49 / 50
49
しおりを挟む
「なんだ、チビじゃん」
フロティナは不躾に部屋へ入ってきた竜族の子どもに言った。
すると彼は小さな身体を震わせて「お前より年上だぞ!」と戯言を言っている。それを見てフロティナは(よかった……こんな子ども、絶対好きにならない)と安心したものだ。
しかし彼は冷たくしても毎日毎日、フロティナに会いに来た。いやいや受けている王妃教育も、いずれ解放されるのだと思えば経験として悪くないとさえ思う。
(友だちみたい)
フロティナが少しだけ……彼に心を許した頃「名前はなんという?」と尋ねられたので少し悩んだ後「ヴェルティナ・リベルテ」とフロティナは答えた。
(どうせ次の生贄が来るまでよ……こんなこと)
フロティナは割り切っていた。
だから毎日毎日行われるバルカンとのお茶会も、彼がせっせと集めてくれる野草の花束も、彼の不器用だけど甘い言葉も……フロティナには響いていないと思っていた。
あの手紙を貰うまでは…………
(このまま本当に結婚しても……悪くないかもしれない)
バルカンと手を繋いで庭を歩いていると、フロティナ付きの侍女、マテリアから「ヴェルティナ様、人間界からお手紙が……」と告げられた。
「人間界から?また?」
バルカンが訝しげな顔をする。
ヴェルティナは「私が存在しているか確認だと思うよ。だって……生贄だもの、本来」と言う。
手を握りしめて離さないバルカンに、フロティナは目線を合わせて「お願い、大切な用事かもしれないから」と言うと、彼は少し口先を尖らせながら離してくれた。
――――生贄が新しくそちらに行きます――――
手紙にはそう……一言だけ書いてあり、フロティナは顔を青ざめた。
(ここから選別がはじまる……)
フロティナには自信がなかった。
バルカンに選ばれる自信が。
自分は選別に負けて、死ぬかもしれない――――――その気持ちよりもフロティナはバルカンに選ばれないかもしれない事実が恐ろしかった。
(……見たくない。私じゃない女性の手を取るバルカンを)
フロティナはいつの間にかバルカンに心を寄せていた。ぶっきらぼうだけど、優しく温かい彼に。
いつもヴェルティナを優先してくれるバルカンに、甘えて甘やかされてドロドロに溶けてしまいたかった。
でも、もしも新しい生贄を彼が選んだら?
フロティナはその日の夜…………ヴェルティナという名前を捨てて、竜の国を飛び出した。
名前を捨てたヴェルティナは一歩歩く毎に……ヴェルティナの記憶をポロポロと道に落として、自分の村に着く頃にはもうすっかりフロティナだった。
「……おや?早かったな」
村一番の豪商の家の扉を叩く。
「…………すみません、あの……父が死んで身よりもなくて……どうか仕事をもらえませんか?なんでもします」
男はククク……と笑い声を漏らしながら「生贄が生きて帰ってきたなんて…………だからほら、私のことろで匿ってやろう。君にピッタリの仕事があるんだ」とニカッと笑った。
そうしてフロティナはレッドゾーンの飼育員になった。
時には危ない場面もあったが、なぜか襲われることはないし、重いものも人より持つのが得意で楽だった。
でも漠然とどこかに寂しさと(ちゃんと話し合ってみればよかった……)という気持ちがあって、それは誰に対してのなんの感情なのかはわからなかったけれど……
それからというものフロティナは不思議なことや嫌なことにはドンドン足を突っ込んで真実を知りたいと思うようになったのだ。
「おー、すごい!流石竜の寵愛を受けていただけあるな」オーナーが時折やってきては、そう言ってフロティナを褒めた。フロティナはなんだか意味はよくわからなかったけれど……父に褒められているような気分になってとても嬉しかった。
彼は命の恩人だ。
だから一生懸命働こう、と思っていたしずっとここに尽くそうと思っていた。父が死んでからずっと……お世話になっているんだから。
――――――――――――――
フロティナは顔を手で覆い、今まで自分の知らなかった自分に慄いた。
