まることなく、鉢植えへとフラフラ近づいていくばかり。
 観葉植物へと近づくほどに、ニオイがますます濃くなっていった。
 和香はぼーっとしてしまい、何も考えられなくなっていく。
 このままだとダメだとわかっていても、あらがえない。

 ついに鉢植えのそばにまでやってきた。
 でも、「にゃ? (あれ?)」

(えっ、ちょっとまってよ。これって作り物の造花だ、本物じゃない。なのに、どうしてこんなにニオイがしているの?)

 本物そっくりのフェイクグリーンであった。
 人工物であるがゆえに枯れることもなく、また虫がつくことも、水をやる必要もない。
 ゆえに衛生面を気にする病院やら飲食店などでは、重宝されているインテリアアイテム。
 かくいう音苗家のトイレにも小さいのがひとつ飾られている。
 まぁ、それはさておき……
 もっとよく確かめようとしたのだけれども、和香の記憶はそこでプツリと途切れていた。

  ◇

「うんにゃあ~。(まだ、ちょっと頭がくらくらする)」

 自分の状態を、和香はまるで二日酔いで辛そうにしているお父さんみたいだとおもった。
 それでピンときた。

「にゃんにゃにゃーっ! (あれって、マタタビのニオイだったんだ!)」

 ネコにマタタビ。
 だから酔っ払ってメロメロになってしまった。
 でも、どうしてフェイクグリーンから、マタタビの香りがしていたのか?
 疑問の答えは、運転席の方から聞こえてきた男たちの会話により判明する。

「ちょろいもんっすね兄貴」
「まぁな、ちょいとこのスプレーをふきつけてやれば、放っておいてもネコが勝手に集まってくるんだから。ネットでみつけたときには半信半疑だったが、いい買い物をした。そろそろストックが少なくなってきたし、また追加で頼んどかねえとな」

 兄貴と呼ばれたのは、助手席にてふんぞり返っているサングラスの男。
 その手には無地のスプレーボトルがあった。
 ボトルの中にはマタタビのフレグランスの液体――それもかなり濃い成分のモノが入っているようだ。天然由来ではありえない、きっと人為的に合成されたものであろう。
 和香は助手席から運転席へと視線を動かす。
 ハンドルを握っていたのは、いかにもチンピラといった風の弟分。

「今回は毛並みのいいのが手に入りましたから、きっと高値でさばけますよ」
「あぁ、とくにあの茜色のやつはいい値がつきそうだ」
「やりましたね、兄貴。それで、できればあっしにもおこぼれを……」
「ははっ、わかってるよ。いま倉庫にある分も全部さばけたら、たんまりボーナスをはずんでやらぁ」
「あざーす! さすが兄貴、一生ついていきます」

 どうやら男たちの正体は人さらいならぬ、ネコさらい?
 でもって、ああやって集めたネコたちを、売りさばいては小遣い稼ぎをしているっぽい。
 とどのつまり彼らは悪党にて、自分はマタタビのニオイで誘き寄せられて、へべれけになっているところを捕獲されてしまったということである。

「うにゃらあーっ! (えらいこっちゃ!)」

 和香は頭を抱えた。


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