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「なるほど、本当に懐いているな……」
バルカンはモンスター移送の際、フロティナを背に乗せた大型獣を見て目を丸くしている。
「この個体は穏やかなのかもしれません」
フロティナが首筋を撫でると、モンスターは一つしかない目を気持ちよさそうに細める。
「檻での移動になるけど大丈夫?すぐに着くからね」
フロティナの声に、大型獣は首を傾げた。
「国に到着次第大型獣は自然公園に、フェアリーは植物園に移送する」
「わかりました」
フロティナは籠に入ったフェアリーの目を見つめながら頷き、彼らを輸送車に搬入する。少しだけお別れだ。
「他に何か憂いはあるか?」
バルカンは輸送車を見送るフロティナにそう言ったけれど……「いいえ」と彼女は笑う。
「ふん、では行くか」
「あ、あの……」
恐る恐るといった様子で声が掛けられてフロティナは振り返る。
そこにはマリエルを先頭に同じ部署の皆が立っていた。
「は、発言をお許しください」
マリエルがそう言って地面に膝をつこうとしたのを見たバルカンが「構わん、膝をつくな」と制する。
フロティナはすっかり忘れていたが彼は王族だ。
かなり勇気を出して話掛けてくれたであろうマリエルはホッと肩の力を抜いて顔を上げた。
普段王族と接する機会などほぼ、ないのだ。
「先輩……あの、これ」
マリエルは花束をフロティナに渡すと、ぶわっと涙を溢れ出させた。
「マリエルさん……」
「み、みんなで……あの、さ、寂しくなります」マリエルは涙を拭いながら途切れ途切れに言葉を紡ぐ。フロティナはそんな彼女の小さな肩を軽く抱いた。
「寂しいか」
ガタガタと豪華な馬車に揺られながら、ぼんやりと外を眺めていると――バルカンがフロティナを抱き寄せる。「いいえ、ただ……私って……人間の事がよくわかってなかったなあ、と」
フロティナはぼんやりと遠くを見つめたままそう言った。
働き始めてからずっと、自分はどこか人と違うような気がして距離を置かれていると思っていた。フロティナはポロポロと涙を落とすと「……私が思うよりずっと――――人間って優しかったのかもしれません。嫌な人ばかりではなかった……もう……レッドゾーンはないのに。私に……あんなふうにしてくれるなんて」と小さな小さな声で呟く。
バルカンはそんな彼女の頬にそっとキスをすると「お前が優しくしていたからだ」とフロティナを優しく抱きしめた。
前、痣を消す旅路ではこんないい路は通らなかった。ボコボコとした山道をのんびりと登って行った。バルカンが握る手は、とても大きく温かい。
「これからは俺がお前の力となろう」
バルカンはフロティナの肩を抱きながら力強く言った。
「……はい」フロティナはその肩に寄りかかるように身を寄せると目を閉じる。
「おい気を付けろよ?」
馬車が停車すると先に降りたバルカンがそう言って手を差し伸べて来た。
「……わあ」
フロティナは彼にエスコートされながら降り立った地面の質感に驚き、思わず声を上げる。
クリスタルのように透き通った道がずっと続いている。
暑くもなく寒くもない……そんな気候だ。
しかし空を見上げると美しい青空に太陽が近い。
「ここは温度管理がされている。常に適温だ。雨の日も風の日も」バルカンはフロティナにそう説明すると「お前もちょうどいいか」と身を屈めて顔を覗き込んできた。
「はい、何か被膜がありますか?実際の気候とは違うということですよね?」
以前バルカンが言っていた「人間はまたここに来たくなる」という言葉を思い出しながらフロティナは彼の瞳をじっと覗いた。
なるほど――――これはまた来たくなってしまう。
人によっては自分のものにしたくなるかもしれない。
しかし竜族に人間が敵うはずがない――だからこそその挑戦はたくさんの被害を生み、無意味に終わるだろう。
「ふふ、企業秘密だ」バルカンはニヤ……と笑い、フロティナに肘を差し出す。
「バルカン様ったら……」フロティナは肘に当たりそうになった胸を隠す。
「な、なーにを馬鹿な事を想像しておるのだ!エスコートだエスコート!」バルカンは顔を真っ赤にして怒ったのでフロティナはクスクス笑う。彼をからかうのは面白い。
クリスタルの道を行くと山のように大きな建物が見えて来た。
「俺たちの住む城だ」
「とても大きい。掃除が大変そうです」
「そうだな、お前にはこれから馬車馬のように掃除をしてもらわねばならん」
バルカンは機嫌の良さそうな様子で軽口を叩く。しっかり前を見て――――フロティナは習ったわけではないのに流れるように足が前に進むのは……恐らくバルカンのエスコートが上手いせいだろう。
なんだか既視感を感じる自分に(デジャブは……脳のバグ……)と言い聞かせ気を落ち着かせる。
来たこともないのに、なんだか見たことのある風景や一度夢でみたような気分になる現象は脳が起こした誤作動のせいだ。
脳が『記憶があったように誤解』させているのだ。
実際にはそんな経験もしていなければ、夢も見ていない。
フロティナは呪文のように心の中で唱える(知れば怖くない)と――――
「緊張しているのか」バルカンが静かな声で言った。
この彼の耳心地のいい声がフロティナは好きだ。
皆そう感じるのだろうか?それとも自分だけなのだろうか?