「ティナ……俺のどこがいけない?直すから……もうどこにも行かないでくれ……やっと見つけたんだ。悪かった……見た目が苦手ならば容姿だって君の好みに変える」ふと我に帰ると、バルカンがフロティナの腰に縋りつきながら泣き言を言っている。
「あ、バルカン様」
フロティナは一度バルカンを振り払うと、よろけた彼を抱きしめて「どこにも行きません……私が弱かったばかりにあなたには辛い想いをさせてしまいました」と涙をポロポロこぼした。
「……そうか、どこにも行かんか」
「行きません。いけない所があれば都度言います。それに私……バルカン様の見た目は超好みです」
フロティナが頬を染めるとバルカンも真っ赤になった。
バルカンはフロティナの涙を拭いながら彼女を見つめ、その目を見つめ返しながら彼女は今思い出したことをポツリポツリと話す。
「……そうか、偽名だったか。書類も偽装だったのだな」バルカンはまさか生贄が嘘をつくとは思っていなかった、と呟いた。
フロティナは「あなたたちは謙虚です。自身が思うよりずっと……強大な力を持っているのに……」と落ち着いた声を出す。
「ふふ……いーち、にー」
「アンガーマネジメントかティナ」
フロティナは5まで数えると「本当は自分で解決しようと思ってたのですが……そんなちっぽけな仕返しでは我慢出来なくなりました。バルカン様、フロティナのお願い聞いてくれます?」コテリと首を傾げ、可愛らしくバルカンを見上げた。
バルカンはデレデレと目尻を下げて「どうした?言ってみろ」とヘラヘラ笑う。
バルカンはフロティナの願いならきっとなんでも叶えてしまうだろう。
「人間はズルくて賢いわ……でも私もそう。私は竜王妃」
フロティナはバルカンに身を寄せながらそう呟いた。
フロティナは不躾に部屋へ入ってきた竜族の子どもに言った。
すると彼は小さな身体を震わせて「お前より年上だぞ!」と戯言を言っている。それを見てフロティナは(よかった……こんな子ども、絶対好きにならない)と安心したものだ。
しかし彼は冷たくしても毎日毎日、フロティナに会いに来た。いやいや受けている王妃教育も、いずれ解放されるのだと思えば経験として悪くないとさえ思う。
(友だちみたい)
フロティナが少しだけ……彼に心を許した頃「名前はなんという?」と尋ねられたので少し悩んだ後「ヴェルティナ・リベルテ」とフロティナは答えた。
(どうせ次の生贄が来るまでよ……こんなこと)
フロティナは割り切っていた。
だから毎日毎日行われるバルカンとのお茶会も、彼がせっせと集めてくれる野草の花束も、彼の不器用だけど甘い言葉も……フロティナには響いていないと思っていた。
あの手紙を貰うまでは…………
(このまま本当に結婚しても……悪くないかもしれない)
バルカンと手を繋いで庭を歩いていると、フロティナ付きの侍女、マテリアから「ヴェルティナ様、人間界からお手紙が……」と告げられた。
「人間界から?また?」
バルカンが訝しげな顔をする。
ヴェルティナは「私が存在しているか確認だと思うよ。だって……生贄だもの、本来」と言う。
手を握りしめて離さないバルカンに、フロティナは目線を合わせて「お願い、大切な用事かもしれないから」と言うと、彼は少し口先を尖らせながら離してくれた。
――――生贄が新しくそちらに行きます――――
手紙にはそう……一言だけ書いてあり、フロティナは顔を青ざめた。
(ここから選別がはじまる……)
フロティナには自信がなかった。
バルカンに選ばれる自信が。
自分は選別に負けて、死ぬかもしれない――――――その気持ちよりもフロティナはバルカンに選ばれないかもしれない事実が恐ろしかった。
(……見たくない。私じゃない女性の手を取るバルカンを)
フロティナはいつの間にかバルカンに心を寄せていた。ぶっきらぼうだけど、優しく温かい彼に。
いつもヴェルティナを優先してくれるバルカンに、甘えて甘やかされてドロドロに溶けてしまいたかった。
でも、もしも新しい生贄を彼が選んだら?
