7 / 48
7
しおりを挟む
「ほら!早く入れ貴様!下らん女だ!お前は!」
しばらくするとぼんやりと星を見上げていたフロティナの耳に汚言が飛び込んできた。
バルカンは足元にスコップを突き立ててイライラとヒザを揺らしている。
「わあ!バルカン様すごい!穴を掘ることはできるんですね♡さすがでございます!」
フロティナは顔の前で手を組み、それを見た。
人が二人程入れそうな穴にはたっぷりのお湯がホカホカと湯気を立てている。
「バルカン様も入りますか?」
フロティナは上着を脱ぎながら、後ろを向いて仁王立ちしているバルカンに声を掛ける。
「は、入るわけなかろう」少し動揺したような返答にフロティナはクスクス笑う。
真っ暗闇、月明かりが木々の隙間から差し込むのが唯一の光源だ。
「全裸になっても?」
「ぶ!わ、わざわざ言わんでいいそんなことは!本当にはしたない女だ!」
フロティナから見えるバルカンのシルエットは大きく肩を揺らすと、その場にあぐらをかいた。
フロティナは遠慮なく服を全部脱いで、木の枝にかけると湯の中に手を差し入れる。
少し熱めの温度で……なかなか悪くない。
ちゃぷ……と足先から入るとフロティナの要望通り、肩まで浸かれる深さと広さだ。
「バルカン様、とても気持ちがいいです。ありがとうございます」フロティナは端に寄りかかるように腕を載せるとバルカンにそう声を掛けた。
「……へ、変なことを言うな!」
「お礼を言っただけなのに……本当に意地悪な男性ですね」シルエットだけなのに相変わらず意地悪を言うバルカンのシルエットを、フロティナは一瞥して目をつぶる。
(これからどうなるのかしら……)
身体の末端からじわじわと温かさが入り込んでくる。
フロティナはそれに集中するようにリラックスした。
じわじわとそれが全身に行きわたる。
そうすることでより効果的な入浴ができるような気がしていた。
本当は石鹸で全身を洗いたいが、仕方がない。
贅沢は言わないでおこう。
「クソ!本当になんなんだ貴様は」
「別に貸してくれと言ってません。フロティナは『びちゃびちゃの全裸で帰るしかないですね』と言っただけです」
上裸のバルカンがフロティナをチラリと見て舌打ちをしている。
湯に浸かれたのはよかったのだけれど……タオルを忘れてしまったのだ。
濡れたまま服を着てもよかったのだけれど……フロティナは着替えを一着しか持っていない。
そこで上記のセリフを言ったところ、顔を真っ赤にして怒りながらバルカンが自分の服をフロティナに着せたのだ。
髪からはポタポタと雫が滴って岩っぽい地面を濡らす。
「もっと髪の水気を切ってこいよ!」バルカンはプンプン怒りながらフロティナの髪を絞っている。「乱暴にしないでくださいまし……フロティナは髪を大事にしております」フロティナはその少し乱暴な手つきに苦言を呈する。
ジャージャーと音がしそうなくらい水気がドンドン切れていくが……
「ぐぐぐぐぐぐぐぐ」
バルカンはイライラした様子だが、反論するとめんどくさいと判断したのか少し力を緩めている。
「でもありがとうございます。バルカン様は脳筋でらっしゃいますからすぐ乾きますね」フロティナは殆ど水気の切れた髪にペタペタ触れながら微笑んだ。
「ぐぐぐぐぐぐぐぐ……」
「あ、バルカン様フロティナのお洋服が地面に付きそうですよ?もっと気を付けて運搬してくださいまし」
「どういうことだ!」
部屋に入ったバルカンが絶叫する。
「しー、バルカン様夜ですよ?」フロティナはマナーのなっていないバルカンに向けて、自身の唇に人差し指を付ける。
「なんでお前はそんなに落ち着いているんだ!」
「バルカン様が床に横になればいいので」フロティナは、受付で預かってもらっていた荷物からタオルを取り出し、服の裾から中に手を入れて身体を拭いた。
「な、な、な……」
「ふふふ、冗談です♡」用意された部屋がダブルベッドルームだったからだ。
ようするにこの部屋にはベッドが一台しかない。
「フロティナも物凄く嫌ですが仕方がないではありませんか……今日は満室だと受付でおっしゃってましたし、我々は知らない人が見れば親密な関係に見えます。夜に二人で宿に来たんですから。広いから端で眠りましょう」フロティナは頭にタオルを巻きながら、寝間着を頭から被ると器用にその隙間からバルカンに借りた服を脱ぐ。
「洗って返します」フロティナはバルカンの服を丁寧に畳む。
「……な?貴様、一体どこで……」
「近くに川が「おい!やめろ!あの淀んだ川で洗うのはよせ!」バルカンは物凄い勢いでフロティナから自身の服を奪い取る。
「そのままでは申し訳ないです……」
「い、いい!気にせんで……」バルカンは少し湿っているその服を乾かすためなのかハンガーにかけると、窓の縁に掛けた。
「でも同じベッドで寝るなんて、お泊り会みたいですね」
「は?お前何を言ってるんだ!俺とお前は異性同士なんだぞ!成人した!」バルカンはわなわなしながらフロティナを見る。
「え?でもフロティナたちは他人みたいなものですよね?バルカン様も手を出したりはしないですよね?」フロティナはそう言うとベッドに潜り込む。慣れない馬車での長距離移動でへとへとだ。
それに先ほどの入浴効果でフロティナは体内から睡眠の指令が出ているように瞼が重かった。
「だってフロティナとバルカン様は……数日後には他人になるんです……何も起きませんよ……」フロティナは欲望の赴くままに瞼を閉じると、あっという間に眠りに落ちたのでバルカンがその後何かを言ったのかはわからない。
しばらくするとぼんやりと星を見上げていたフロティナの耳に汚言が飛び込んできた。