「……少しだけ」
フロティナはニッコリ笑いながら、これから暮らす新居に足を踏み入れた。
バルカンはモンスター移送の際、フロティナを背に乗せた大型獣を見て目を丸くしている。
「この個体は穏やかなのかもしれません」
フロティナが首筋を撫でると、モンスターは一つしかない目を気持ちよさそうに細める。
「檻での移動になるけど大丈夫?すぐに着くからね」
フロティナの声に、大型獣は首を傾げた。
「国に到着次第大型獣は自然公園に、フェアリーは植物園に移送する」
「わかりました」
フロティナは籠に入ったフェアリーの目を見つめながら頷き、彼らを輸送車に搬入する。少しだけお別れだ。
「他に何か憂いはあるか?」
バルカンは輸送車を見送るフロティナにそう言ったけれど……「いいえ」と彼女は笑う。
「ふん、では行くか」
「あ、あの……」
恐る恐るといった様子で声が掛けられてフロティナは振り返る。
そこにはマリエルを先頭に同じ部署の皆が立っていた。
「は、発言をお許しください」
マリエルがそう言って地面に膝をつこうとしたのを見たバルカンが「構わん、膝をつくな」と制する。
フロティナはすっかり忘れていたが彼は王族だ。
かなり勇気を出して話掛けてくれたであろうマリエルはホッと肩の力を抜いて顔を上げた。
普段王族と接する機会などほぼ、ないのだ。
「先輩……あの、これ」
マリエルは花束をフロティナに渡すと、ぶわっと涙を溢れ出させた。
「マリエルさん……」
「み、みんなで……あの、さ、寂しくなります」マリエルは涙を拭いながら途切れ途切れに言葉を紡ぐ。フロティナはそんな彼女の小さな肩を軽く抱いた。
「寂しいか」
ガタガタと豪華な馬車に揺られながら、ぼんやりと外を眺めていると――バルカンがフロティナを抱き寄せる。「いいえ、ただ……私って……人間の事がよくわかってなかったなあ、と」
フロティナはぼんやりと遠くを見つめたままそう言った。
働き始めてからずっと、自分はどこか人と違うような気がして距離を置かれていると思っていた。フロティナはポロポロと涙を落とすと「……私が思うよりずっと――――人間って優しかったのかもしれません。嫌な人ばかりではなかった……もう……レッドゾーンはないのに。私に……あんなふうにしてくれるなんて」と小さな小さな声で呟く。
バルカンはそんな彼女の頬にそっとキスをすると「お前が優しくしていたからだ」とフロティナを優しく抱きしめた。
前、痣を消す旅路ではこんないい路は通らなかった。ボコボコとした山道をのんびりと登って行った。バルカンが握る手は、とても大きく温かい。
「これからは俺がお前の力となろう」
バルカンはフロティナの肩を抱きながら力強く言った。
「……はい」フロティナはその肩に寄りかかるように身を寄せると目を閉じる。
「おい気を付けろよ?」
馬車が停車すると先に降りたバルカンがそう言って手を差し伸べて来た。
「……わあ」
フロティナは彼にエスコートされながら降り立った地面の質感に驚き、思わず声を上げる。
クリスタルのように透き通った道がずっと続いている。
暑くもなく寒くもない……そんな気候だ。
しかし空を見上げると美しい青空に太陽が近い。
「ここは温度管理がされている。常に適温だ。雨の日も風の日も」バルカンはフロティナにそう説明すると「お前もちょうどいいか」と身を屈めて顔を覗き込んできた。
「はい、何か被膜がありますか?実際の気候とは違うということですよね?」
以前バルカンが言っていた「人間はまたここに来たくなる」という言葉を思い出しながらフロティナは彼の瞳をじっと覗いた。
なるほど――――これはまた来たくなってしまう。
人によっては自分のものにしたくなるかもしれない。
しかし竜族に人間が敵うはずがない――だからこそその挑戦はたくさんの被害を生み、無意味に終わるだろう。
「ふふ、企業秘密だ」バルカンはニヤ……と笑い、フロティナに肘を差し出す。
「バルカン様ったら……」フロティナは肘に当たりそうになった胸を隠す。
「な、なーにを馬鹿な事を想像しておるのだ!エスコートだエスコート!」バルカンは顔を真っ赤にして怒ったのでフロティナはクスクス笑う。彼をからかうのは面白い。
クリスタルの道を行くと山のように大きな建物が見えて来た。
「俺たちの住む城だ」
「とても大きい。掃除が大変そうです」
「そうだな、お前にはこれから馬車馬のように掃除をしてもらわねばならん」
バルカンは機嫌の良さそうな様子で軽口を叩く。しっかり前を見て――――フロティナは習ったわけではないのに流れるように足が前に進むのは……恐らくバルカンのエスコートが上手いせいだろう。
なんだか既視感を感じる自分に(デジャブは……脳のバグ……)と言い聞かせ気を落ち着かせる。
来たこともないのに、なんだか見たことのある風景や一度夢でみたような気分になる現象は脳が起こした誤作動のせいだ。
脳が『記憶があったように誤解』させているのだ。
実際にはそんな経験もしていなければ、夢も見ていない。
フロティナは呪文のように心の中で唱える(知れば怖くない)と――――
「緊張しているのか」バルカンが静かな声で言った。
この彼の耳心地のいい声がフロティナは好きだ。
皆そう感じるのだろうか?それとも自分だけなのだろうか?
「……少しだけ」
フロティナはニッコリ笑いながら、これから暮らす新居に足を踏み入れた。
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