フロティナはその日の夜…………ヴェルティナという名前を捨てて、竜の国を飛び出した。
名前を捨てたヴェルティナは一歩歩く毎に……ヴェルティナの記憶をポロポロと道に落として、自分の村に着く頃にはもうすっかりフロティナだった。
「……おや?早かったな」
村一番の豪商の家の扉を叩く。
「…………すみません、あの……父が死んで身よりもなくて……どうか仕事をもらえませんか?なんでもします」
男はククク……と笑い声を漏らしながら「生贄が生きて帰ってきたなんて…………だからほら、私のことろで匿ってやろう。君にピッタリの仕事があるんだ」とニカッと笑った。
そうしてフロティナはレッドゾーンの飼育員になった。
時には危ない場面もあったが、なぜか襲われることはないし、重いものも人より持つのが得意で楽だった。
でも漠然とどこかに寂しさと(ちゃんと話し合ってみればよかった……)という気持ちがあって、それは誰に対してのなんの感情なのかはわからなかったけれど……
それからというものフロティナは不思議なことや嫌なことにはドンドン足を突っ込んで真実を知りたいと思うようになったのだ。
「おー、すごい!流石竜の寵愛を受けていただけあるな」オーナーが時折やってきては、そう言ってフロティナを褒めた。フロティナはなんだか意味はよくわからなかったけれど……父に褒められているような気分になってとても嬉しかった。
彼は命の恩人だ。
だから一生懸命働こう、と思っていたしずっとここに尽くそうと思っていた。父が死んでからずっと……お世話になっているんだから。
――――――――――――――
フロティナは顔を手で覆い、今まで自分の知らなかった自分に慄いた。
「ティナ……俺のどこがいけない?直すから……もうどこにも行かないでくれ……やっと見つけたんだ。悪かった……見た目が苦手ならば容姿だって君の好みに変える」ふと我に帰ると、バルカンがフロティナの腰に縋りつきながら泣き言を言っている。
「あ、バルカン様」
フロティナは一度バルカンを振り払うと、よろけた彼を抱きしめて「どこにも行きません……私が弱かったばかりにあなたには辛い想いをさせてしまいました」と涙をポロポロこぼした。
「……そうか、どこにも行かんか」
「行きません。いけない所があれば都度言います。それに私……バルカン様の見た目は超好みです」
フロティナが頬を染めるとバルカンも真っ赤になった。
バルカンはフロティナの涙を拭いながら彼女を見つめ、その目を見つめ返しながら彼女は今思い出したことをポツリポツリと話す。
「……そうか、偽名だったか。書類も偽装だったのだな」バルカンはまさか生贄が嘘をつくとは思っていなかった、と呟いた。
フロティナは「あなたたちは謙虚です。自身が思うよりずっと……強大な力を持っているのに……」と落ち着いた声を出す。
「ふふ……いーち、にー」
「アンガーマネジメントかティナ」
フロティナは5まで数えると「本当は自分で解決しようと思ってたのですが……そんなちっぽけな仕返しでは我慢出来なくなりました。バルカン様、フロティナのお願い聞いてくれます?」コテリと首を傾げ、可愛らしくバルカンを見上げた。
バルカンはデレデレと目尻を下げて「どうした?言ってみろ」とヘラヘラ笑う。
バルカンはフロティナの願いならきっとなんでも叶えてしまうだろう。
「人間はズルくて賢いわ……でも私もそう。私は竜王妃」
フロティナはバルカンに身を寄せながらそう呟いた。
357
あなたにおすすめの小説
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
コワモテ軍人な旦那様は彼女にゾッコンなのです~新婚若奥様はいきなり大ピンチ~
3月5日コミカライズ配信♡二階堂まや
恋愛
政治家の令嬢イリーナは社交界の《白薔薇》と称される程の美貌を持ち、不自由無く華やかな生活を送っていた。
彼女は王立陸軍大尉ディートハルトに一目惚れするものの、国内で政治家と軍人は長年対立していた。加えて軍人は質実剛健を良しとしており、彼女の趣味嗜好とはまるで正反対であった。
そのためイリーナは華やかな生活を手放すことを決め、ディートハルトと無事に夫婦として結ばれる。
幸せな結婚生活を謳歌していたものの、ある日彼女は兄と弟から夜会に参加して欲しいと頼まれる。
そして夜会終了後、ディートハルトに華美な装いをしているところを見られてしまって……?