バルカンは足元にスコップを突き立ててイライラとヒザを揺らしている。
「わあ!バルカン様すごい!穴を掘ることはできるんですね♡さすがでございます!」
フロティナは顔の前で手を組み、それを見た。
人が二人程入れそうな穴にはたっぷりのお湯がホカホカと湯気を立てている。
「バルカン様も入りますか?」
フロティナは上着を脱ぎながら、後ろを向いて仁王立ちしているバルカンに声を掛ける。
「は、入るわけなかろう」少し動揺したような返答にフロティナはクスクス笑う。
真っ暗闇、月明かりが木々の隙間から差し込むのが唯一の光源だ。
「全裸になっても?」
「ぶ!わ、わざわざ言わんでいいそんなことは!本当にはしたない女だ!」
フロティナから見えるバルカンのシルエットは大きく肩を揺らすと、その場にあぐらをかいた。
フロティナは遠慮なく服を全部脱いで、木の枝にかけると湯の中に手を差し入れる。
少し熱めの温度で……なかなか悪くない。
ちゃぷ……と足先から入るとフロティナの要望通り、肩まで浸かれる深さと広さだ。
「バルカン様、とても気持ちがいいです。ありがとうございます」フロティナは端に寄りかかるように腕を載せるとバルカンにそう声を掛けた。
「……へ、変なことを言うな!」
「お礼を言っただけなのに……本当に意地悪な男性ですね」シルエットだけなのに相変わらず意地悪を言うバルカンのシルエットを、フロティナは一瞥して目をつぶる。
(これからどうなるのかしら……)
身体の末端からじわじわと温かさが入り込んでくる。
フロティナはそれに集中するようにリラックスした。
じわじわとそれが全身に行きわたる。
そうすることでより効果的な入浴ができるような気がしていた。
本当は石鹸で全身を洗いたいが、仕方がない。
贅沢は言わないでおこう。
「クソ!本当になんなんだ貴様は」
「別に貸してくれと言ってません。フロティナは『びちゃびちゃの全裸で帰るしかないですね』と言っただけです」
上裸のバルカンがフロティナをチラリと見て舌打ちをしている。
湯に浸かれたのはよかったのだけれど……タオルを忘れてしまったのだ。
濡れたまま服を着てもよかったのだけれど……フロティナは着替えを一着しか持っていない。
そこで上記のセリフを言ったところ、顔を真っ赤にして怒りながらバルカンが自分の服をフロティナに着せたのだ。
髪からはポタポタと雫が滴って岩っぽい地面を濡らす。
「もっと髪の水気を切ってこいよ!」バルカンはプンプン怒りながらフロティナの髪を絞っている。「乱暴にしないでくださいまし……フロティナは髪を大事にしております」フロティナはその少し乱暴な手つきに苦言を呈する。
ジャージャーと音がしそうなくらい水気がドンドン切れていくが……
「ぐぐぐぐぐぐぐぐ」
バルカンはイライラした様子だが、反論するとめんどくさいと判断したのか少し力を緩めている。
「でもありがとうございます。バルカン様は脳筋でらっしゃいますからすぐ乾きますね」フロティナは殆ど水気の切れた髪にペタペタ触れながら微笑んだ。
「ぐぐぐぐぐぐぐぐ……」
「あ、バルカン様フロティナのお洋服が地面に付きそうですよ?もっと気を付けて運搬してくださいまし」
「どういうことだ!」
部屋に入ったバルカンが絶叫する。
「しー、バルカン様夜ですよ?」フロティナはマナーのなっていないバルカンに向けて、自身の唇に人差し指を付ける。
「なんでお前はそんなに落ち着いているんだ!」
「バルカン様が床に横になればいいので」フロティナは、受付で預かってもらっていた荷物からタオルを取り出し、服の裾から中に手を入れて身体を拭いた。
「な、な、な……」
「ふふふ、冗談です♡」用意された部屋がダブルベッドルームだったからだ。
ようするにこの部屋にはベッドが一台しかない。
「フロティナも物凄く嫌ですが仕方がないではありませんか……今日は満室だと受付でおっしゃってましたし、我々は知らない人が見れば親密な関係に見えます。夜に二人で宿に来たんですから。広いから端で眠りましょう」フロティナは頭にタオルを巻きながら、寝間着を頭から被ると器用にその隙間からバルカンに借りた服を脱ぐ。
「洗って返します」フロティナはバルカンの服を丁寧に畳む。
「……な?貴様、一体どこで……」
「近くに川が「おい!やめろ!あの淀んだ川で洗うのはよせ!」バルカンは物凄い勢いでフロティナから自身の服を奪い取る。
「そのままでは申し訳ないです……」
「い、いい!気にせんで……」バルカンは少し湿っているその服を乾かすためなのかハンガーにかけると、窓の縁に掛けた。
「でも同じベッドで寝るなんて、お泊り会みたいですね」
「は?お前何を言ってるんだ!俺とお前は異性同士なんだぞ!成人した!」バルカンはわなわなしながらフロティナを見る。
「え?でもフロティナたちは他人みたいなものですよね?バルカン様も手を出したりはしないですよね?」フロティナはそう言うとベッドに潜り込む。慣れない馬車での長距離移動でへとへとだ。
それに先ほどの入浴効果でフロティナは体内から睡眠の指令が出ているように瞼が重かった。
「だってフロティナとバルカン様は……数日後には他人になるんです……何も起きませんよ……」フロティナは欲望の赴くままに瞼を閉じると、あっという間に眠りに落ちたのでバルカンがその後何かを言ったのかはわからない。
406
あなたにおすすめの小説
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
『お前を愛する事はない』なんて言ってないでしょうね?
