34 / 48
34
しおりを挟む
「いいか?ここからバルコニーに出たら国民が待ってるからな」
純白のドレスに着替え終えたフロティナに向かってバルカンがそう告げた。
「はい」
「これは初めてだろうから……いや、違うか「え?」バルカンが何かを言い掛けて口ごもったのを――フロティナは不思議に思ったけれど、それ以上追及するのは止めた。暗い気持ちになる可能性がある。
「すまん、こちらの話だ」
バルカンは手首のボタンを閉めながら誤魔化すようにそう言った。
「いえ……」
フロティナは前を向き、バルカンの肘に手を掛ける。
ここを出たら――――もう自分は彼の妻、王妃だ。
小さな事を気にしていては、飲み込まれてしまう。
コツリ、と靴音を控えめに鳴らして前に進むと割れるような歓声がフロティナ達を待っていた。
――――――――――
「疲れたか」
結婚式を終えて、ソファにくったりと座るフロティナの横でバルカンが静かな声で言う。
ここに来てからというもの……度々ネガティブな感情に襲われそうになり、フロティナは困憊していた。
「少し……まだ空気に慣れていないかもしれません」
バルカンは片手を上げて使用人を呼ぶと「水を一杯くれ」と指示をする。
なんだかその様子すら……以前に見たような気になる。
「大丈夫か」
コップをフロティナに手渡すバルカンはとても心配そうだ。
そんな彼を見てフロティナは嫉妬に押しつぶされそうになっていた。
(この人は……今もこの世界のどこかにいる女性にもこんなに優しくしたのだろうか)と――――――
「……ありがとうございます」
「夕方の刻、月と太陽が入れ替わる頃に婚礼の儀がある。それまで休んでおけ」バルカンは静かにコップに口を付けたフロティナの頭を優しく撫でる。
「婚礼の儀?」
「ああ、伝えていなかったか?記憶がなんだか……ははは」バルカンはそう言って気まずそうに笑った。
「誰に伝えたつもりでしたか?」フロティナはなんだかその様子に腹が立って口先を尖らせる。
「い、お前が忘れているのだ!」
「聞いてません。他の女性では?」
バルカンが盛大にむせている。なんだかフロティナはその様子が実に面白くなくて目を閉じる。なぜこんなことが気になるのだろうか。
(今は私が想い人だとおっしゃってくださったわ。それで充分ではないの?フロティナ……)
「い……いいか?婚礼の儀はな?「知ってます。皆の前で子作りをするんですよね」
フロティナは小説などで見た王族の婚礼の儀をイメージしてそう言った。
王族は子作りも出産もみんなに見守られながらする印象がフロティナの脳に根を張っていた。
「……ば、そんなわけなかろう!」
それを聞いたバルカンの声が部屋中に響いた。
――――――――
「……様、王妃様」
フロティナがソファで休んでいると、侍女に声を掛けられて目を開ける。
顔を上げると辺りすっかり暗く、もう婚礼の儀の時刻が近づいているようだ。
(寝てしまったみたい……)バルカンはいつのまにかいなくなっていたようで、フロティナはゆっくり身を起こす。
「すみません、寝てしまったようで」
「慣れない異国にお疲れでらっしゃいますよね」
竜族の侍女はにこやかにそう言って「…………私はマテリアと申します。竜族ですが祖母の母が人間でございます」名を名乗り深くお辞儀をする。
他の侍女もそれぞれ挨拶をしてくれた。
フロティナには常時4人の侍女がついてくれるようだ。
「王妃様、婚礼の儀を開始するにあたりまして身を清める必要がございます」マテリアはそう言ってフロティナを浴場に案内してくれる。
「王家では婚礼の儀を浴場で行います。竜族にとって王室の浴場は大変清いもの……湯は人間界でいう聖水のようなものとされております」マテリアは前を向きながらも、フロティナに聞こえるようなよく通る声でそう言った。
彼女もまた、腕に鱗が生えている。
それは美しくキラキラと輝いて、様々な色味を見せているが――基本水色だろうか。
(人間の血が混じっているとおっしゃっていたけど……なるほど、竜の血はとても強いのは本当ね)
ギイ……と木でできた重厚な扉を開くと、大理石でできた床のシャワールームのような空間に出た。その先にはまた大きな扉がある。
「この先に浴場がございます。王妃様、こちらで一度身を清めさせていただきます」
侍女が香を焚く。
甘いような香りが部屋に広がって「こちらは浄化作用のある香でございます」とマテリアが石鹸を泡立てながら説明してくれた。
彼女がフロティナの身体に塗る泡はまるでケーキの上に乗るクリームのように滑らかで、それだけでも心が癒されていくような心地がする。
リーンと鈴の音がした。
「王妃様は人間でいらっしゃいますので、こちらの鈴の音が竜国との調和を助けます」
フロティナはその音色に耳を傾けながら(聞いたことがあるような気がする)と思うが、そんなはずはない。恐らく心の底に響くので、そんな懐かしい気持ちになるのだ。
よくあることだ。初めて訪れた場所になぜか懐かしさを感じたりすることは……
それにフロティナはもう一つ気になることがあった。
(バルカン様は…………この音色を想い人にも聞かせようとしていたんだわ、だって彼女も人間だもの)
フロティナは嫌な気分がなだれ込んでくる予感に咳払いをした。いけない、ネガティブな感情に襲われる。
「二人きりですか?」
身を清めタオルで身体を隠し、大きな扉を一人でくぐるとそこにはバルカンがいた。
シャワールームと同じように大理石で作られた浴場は、なんだか清い感じがする。
壁を緩やかな滝のように流れる湯は、プールのように広い浴場になみなみと注がれていく。
「当たり前だろ!」
腕を組み、腰にタオルを巻いたバルカンが顔を真っ赤にして怒った。
「私が読んだ本では当たり前ではありませんでした」
フロティナがケロリとした様子でそう言うとバルカンは「……ムードも何もあったもんじゃないな。コイツめ」と彼女の唇にキスをした。
純白のドレスに着替え終えたフロティナに向かってバルカンがそう告げた。
「はい」
「これは初めてだろうから……いや、違うか「え?」バルカンが何かを言い掛けて口ごもったのを――フロティナは不思議に思ったけれど、それ以上追及するのは止めた。暗い気持ちになる可能性がある。
「すまん、こちらの話だ」
バルカンは手首のボタンを閉めながら誤魔化すようにそう言った。
「いえ……」
フロティナは前を向き、バルカンの肘に手を掛ける。
ここを出たら――――もう自分は彼の妻、王妃だ。
小さな事を気にしていては、飲み込まれてしまう。
コツリ、と靴音を控えめに鳴らして前に進むと割れるような歓声がフロティナ達を待っていた。
――――――――――
「疲れたか」
結婚式を終えて、ソファにくったりと座るフロティナの横でバルカンが静かな声で言う。
ここに来てからというもの……度々ネガティブな感情に襲われそうになり、フロティナは困憊していた。
「少し……まだ空気に慣れていないかもしれません」
バルカンは片手を上げて使用人を呼ぶと「水を一杯くれ」と指示をする。
なんだかその様子すら……以前に見たような気になる。
「大丈夫か」
コップをフロティナに手渡すバルカンはとても心配そうだ。
そんな彼を見てフロティナは嫉妬に押しつぶされそうになっていた。
(この人は……今もこの世界のどこかにいる女性にもこんなに優しくしたのだろうか)と――――――
「……ありがとうございます」
「夕方の刻、月と太陽が入れ替わる頃に婚礼の儀がある。それまで休んでおけ」バルカンは静かにコップに口を付けたフロティナの頭を優しく撫でる。
「婚礼の儀?」
「ああ、伝えていなかったか?記憶がなんだか……ははは」バルカンはそう言って気まずそうに笑った。
「誰に伝えたつもりでしたか?」フロティナはなんだかその様子に腹が立って口先を尖らせる。
「い、お前が忘れているのだ!」
「聞いてません。他の女性では?」
バルカンが盛大にむせている。なんだかフロティナはその様子が実に面白くなくて目を閉じる。なぜこんなことが気になるのだろうか。
(今は私が想い人だとおっしゃってくださったわ。それで充分ではないの?フロティナ……)
「い……いいか?婚礼の儀はな?「知ってます。皆の前で子作りをするんですよね」
フロティナは小説などで見た王族の婚礼の儀をイメージしてそう言った。
王族は子作りも出産もみんなに見守られながらする印象がフロティナの脳に根を張っていた。
「……ば、そんなわけなかろう!」
それを聞いたバルカンの声が部屋中に響いた。
――――――――
「……様、王妃様」
フロティナがソファで休んでいると、侍女に声を掛けられて目を開ける。
顔を上げると辺りすっかり暗く、もう婚礼の儀の時刻が近づいているようだ。
(寝てしまったみたい……)バルカンはいつのまにかいなくなっていたようで、フロティナはゆっくり身を起こす。
「すみません、寝てしまったようで」
「慣れない異国にお疲れでらっしゃいますよね」
竜族の侍女はにこやかにそう言って「…………私はマテリアと申します。竜族ですが祖母の母が人間でございます」名を名乗り深くお辞儀をする。
他の侍女もそれぞれ挨拶をしてくれた。
フロティナには常時4人の侍女がついてくれるようだ。
「王妃様、婚礼の儀を開始するにあたりまして身を清める必要がございます」マテリアはそう言ってフロティナを浴場に案内してくれる。
「王家では婚礼の儀を浴場で行います。竜族にとって王室の浴場は大変清いもの……湯は人間界でいう聖水のようなものとされております」マテリアは前を向きながらも、フロティナに聞こえるようなよく通る声でそう言った。
彼女もまた、腕に鱗が生えている。
それは美しくキラキラと輝いて、様々な色味を見せているが――基本水色だろうか。
(人間の血が混じっているとおっしゃっていたけど……なるほど、竜の血はとても強いのは本当ね)
ギイ……と木でできた重厚な扉を開くと、大理石でできた床のシャワールームのような空間に出た。その先にはまた大きな扉がある。
「この先に浴場がございます。王妃様、こちらで一度身を清めさせていただきます」
侍女が香を焚く。
甘いような香りが部屋に広がって「こちらは浄化作用のある香でございます」とマテリアが石鹸を泡立てながら説明してくれた。
彼女がフロティナの身体に塗る泡はまるでケーキの上に乗るクリームのように滑らかで、それだけでも心が癒されていくような心地がする。
リーンと鈴の音がした。
「王妃様は人間でいらっしゃいますので、こちらの鈴の音が竜国との調和を助けます」
フロティナはその音色に耳を傾けながら(聞いたことがあるような気がする)と思うが、そんなはずはない。恐らく心の底に響くので、そんな懐かしい気持ちになるのだ。
よくあることだ。初めて訪れた場所になぜか懐かしさを感じたりすることは……
それにフロティナはもう一つ気になることがあった。
(バルカン様は…………この音色を想い人にも聞かせようとしていたんだわ、だって彼女も人間だもの)
フロティナは嫌な気分がなだれ込んでくる予感に咳払いをした。いけない、ネガティブな感情に襲われる。
「二人きりですか?」
身を清めタオルで身体を隠し、大きな扉を一人でくぐるとそこにはバルカンがいた。
シャワールームと同じように大理石で作られた浴場は、なんだか清い感じがする。
壁を緩やかな滝のように流れる湯は、プールのように広い浴場になみなみと注がれていく。
「当たり前だろ!」
腕を組み、腰にタオルを巻いたバルカンが顔を真っ赤にして怒った。
「私が読んだ本では当たり前ではありませんでした」
フロティナがケロリとした様子でそう言うとバルカンは「……ムードも何もあったもんじゃないな。コイツめ」と彼女の唇にキスをした。
329
あなたにおすすめの小説
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
『お前を愛する事はない』なんて言ってないでしょうね?
あんど もあ
ファンタジー
政略結婚で妻を娶った息子に、母親は穏やかに、だが厳しく訊ねる。
「『お前を愛する事は無い』なんて言ってないでしょうね?」
公爵令嬢は結婚式当日に死んだ
白雲八鈴
恋愛
今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。
「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」
突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。
婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。
そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。
その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……
生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。
婚約者とその番という女性に
『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』
そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。
*タグ注意
王太子に理不尽に婚約破棄されたので辺境を改革したら、王都に戻ってきてくれと言われました
水上
恋愛
【全18話完結】
「君は中身まで腐っている」と婚約破棄されたエリアナ。
そんな彼女は成り行きで辺境へ嫁ぐことに。
自身の知識と技術で辺境を改革するエリアナ。
そんな彼女を、白い結婚のはずなのに「膝枕は合理的だ」と甘やかす夫。
一方、エリアナを追放した王都では、彼女の不在の影響が出始めて……。
一年だけの夫婦でも私は幸せでした。
クロユキ
恋愛
騎士のブライドと結婚をしたフローズンは夫がまだ婚約者だった姉を今でも想っている事を知っていた。
フローズンとブライドは政略結婚で結婚式当日にブライドの婚約者だった姉が姿を消してしまった。
フローズンは姉が戻るまでの一年の夫婦の生活が始まった。
更新が不定期です。誤字脱字がありますが宜しくお願いします。
病弱令嬢…?いいえ私は…
月樹《つき》
恋愛
アイゼンハルト公爵家の長女クララは生まれた時からずっと病弱で、一日の大半をベッドの上で過ごして来た。対するクララの婚約者で第三皇子のペーターはとても元気な少年で…寝たきりのクララの元を訪ねることもなく、学園生活を満喫していた。そんなクララも15歳となり、何とかペーターと同じ学園に通えることになったのだが…そこで明るく元気な男爵令嬢ハイジと仲睦まじくするペーター皇子の姿を見て…ショックのあまり倒れてしまった…。
(ペーターにハイジって…某アルプスの少女やんか〜い!!)
謎の言葉を頭に思い浮かべながら…。
このお話は他サイトにも投稿しております。
〖完結〗終着駅のパッセージ
苺迷音
恋愛
分厚い眼鏡と、ひっつめた髪を毛糸帽で覆う女性・カレン。
彼女はとある想いを胸に北へ向かう蒸気機関車に乗っていた。
王都から離れてゆく車窓を眺めながら、カレンは振り返る。
夫と婚姻してから三年という長い時間。
その間に夫が帰宅したのは数えるほどだった。
※ご覧いただけましたらとても嬉しいです。よろしくお願いいたします。
あなたの言うことが、すべて正しかったです
Mag_Mel
恋愛
「私に愛されるなどと勘違いしないでもらいたい。なにせ君は……そうだな。在庫処分間近の見切り品、というやつなのだから」
名ばかりの政略結婚の初夜、リディアは夫ナーシェン・トラヴィスにそう言い放たれた。しかも彼が愛しているのは、まだ十一歳の少女。彼女が成人する五年後には離縁するつもりだと、当然のように言い放たれる。
絶望と屈辱の中、病に倒れたことをきっかけにリディアは目を覚ます。放漫経営で傾いたトラヴィス商会の惨状を知り、持ち前の商才で立て直しに挑んだのだ。執事長ベネディクトの力を借りた彼女はやがて商会を支える柱となる。
そして、運命の五年後。
リディアに離縁を突きつけられたナーシェンは――かつて自らが吐いた「見切り品」という言葉に相応しい、哀れな姿となっていた。
*小説家になろうでも投稿中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる