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「いいか、お前をここに住まわせるにおいて、隊長と指揮官、そして軍司令部から許可を取る必要がある」
「男装しますか?」フロティナは心なしかワクワクした様子でバルカンを見た。
この前自分の病弱な兄の代わりに男装をして学園に入学する話を見たばかりだったからだ。
「……なに!?そ、そんなことはしなくてもいい。お前は俺の婚約者だからな」バルカンは馬鹿を見るような目をフロティナに向けると壁に掛けられた上着を羽織り、帽子を被る。
「あら残念」フロティナは鏡の前で帽子の角度を調整するバルカンの背中に向けてケロリとそう言った。
――――――――――――
「自分の婚約者なのですが、自宅が先日の大雨で水没してしまったようでして……彼女は身よりもなく……」バルカンは指令室の中でそう言いながら頭を下げる。フロティナもニコニコ笑いながら頭を下げた。
「どうしますか」
「うーん……最低限室内から出るときは報告書を作成するように、寮外に出る際は外出届の提出、婚約者単独での行動は慎んでいただきたい、ですが……」なんだか全員が乗り気ではない空気を醸し出している…………
「……お待ち下さい、寮には機密文章等持ち込むことは出来ないが……軍の関係者以外を滞在させるには複雑な手続きが必要だ。ストライカー候補生、君は一週間後から長期休暇予定だったな」
「バルカン様ってあまり職場に必要とされてないんですね」
ガタガタと乗り合い馬車に揺られながらフロティナが言う。
「う……うるさい!黙れ貴様!お前のせいじゃないのか?ヘラヘラと愛想を振りまきよって!男好きの売女め!お前が寮内にいると規律が乱れると判断されたのだ!」
「だって急に休みを変更してもらえるなんて……本当に必要な存在なら無理じゃありませんか。それになんだか手続きが面倒くさいから休みを前倒しにした雰囲気を感じました♡」
フロティナは自身の口元に人差し指を当てるとニッコリ笑った。バルカンがあまりにも大きな声を出すので、周りに迷惑が掛かると思ったからだ。
「ぐぐぐぐぐぐぐぐ」
「でもそのおかげでどうにかなりそうですね♡ありがとうございます」フロティナは爽やかに微笑みながら、窓の外を見た。美しい田畑など……自然の風景が流れていく。
フロティナはなんだかその様子に、心が洗われていくような気がしていった。
これから二人はバルカンの故郷へと行く事になった。
正確には故郷の近郊。
あの例の……掟の解決法を尋ねにいくのだ。
(きっと私と一緒な所をあの幼馴染に見られては困るから故郷を避けたのだわ)フロティナにとってそれはとてもありがたいことだった。
フロティナだってあの幼馴染には会いたくなかった。
(メンドウなことになりそうだもの)
「でもその掟を作った方……まだご存命なんですか?最近出来た掟なんですか?」フロティナはバルカンを見上げてそう尋ねる。
てっきり掟というものだから――随分前、100年位は経っていると思っていたのだ。
しかしそうだとしたら相手は最低でも100歳を超えるご長寿、今平均寿命が男性55、女性60なので……かなり長生きだ。
(そんなご老人が私たちに元気に対応などできるとは思えないわ)
「……まあそんなところだな……うん、掟を作った者も生きている可能性はある。探せばな」
バルカンは窓枠に肘を付き頬杖をしながら彼にしては珍しい程小さな声で静かにそう言った。
「ここから少しまだ向こうなんだ」馬車の終点で降りると、辺りはすっかり暗くなっている。森の入り口と言ってもいいだろうこの停留所はほぼ真っ暗闇だ。
バルカンは背中のバッグから携帯用のランタンを取り出すと、手慣れた様子で組み立て明かりをつけた。「今日はもう暗い、そこに宿があるから明日の朝向かうぞ」バルカンはランタンを掲げながらフロティナを振り返った。
「二名なんだが」バルカンはうたた寝をしていたであろう受付にそう声をかけ、部屋をとる。
木の床は森の湿気を吸って少したわんでいるのか、歩くたびにギシギシと音を立てた。
「お風呂に入りたいです」フロティナはニッコリ笑ってバルカンに話しかける。
「残念だったな、安宿だから風呂はない」
「え!?」
フロティナは今世紀最大のショックを受けた。
宿に入浴施設がないなんてことが許されていいのだろうか!法律違反では!?(そんな法律はない)
「いやです。フロティナはお風呂に入りたいです!」
フロティナはだだをこねた。
「なんだと!?諦めろ!ないものはないんだ!……ッチ、本当にうるさい女だ!」バルカンの怒り声が廊下に響く。こんな夜遅くに……なんて迷惑な男性だ、とフロティナは思う。しかし今はそれどころではない。お風呂に入らずに寝るなんて!
「いやですいやです!フロティナはさっき流れていた川に飛び込みます!」
「なに!?あんな淀んだ川に飛び込んだら病気になるぞ!?やめろ!」
――――――――――
「なんだか悪いことをしているみたいで楽しいですね!」
「……ッチ……クソなんで俺がこんなことを……」バルカンがブツブツ文句を言いながら地面にスコップを突き立てた。ここら近郊は火山活動が盛んなようで、川沿いのこの辺りは掘ると温水が湧き出るらしい。
廊下で二人ギャーギャー騒いでいたら、受付にいた店主がスコップを貸してくれたのだ。
「バルカン様、フロティナは肩まで浸かりたいです」
フロティナはバルカンの横にちょこリとかがみ込みながら、膝に手を置いて彼を見上げた。
「ぐぐぐぐぐぐぐぐ……」
真っ暗でよく見えなかったが、きっとバルカンは顔を真っ赤にして怒っているんだろうなとフロティナはクスクス笑う。空を見上げると星がとてもよく見える夜だ――今日は。
「男装しますか?」フロティナは心なしかワクワクした様子でバルカンを見た。
この前自分の病弱な兄の代わりに男装をして学園に入学する話を見たばかりだったからだ。
「……なに!?そ、そんなことはしなくてもいい。お前は俺の婚約者だからな」バルカンは馬鹿を見るような目をフロティナに向けると壁に掛けられた上着を羽織り、帽子を被る。
「あら残念」フロティナは鏡の前で帽子の角度を調整するバルカンの背中に向けてケロリとそう言った。
――――――――――――
「自分の婚約者なのですが、自宅が先日の大雨で水没してしまったようでして……彼女は身よりもなく……」バルカンは指令室の中でそう言いながら頭を下げる。フロティナもニコニコ笑いながら頭を下げた。
「どうしますか」
「うーん……最低限室内から出るときは報告書を作成するように、寮外に出る際は外出届の提出、婚約者単独での行動は慎んでいただきたい、ですが……」なんだか全員が乗り気ではない空気を醸し出している…………
「……お待ち下さい、寮には機密文章等持ち込むことは出来ないが……軍の関係者以外を滞在させるには複雑な手続きが必要だ。ストライカー候補生、君は一週間後から長期休暇予定だったな」
「バルカン様ってあまり職場に必要とされてないんですね」
ガタガタと乗り合い馬車に揺られながらフロティナが言う。
「う……うるさい!黙れ貴様!お前のせいじゃないのか?ヘラヘラと愛想を振りまきよって!男好きの売女め!お前が寮内にいると規律が乱れると判断されたのだ!」
「だって急に休みを変更してもらえるなんて……本当に必要な存在なら無理じゃありませんか。それになんだか手続きが面倒くさいから休みを前倒しにした雰囲気を感じました♡」
フロティナは自身の口元に人差し指を当てるとニッコリ笑った。バルカンがあまりにも大きな声を出すので、周りに迷惑が掛かると思ったからだ。
「ぐぐぐぐぐぐぐぐ」
「でもそのおかげでどうにかなりそうですね♡ありがとうございます」フロティナは爽やかに微笑みながら、窓の外を見た。美しい田畑など……自然の風景が流れていく。
フロティナはなんだかその様子に、心が洗われていくような気がしていった。
これから二人はバルカンの故郷へと行く事になった。
正確には故郷の近郊。
あの例の……掟の解決法を尋ねにいくのだ。
(きっと私と一緒な所をあの幼馴染に見られては困るから故郷を避けたのだわ)フロティナにとってそれはとてもありがたいことだった。
フロティナだってあの幼馴染には会いたくなかった。
(メンドウなことになりそうだもの)
「でもその掟を作った方……まだご存命なんですか?最近出来た掟なんですか?」フロティナはバルカンを見上げてそう尋ねる。
てっきり掟というものだから――随分前、100年位は経っていると思っていたのだ。
しかしそうだとしたら相手は最低でも100歳を超えるご長寿、今平均寿命が男性55、女性60なので……かなり長生きだ。
(そんなご老人が私たちに元気に対応などできるとは思えないわ)
「……まあそんなところだな……うん、掟を作った者も生きている可能性はある。探せばな」
バルカンは窓枠に肘を付き頬杖をしながら彼にしては珍しい程小さな声で静かにそう言った。
「ここから少しまだ向こうなんだ」馬車の終点で降りると、辺りはすっかり暗くなっている。森の入り口と言ってもいいだろうこの停留所はほぼ真っ暗闇だ。
バルカンは背中のバッグから携帯用のランタンを取り出すと、手慣れた様子で組み立て明かりをつけた。「今日はもう暗い、そこに宿があるから明日の朝向かうぞ」バルカンはランタンを掲げながらフロティナを振り返った。
「二名なんだが」バルカンはうたた寝をしていたであろう受付にそう声をかけ、部屋をとる。
木の床は森の湿気を吸って少したわんでいるのか、歩くたびにギシギシと音を立てた。
「お風呂に入りたいです」フロティナはニッコリ笑ってバルカンに話しかける。
「残念だったな、安宿だから風呂はない」
「え!?」
フロティナは今世紀最大のショックを受けた。
宿に入浴施設がないなんてことが許されていいのだろうか!法律違反では!?(そんな法律はない)
「いやです。フロティナはお風呂に入りたいです!」
フロティナはだだをこねた。
「なんだと!?諦めろ!ないものはないんだ!……ッチ、本当にうるさい女だ!」バルカンの怒り声が廊下に響く。こんな夜遅くに……なんて迷惑な男性だ、とフロティナは思う。しかし今はそれどころではない。お風呂に入らずに寝るなんて!
「いやですいやです!フロティナはさっき流れていた川に飛び込みます!」
「なに!?あんな淀んだ川に飛び込んだら病気になるぞ!?やめろ!」
――――――――――
「なんだか悪いことをしているみたいで楽しいですね!」
「……ッチ……クソなんで俺がこんなことを……」バルカンがブツブツ文句を言いながら地面にスコップを突き立てた。ここら近郊は火山活動が盛んなようで、川沿いのこの辺りは掘ると温水が湧き出るらしい。
廊下で二人ギャーギャー騒いでいたら、受付にいた店主がスコップを貸してくれたのだ。
「バルカン様、フロティナは肩まで浸かりたいです」
フロティナはバルカンの横にちょこリとかがみ込みながら、膝に手を置いて彼を見上げた。
「ぐぐぐぐぐぐぐぐ……」
真っ暗でよく見えなかったが、きっとバルカンは顔を真っ赤にして怒っているんだろうなとフロティナはクスクス笑う。空を見上げると星がとてもよく見える夜だ――今日は。
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