あんど もあ
ファンタジー
政略結婚で妻を娶った息子に、母親は穏やかに、だが厳しく訊ねる。
「『お前を愛する事は無い』なんて言ってないでしょうね?」
公爵令嬢は結婚式当日に死んだ
白雲八鈴
恋愛
今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。
「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」
突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。
婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。
そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。
その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……
生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。
婚約者とその番という女性に
『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』
そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。
*タグ注意
王太子に理不尽に婚約破棄されたので辺境を改革したら、王都に戻ってきてくれと言われました
水上
恋愛
【全18話完結】
「君は中身まで腐っている」と婚約破棄されたエリアナ。
そんな彼女は成り行きで辺境へ嫁ぐことに。
自身の知識と技術で辺境を改革するエリアナ。
そんな彼女を、白い結婚のはずなのに「膝枕は合理的だ」と甘やかす夫。
一方、エリアナを追放した王都では、彼女の不在の影響が出始めて……。
一年だけの夫婦でも私は幸せでした。
クロユキ
恋愛
騎士のブライドと結婚をしたフローズンは夫がまだ婚約者だった姉を今でも想っている事を知っていた。
フローズンとブライドは政略結婚で結婚式当日にブライドの婚約者だった姉が姿を消してしまった。
フローズンは姉が戻るまでの一年の夫婦の生活が始まった。
更新が不定期です。誤字脱字がありますが宜しくお願いします。
病弱令嬢…?いいえ私は…
月樹《つき》
恋愛
アイゼンハルト公爵家の長女クララは生まれた時からずっと病弱で、一日の大半をベッドの上で過ごして来た。対するクララの婚約者で第三皇子のペーターはとても元気な少年で…寝たきりのクララの元を訪ねることもなく、学園生活を満喫していた。そんなクララも15歳となり、何とかペーターと同じ学園に通えることになったのだが…そこで明るく元気な男爵令嬢ハイジと仲睦まじくするペーター皇子の姿を見て…ショックのあまり倒れてしまった…。
(ペーターにハイジって…某アルプスの少女やんか〜い!!)
謎の言葉を頭に思い浮かべながら…。
このお話は他サイトにも投稿しております。
〖完結〗終着駅のパッセージ
苺迷音
恋愛
分厚い眼鏡と、ひっつめた髪を毛糸帽で覆う女性・カレン。
彼女はとある想いを胸に北へ向かう蒸気機関車に乗っていた。
王都から離れてゆく車窓を眺めながら、カレンは振り返る。
夫と婚姻してから三年という長い時間。
その間に夫が帰宅したのは数えるほどだった。
※ご覧いただけましたらとても嬉しいです。よろしくお願いいたします。
あなたの言うことが、すべて正しかったです
Mag_Mel
恋愛
「私に愛されるなどと勘違いしないでもらいたい。なにせ君は……そうだな。在庫処分間近の見切り品、というやつなのだから」
名ばかりの政略結婚の初夜、リディアは夫ナーシェン・トラヴィスにそう言い放たれた。しかも彼が愛しているのは、まだ十一歳の少女。彼女が成人する五年後には離縁するつもりだと、当然のように言い放たれる。
絶望と屈辱の中、病に倒れたことをきっかけにリディアは目を覚ます。放漫経営で傾いたトラヴィス商会の惨状を知り、持ち前の商才で立て直しに挑んだのだ。執事長ベネディクトの力を借りた彼女はやがて商会を支える柱となる。
そして、運命の五年後。
リディアに離縁を突きつけられたナーシェンは――かつて自らが吐いた「見切り品」という言葉に相応しい、哀れな姿となっていた。
*小説家になろうでも投稿中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる