にゃんとワンダフルDAYS

月芝

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057 命の価値

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 ルナちゃんはまだ小さい。いかにネコとて屋根の上になんてのぼれないはず。
 なのにあんな高いところで平然としているばかりか、向けてくる威圧や放つ気配が尋常ではない。目だけが異様に爛々としていた。瞳に炎を宿したかのよう。
 ジョーの言っていた通りであった。
 あきらかに様子がおかしい。
 やはりお母さんの亡霊にとり憑かれているっぽい。

「にゃあ、にゃあ。(ルナちゃん、ルナちゃん)」
「にゃーっ。(ルナーっ)」

 和香とコテツが懸命に呼びかけるも、反応はなし。
 まるでこちらの言葉が耳に届いていないかのようだ。
 このままでは危ない。うっかり足でも滑らせたら大事だ。
 だからコテツは和香にこしょこしょ。

「うにゃにゃにゃにゃん。(オレが行く。おまえたちはこのままルナの注意を引きつけておいてくれ)」

 コテツがサッと身をひるがえす。
 拝殿前には多くの動物たちがいる。正面から突っ込むのは無謀だろう。そこでコテツはあっちから見えないところまで参道を戻り、脇へと入って大きく迂回し、ルナちゃんのところへと向かうつもりのようだ。
 その場に残った和香とホワイトナイトは、自分たちの役割りを果たすべく、第二の鳥居を潜った。

  ◇

 拝殿前に陣取っている動物たち。
 傷だらけで震える中学生を囲み、無言のままじっとこちらを凝視している。
 慎重に近づいていくも、互いの距離が五メートルほどになったところで、不意に屋根の上のルナちゃんがこっちに話しかけてきた。

「ヌォ~~ン、ごろごろごろ。(おまえらは味方か……それとも敵か……)」

 子ネコらしからぬ低くて野太い声。
 その双眸はすべてを見透かしているかのようで、和香はビクリ、たちまち動けなくなってしまった。
 自分の正体がバレている! バレた上での問いかけだ!
 和香はそう感じたのと同時にハッとする。

 ――動物の味方をするのか、それとも人間の味方をするのか。

 突きつけられたのは選択。
 先祖返りにて目覚めた猫又の血、覚醒した能力の数々。
 和香はネコの姿に変身できるようになり、ネコたちのみならず、町に住むいろんな動物たちと言葉を交わすようになった。
 人とネコ、ふたつの世界を行ったり来たりする二重生活。
 和香はネコの姿のときには思考や行動がついネコ寄りとなり、人間のときにはそちらに引きずられる。
 中学生たちのやったことを考えれば、心情的には完全に動物たちの味方だ。
 それは間違いない。間違いないはず……

 なのに、和香はすぐに答えられなかった。
 ネコとしての自分は「やっちまえ!」であり、人としての自分も「くたばれ!」と声高に叫んでいる。
 それでも――だ。
 迷っている自分がいる。
 やはり自分は人間だから、どうしても少年らを庇ってしまっているのかもしれない。
 怒っているけれども、心のどこかでは動物と人間の命を比べて、人の方に重きを置いているのかもしれない。
 学校で先生たちは命の大切さを説く。
 大人たちもことあるごとに命の価値を口にしては、命は平等だと言う。
 命を粗末にすることはよくないこと。
 命は地球よりも重いと言ったえらい人もいたっけか。

 ――でも本当にそうなの? だって、実際には……

 憑かれているルナちゃんからの問いかけ。
 あれこれ考えてしまい、和香の頭の中はぐちゃぐちゃになった。
 和香はおおいに迷っている。隣にいるホワイトナイトも黙ったまま、じっとたたずむばかり。
 そんな二頭に「ふん」と鼻を鳴らしたルナちゃんが、いよいよ動物たちに少年の処刑を命じようとした。
 だがしかし、間際にて拝殿の屋根にあがり阻止する者があらわれた。
 コテツである。

「シャーッ! シャーッ! シャーッ! (さっきからごちゃごちゃうるせえ! うちのルナの口を使って、勝手なことをほざいてんじゃねぇよ!)」

 啖呵を切った鯖虎が走り出す。
 猛然と、ルナちゃんのもとへ駆け寄る。


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