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013 任侠コテツ一家
しおりを挟むガヤガヤしていた階下が、じきに静かになった。
シャッターもガシャコンと閉じられる。
荷物の搬入がすんだのだ。
作業がひと段落ついたところで、男たちは連れ立って倉庫から出ていった。
漏れ伝わってきた会話からすると、ワンボックスカーを駐車しにいくついでに、コンビニにも寄ってくるらしい。
とどのつまり、しばらくの間、連中は帰ってこないということ!
チャンス到来である。
いまのうちに人間の姿に戻って脱出しようと和香は思い立つ。
だがしかし……
「にゃにゃにゃんなぁ~。(問題は、このケースの強度なんだよねえ)」
閉じ込められているネコ用のキャリーケース、大きさはボストンバックぐらい。プラスチックや鉄でできたハードタイプ。丈夫で安定感があるから、ペットの負担が少ないのが利点である。デメリットは重くてかさばること。
平均的な五年生よりも小柄な和香といえども、ちとキツイ。
――いや、ギリギリいけるか?
といった具合にて、人間の姿に戻ったはいいけれど、ろくに身動きがとれなくなる可能性が高い。もしくはネコから人へとムクムク変身する過程で、ケースを内側からバンッと破いちゃうかも。
それならそれでべつにかまわない。
けれども、そうなると気になるのがケースの強度である。
プラスチックっぽい材質だし、たぶん頑張れば壊せるとはおもう。
でも、もしも壊せなかったら悲惨だ。
和香はまだ未熟者なのでポンポンとは変身できない。必要な気がたまるまでのタイムラグがある。その間、人の姿で狭いケースの中でスシ詰めとかは、さすがにちょっと……
なかなかおもいきれずに、和香は「にゃーん。(うう~ん)」
そんなこんなで、グズグズしていた時のことである。
突然、階下がザワつく。
さりとて男たちが戻ってきたわけじゃない。
いったい何事かとスフィンクスも億劫そうにのそり、身を起こしている。
それを横目に和香が聞き耳を立てていると――
「うにゃにゃにゃー! (モタモタすんな、さっさとそこの小窓から逃げやがれ)」
「にぃーにぃーにぃー! (あーダメっす、小さい子からっす)」
なんぞという声がして、騒ぎはどんどん大きくなる一方。
どうやら倉庫内に忍び込んだ何者かが、次々にケージの鍵を開けては、囚われていた動物たちを解放しているっぽい。
そこで和香がハッと思い出したのは、自分が運び込まれるときに感じた気配のこと。
てっきりネズミでも住み着いているのかとおもっていたのだけれども、ちがったらしい。
搬入のどさくさにまぎれて何者かが侵入していたのだ、それも複数。
その何者かの正体については、すぐに判明した。
タタタタと階段を勢いよく駆けあがってきたとおもったら、華麗にジャンプしてからの、くるりんぱ。
「にゃん、にゃにゃにゃにゃーん! (オレ、参上。このコテツさまがきたからには、もう安心しな)」
シュタっと着地を決めたのは、明るいシルバーグレーの毛色にブラックの縞模様が入った大きな鯖虎(さばとら)のネコである。
グリーンとイエローがグラデーションになった独特の色合いの瞳で、キリリ。
不撓不屈(ふとうふくつ)、何者にも縛られないといった風の目つきは、いかにも野良ネコ特有のもの。
なお名前はさっき自分で言った。
「しゃーっ、ぐるるるるるるる。(このオレのシマで、好きにはさせねえぞ。仲間たちはオレが守る)」
言うなり、コテツは器用にケースの留め金をはずしてくれたもので、和香はようやく外へと出られた。
「にゃーん。(ありがとう)」
和香がニコリとの笑みにて礼をのべれば、コテツはもじもじ。
おや? 意外に照れ屋さんみたい。
コテツは「にゃにゃ。(へへっ、気にすんな)」と言いつつ、スフィンクスも解放しようとする。
けれども、いろいろこじらせているのか、スフィンクスは「なぁなぁ。(自分にはかまわんでくれ)」とやはり素っ気ない。
しかしコテツはそんなこと知ったこっちゃねえとばかりに、相手の襟首をむんずとくわえるなり、ケースから引きずり出してしまう。
で、なおもぐずるスフィンクスのお尻を叩いては、いっしょに逃げるように促す。
この強引さに押される格好で、スフィンクスもしぶしぶ重い腰をあげた。
けれども、和香らが階段の途中まで降りてきたところで……
「にゃーにゃーにゃー! (げっ、あいつら、もう帰ってきやがった)」
「なぁーなぁーなぁー! (マズイっす、大ピンチっす)」
スマートフォンを忘れたとかで、取りに戻ってきたのはネコさらいの二人組の片割れ、チンピラ風の弟分であった。
ガチャリと勝手口のドアを開けるなり、倉庫内の異変に気がつき「なんじゃこりゃーっ!」
大脱走が露見して、表にいたサングラスの兄貴分も大あわて。
「くそっ、いったいどうなっていやがる! すぐに捕まえろ! いや待て、この際、ザコはどうでもいい。高値がつきそうなやつだけでも確保するんだ」
そう言ったサングラスの男が急にロフトの方を振り向いたもので、階段半ばにいた自分たちの姿をばっちり目撃されてしまい、和香は「うにゃっ!」
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