冷酷な王の過剰な純愛
魚谷
恋愛
ハイメイン王国の若き王、ジクムントを想いつつも、
離れた場所で生活をしている貴族の令嬢・マリア。
マリアはかつてジクムントの王子時代に仕えていたのだった。
そこへ王都から使者がやってくる。
使者はマリアに、再びジクムントの傍に仕えて欲しいと告げる。
王であるジクムントの心を癒やすことができるのはマリアしかいないのだと。
マリアは周囲からの薦めもあって、王都へ旅立つ。
・エブリスタでも掲載中です
・18禁シーンについては「※」をつけます
・作家になろう、エブリスタで連載しております
虐げられた出戻り姫は、こじらせ騎士の執愛に甘く捕らわれる
無憂
恋愛
旧題:水面に映る月影は――出戻り姫と銀の騎士
和平のために、隣国の大公に嫁いでいた末姫が、未亡人になって帰国した。わずか十二歳の妹を四十も年上の大公に嫁がせ、国のために犠牲を強いたことに自責の念を抱く王太子は、今度こそ幸福な結婚をと、信頼する側近の騎士に降嫁させようと考える。だが、騎士にはすでに生涯を誓った相手がいた。
婚約破棄される令嬢は最後に情けを求め
かべうち右近
恋愛
「婚約を解消しよう」
いつも通りのお茶会で、婚約者のディルク・マイスナーに婚約破棄を申し出られたユーディット。
彼に嫌われていることがわかっていたから、仕方ないと受け入れながらも、ユーディットは最後のお願いをディルクにする。
「私を、抱いてください」
だめでもともとのその申し出を、何とディルクは受け入れてくれて……。
婚約破棄から始まるハピエンの短編です。
この小説はムーンライトノベルズ、アルファポリス同時投稿です。
届かぬ温もり
HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった·····
◆◇◆◇◆◇◆
読んでくださり感謝いたします。
すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。
ゆっくり更新していきます。
誤字脱字も見つけ次第直していきます。
よろしくお願いします。
令嬢が眠る時
五蕾 明日花
恋愛
愛する婚約者と仲睦まじい元平民の男爵令嬢に嫉妬し、嫌がらせを続けた挙句に処刑された我儘で傲慢な公爵令嬢コーネリア。悪魔の力を借りて人生を繰り返していくうちに性格や言動を改め、〝完璧な令嬢〟と評されるようになっていく。しかしそうなっても婚約者は、男爵令嬢を選んでしまう運命は変えられない。濡れ衣を着せられ、結局はありもしない罪で処刑されてしまう。心が折れてしまいせめて処刑されてしまう運命だけでも変えたいコーネリアに、悪魔は〝仮死状態になり、死んだと誤解させた後でこっそり逃げ出してしまえばいい〟と提案する。
仮死状態(意識のみ有り)での性描写有り、嘔吐描写も一瞬
完結済。6話+エピローグ。♡マーク付きの話に性描写有り。
Nolaノベルにも同名義で投稿。
贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる
マチバリ
恋愛
貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。
数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。
書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる