【R18】夫には想い人がいるので

mokumoku

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「ほら!早く入れ貴様!下らん女だ!お前は!」
しばらくするとぼんやりと星を見上げていたフロティナの耳に汚言が飛び込んできた。
バルカンは足元にスコップを突き立ててイライラとヒザを揺らしている。
「わあ!バルカン様すごい!穴を掘ることはできるんですね♡さすがでございます!」
フロティナは顔の前で手を組み、それを見た。
人が二人程入れそうな穴にはたっぷりのお湯がホカホカと湯気を立てている。

「バルカン様も入りますか?」
フロティナは上着を脱ぎながら、後ろを向いて仁王立ちしているバルカンに声を掛ける。
「は、入るわけなかろう」少し動揺したような返答にフロティナはクスクス笑う。
真っ暗闇、月明かりが木々の隙間から差し込むのが唯一の光源だ。
「全裸になっても?」
「ぶ!わ、わざわざ言わんでいいそんなことは!本当にはしたない女だ!」
フロティナから見えるバルカンのシルエットは大きく肩を揺らすと、その場にあぐらをかいた。
フロティナは遠慮なく服を全部脱いで、木の枝にかけると湯の中に手を差し入れる。
少し熱めの温度で……なかなか悪くない。
ちゃぷ……と足先から入るとフロティナの要望通り、肩まで浸かれる深さと広さだ。
「バルカン様、とても気持ちがいいです。ありがとうございます」フロティナは端に寄りかかるように腕を載せるとバルカンにそう声を掛けた。

「……へ、変なことを言うな!」
「お礼を言っただけなのに……本当に意地悪な男性ですね」シルエットだけなのに相変わらず意地悪を言うバルカンのシルエットを、フロティナは一瞥して目をつぶる。
(これからどうなるのかしら……)
身体の末端からじわじわと温かさが入り込んでくる。
フロティナはそれに集中するようにリラックスした。
じわじわとそれが全身に行きわたる。
そうすることでより効果的な入浴ができるような気がしていた。
本当は石鹸で全身を洗いたいが、仕方がない。
贅沢は言わないでおこう。



「クソ!本当になんなんだ貴様は」
「別に貸してくれと言ってません。フロティナは『びちゃびちゃの全裸で帰るしかないですね』と言っただけです」
上裸のバルカンがフロティナをチラリと見て舌打ちをしている。
湯に浸かれたのはよかったのだけれど……タオルを忘れてしまったのだ。
濡れたまま服を着てもよかったのだけれど……フロティナは着替えを一着しか持っていない。
そこで上記のセリフを言ったところ、顔を真っ赤にして怒りながらバルカンが自分の服をフロティナに着せたのだ。
髪からはポタポタと雫が滴って岩っぽい地面を濡らす。

「もっと髪の水気を切ってこいよ!」バルカンはプンプン怒りながらフロティナの髪を絞っている。「乱暴にしないでくださいまし……フロティナは髪を大事にしております」フロティナはその少し乱暴な手つきに苦言を呈する。
ジャージャーと音がしそうなくらい水気がドンドン切れていくが……
「ぐぐぐぐぐぐぐぐ」
バルカンはイライラした様子だが、反論するとめんどくさいと判断したのか少し力を緩めている。
「でもありがとうございます。バルカン様は脳筋でらっしゃいますからすぐ乾きますね」フロティナは殆ど水気の切れた髪にペタペタ触れながら微笑んだ。
「ぐぐぐぐぐぐぐぐ……」
「あ、バルカン様フロティナのお洋服が地面に付きそうですよ?もっと気を付けて運搬してくださいまし」



「どういうことだ!」
部屋に入ったバルカンが絶叫する。
「しー、バルカン様夜ですよ?」フロティナはマナーのなっていないバルカンに向けて、自身の唇に人差し指を付ける。
「なんでお前はそんなに落ち着いているんだ!」
「バルカン様が床に横になればいいので」フロティナは、受付で預かってもらっていた荷物からタオルを取り出し、服の裾から中に手を入れて身体を拭いた。
「な、な、な……」
「ふふふ、冗談です♡」用意された部屋がダブルベッドルームだったからだ。
ようするにこの部屋にはベッドが一台しかない。

「フロティナも物凄く嫌ですが仕方がないではありませんか……今日は満室だと受付でおっしゃってましたし、我々は知らない人が見れば親密な関係に見えます。夜に二人で宿に来たんですから。広いから端で眠りましょう」フロティナは頭にタオルを巻きながら、寝間着を頭から被ると器用にその隙間からバルカンに借りた服を脱ぐ。
「洗って返します」フロティナはバルカンの服を丁寧に畳む。
「……な?貴様、一体どこで……」
「近くに川が「おい!やめろ!あの淀んだ川で洗うのはよせ!」バルカンは物凄い勢いでフロティナから自身の服を奪い取る。
「そのままでは申し訳ないです……」
「い、いい!気にせんで……」バルカンは少し湿っているその服を乾かすためなのかハンガーにかけると、窓の縁に掛けた。

「でも同じベッドで寝るなんて、お泊り会みたいですね」
「は?お前何を言ってるんだ!俺とお前は異性同士なんだぞ!成人した!」バルカンはわなわなしながらフロティナを見る。
「え?でもフロティナたちは他人みたいなものですよね?バルカン様も手を出したりはしないですよね?」フロティナはそう言うとベッドに潜り込む。慣れない馬車での長距離移動でへとへとだ。
それに先ほどの入浴効果でフロティナは体内から睡眠の指令が出ているように瞼が重かった。

「だってフロティナとバルカン様は……数日後には他人になるんです……何も起きませんよ……」フロティナは欲望の赴くままに瞼を閉じると、あっという間に眠りに落ちたのでバルカンがその後何かを言ったのかはわからない。

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