【R18】夫には想い人がいるので

mokumoku

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「いいか?ここからバルコニーに出たら国民が待ってるからな」
純白のドレスに着替え終えたフロティナに向かってバルカンがそう告げた。

「はい」
「これは初めてだろうから……いや、違うか「え?」バルカンが何かを言い掛けて口ごもったのを――フロティナは不思議に思ったけれど、それ以上追及するのは止めた。暗い気持ちになる可能性がある。

「すまん、こちらの話だ」
バルカンは手首のボタンを閉めながら誤魔化すようにそう言った。

「いえ……」

フロティナは前を向き、バルカンの肘に手を掛ける。
ここを出たら――――もう自分は彼の妻、王妃だ。
小さな事を気にしていては、飲み込まれてしまう。


コツリ、と靴音を控えめに鳴らして前に進むと割れるような歓声がフロティナ達を待っていた。




――――――――――




「疲れたか」
結婚式を終えて、ソファにくったりと座るフロティナの横でバルカンが静かな声で言う。
ここに来てからというもの……度々ネガティブな感情に襲われそうになり、フロティナは困憊していた。
「少し……まだ空気に慣れていないかもしれません」
バルカンは片手を上げて使用人を呼ぶと「水を一杯くれ」と指示をする。
なんだかその様子すら……以前に見たような気になる。

「大丈夫か」

コップをフロティナに手渡すバルカンはとても心配そうだ。
そんな彼を見てフロティナは嫉妬に押しつぶされそうになっていた。

(この人は……今もこの世界のどこかにいる女性にもこんなに優しくしたのだろうか)と――――――

「……ありがとうございます」
「夕方の刻、月と太陽が入れ替わる頃に婚礼の儀がある。それまで休んでおけ」バルカンは静かにコップに口を付けたフロティナの頭を優しく撫でる。

「婚礼の儀?」
「ああ、伝えていなかったか?記憶がなんだか……ははは」バルカンはそう言って気まずそうに笑った。
「誰に伝えたつもりでしたか?」フロティナはなんだかその様子に腹が立って口先を尖らせる。

「い、お前が忘れているのだ!」

「聞いてません。他の女性では?」

バルカンが盛大にむせている。なんだかフロティナはその様子が実に面白くなくて目を閉じる。なぜこんなことが気になるのだろうか。
(今は私が想い人だとおっしゃってくださったわ。それで充分ではないの?フロティナ……)

「い……いいか?婚礼の儀はな?「知ってます。皆の前で子作りをするんですよね」
フロティナは小説などで見た王族の婚礼の儀をイメージしてそう言った。
王族は子作りも出産もみんなに見守られながらする印象がフロティナの脳に根を張っていた。

「……ば、そんなわけなかろう!」
それを聞いたバルカンの声が部屋中に響いた。



――――――――



「……様、王妃様」
フロティナがソファで休んでいると、侍女に声を掛けられて目を開ける。
顔を上げると辺りすっかり暗く、もう婚礼の儀の時刻が近づいているようだ。

(寝てしまったみたい……)バルカンはいつのまにかいなくなっていたようで、フロティナはゆっくり身を起こす。

「すみません、寝てしまったようで」
「慣れない異国にお疲れでらっしゃいますよね」

竜族の侍女はにこやかにそう言って「…………私はマテリアと申します。竜族ですが祖母の母が人間でございます」名を名乗り深くお辞儀をする。

他の侍女もそれぞれ挨拶をしてくれた。
フロティナには常時4人の侍女がついてくれるようだ。
「王妃様、婚礼の儀を開始するにあたりまして身を清める必要がございます」マテリアはそう言ってフロティナを浴場に案内してくれる。
「王家では婚礼の儀を浴場で行います。竜族にとって王室の浴場は大変清いもの……湯は人間界でいう聖水のようなものとされております」マテリアは前を向きながらも、フロティナに聞こえるようなよく通る声でそう言った。

彼女もまた、腕に鱗が生えている。
それは美しくキラキラと輝いて、様々な色味を見せているが――基本水色だろうか。
(人間の血が混じっているとおっしゃっていたけど……なるほど、竜の血はとても強いのは本当ね)


ギイ……と木でできた重厚な扉を開くと、大理石でできた床のシャワールームのような空間に出た。その先にはまた大きな扉がある。

「この先に浴場がございます。王妃様、こちらで一度身を清めさせていただきます」

侍女が香を焚く。
甘いような香りが部屋に広がって「こちらは浄化作用のある香でございます」とマテリアが石鹸を泡立てながら説明してくれた。
彼女がフロティナの身体に塗る泡はまるでケーキの上に乗るクリームのように滑らかで、それだけでも心が癒されていくような心地がする。
リーンと鈴の音がした。

「王妃様は人間でいらっしゃいますので、こちらの鈴の音が竜国との調和を助けます」

フロティナはその音色に耳を傾けながら(聞いたことがあるような気がする)と思うが、そんなはずはない。恐らく心の底に響くので、そんな懐かしい気持ちになるのだ。
よくあることだ。初めて訪れた場所になぜか懐かしさを感じたりすることは……

それにフロティナはもう一つ気になることがあった。

(バルカン様は…………この音色を想い人にも聞かせようとしていたんだわ、だって彼女も人間だもの)

フロティナは嫌な気分がなだれ込んでくる予感に咳払いをした。いけない、ネガティブな感情に襲われる。




「二人きりですか?」

身を清めタオルで身体を隠し、大きな扉を一人でくぐるとそこにはバルカンがいた。
シャワールームと同じように大理石で作られた浴場は、なんだか清い感じがする。

壁を緩やかな滝のように流れる湯は、プールのように広い浴場になみなみと注がれていく。
「当たり前だろ!」
腕を組み、腰にタオルを巻いたバルカンが顔を真っ赤にして怒った。
「私が読んだ本では当たり前ではありませんでした」

フロティナがケロリとした様子でそう言うとバルカンは「……ムードも何もあったもんじゃないな。コイツめ」と彼女の唇にキスをした。
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