【R18】夫には想い人がいるので

mokumoku

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「という訳で婚約解消をしていただきたいのです」
バルカンの職場を訪れたフロティナは顔の前で手を組み、そう言った。
「……無理だと言っているではありませんか」
「なぜです?私もあなたとの婚約は望んでいないのでございます!」フロティナは目の前がぐにゃりと歪む心地がする。なぜ国のためや家のためでもなんでもないのに愛のない結婚をしなければならないのか……

「……くっ……だから前も説明したように……」
「そんなもの二人だけの秘密にいたしましょう?誰にも言わなければよいのです……!」フロティナは最早懇願した。
「あなたも嫌なように私も嫌なのでございます……こんな見た目だけがいい、いじわるな男性と結婚するために今まで生きてきたわけじゃないのです……!お父様に申し訳ない!」フロティナはポロポロと涙を流しながらバルカンをディスった。
「お、おい!貴様……無礼だぞ!いいか?お前などはそもそも俺とは普通に話すこともできんのだぞ!それにいじわるだと!?」
「じゃあ嫌な性格をしてらっしゃる男性で……ああ~自己肯定感と自意識が強いのも本当に無理でございます……バルカン様ただの騎士見習いじゃありませんか……それなのにそんな偉そうなことを……愚か……愚かで嫌な性格をした男性……」フロティナは顔を真っ赤にして怒るバルカンを見て一層嫌な気分になりしくしく泣いた。
優しい男性と穏やかに人生を歩みたかった……
贅沢は言わないのだフロティナは。
別に自分の事を愛してくれてさえいれば、フロティナは自分が働いて男性を養ったってかまわなかった。ただ、週末温かい日が差すテラスでお茶を飲みながら笑い合う関係の夫婦が良かった。

………………それなのに!

「もう最低でございますぅ……しかも婚約早々愛さない宣言……!本当ゴミのような男性!ゴミカス!なんでこんな男性と結婚しなきゃならないのでしょうか?お願いしますお願いします……どうか婚約を解消か破棄してくださいませえ……」フロティナは涙をダクダク流しながらその場で土下座をした。
「お、おい!やめろ!」
「やめません……バルカン様が私と婚約を止めるというまでこうしていますう」
ヒソヒソとその場を通り過ぎる人が二人の様子に……非難めいた視線を送る。
それは主にバルカンに向けたもののように思われる。

「……く、くそ!わかった!とにかくここではダメだ!そ、早退してくるから待っていろ!とんでもない女だ!」フロティナはバルカンの言葉を聞いてパッと顔を上げ、目薬をポケットにしまう。
「婚約をやめる気になりました?」
「ああ!俺だってやめたいからな!クソ!馬鹿な女め!」
バルカンはフロティナにそう言い捨てると、肩を怒らせながら仕事場に戻って行った。
受付の女性が心配そうにこちらを見ていたので彼女の方を向き「すごく嫌な男性でございますよね」とケロリとした様子で笑った。


「キャーなんですの?おやめくださいまし!だれかあ~なんだかご無体をしようとしてらっしゃいますこの男性は私に~」フロティナは戻ってくるなり腕をつかみ、どこかへ連れ去ろうとするバルカンに大きな声を出す。
「お、おい!やめろ!倒置法を使うな!俺の部屋に来ないなら話は進まないぞ!」
「必要事項でございますか?なら仕方がないですね」フロティナはケロリとした顔で言う。
「クソ、警護がこちらを見てる。メンドクサイことになる前に訂正しろ」
「はい、今のは冗談でございます~」フロティナがそう大きな声を出すと、張りつめていた空気が和らいだ。

「クソ……調子が狂う。なんだお前は」
「お前ではなく私はフロティナでございます。バルカン様って記憶力が低くていらっしゃるんですね。クスクス……」フロティナは腕を乱暴に引かれながらクスクス笑う。バルカンはプライドを傷つけられたからか顔を真っ赤にした。
「バルカン様、私はこれからバルカン様のために一人称をフロティナにすることにいたしました。ちなみにフロティナはとても賢い女ですのでバルカン様の名前は一回で覚えましたよ?」フロティナはエッヘンと胸を張りながら得意げな調子で話す。
彼女の人より豊満な胸が強調されて、すれ違う騎士が彼女の胸に釘付けになる。
バルカンは「ち……」と舌打ちをして「馬鹿にするな女!俺だって名前ぐらい記憶しておる」
「またまた……強がりはよくありませんよ?知らないことはきちんと知らないという方が逆に恥ずかしくないものなのですフロティナは賢いので知っているのですよ」
「うるさい女だ!だまれ!」
バルカンが物凄い勢いで後ろを振り返ると、フロティナの顔の前に顔を近づけた。
彼がそうすることで大抵の人間は黙る……それほどにまで今の彼は恐ろしかった。が――――

「あらあらバルカン様、アンガーマネジメントという言葉をご存じですか?そして怒りを我慢できない人はやはりIQが低いと統計が出ておりますゆえ……」フロティナは怒りを露わにするバルカンを前に、気の毒そうな視線を送っただけだった。
「……ぐぬぬぬぬぬぬ……!」
「アンガーマネジメントとは自分の怒りをコントロールする技法の名称でございますよ?バルカン様、怒りを覚えた時は五秒数えます。いいですか?フロティナも一緒にやりますよ~はい、いーち、にー、」
「うぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぅ……」
「大丈夫ですよ。理解できなくても何度か繰り返して習慣にしていきましょうね♪」
フロティナは顔を真っ赤にして怒りに震えるバルカンに優しくそう告げた。
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