備忘世界の運搬屋

星兎

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人間牧場

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 ニッカに家を案内され、着くと、そこは円蓋で閉ざされた空間の端で、木で出来ているらしい、小さな小屋があった。どこか年季を感じさせるそれは、煙突が突き出ており、小さな色ガラスが窓にはめ込まれて、照明の光で煌めいていた。

「ここが、うちです」

 私は軽く頷き、どこか緊張した面持ちをしているニッカの後に続いて、中へと入った。

 中は思ったよりも広く、ただ、こまめに掃除されていないのか、木の匂いの中に埃っぽさが感じられる。

 部屋の中は薄暗く、右手に小さな台所があり、中央に木製の引き出し、左手に何故か二段ベッドがあった。

 私の視線に気付いたのか、ニッカはソファの辺りを整えながら、言った。

「……ああ、それ、昔は一緒に使っていたんですよ。もうその人はいないけど……。なんだか捨てられなくって、というよりも、捨てるのが面倒なのかも、なんて……。

 ソファ、家の中は散らかってますけど、あまり気になさらないでくださいね。不精なだけですので。

 座って待っていて下さい。今、お茶を用意します」

「ああ……」

 私は生返事を返し、言われるまま、窓際に置かれている直角型のソファに腰掛けた。いいソファだと思った。良く沈むし、革は滑らかになめされて、綺麗な光沢を放っている。どこで作られたものなのだろうか。

 窓は色ガラス越しに、彩りを持って景色を透かし、映し出していた。

 その先には、柵の中で緩慢に歩く白い肌の人間動物達の姿が見えた。

 私は窓から視線を離し、意味もなく足元を見る。

 程なくして、焦げたような、香しい良い匂いが漂ってきて、思わず台所の方を見た。

 ニッカがポットを傾け、フィルターにお湯を流している。ゆっくりと、丁寧な動作だった。集中しているのが伝わってくる。神経の緊張した気配が、ポットを回すニッカの背中から感じられる。

 私は黙って匂いが漂ってくるのを感じ、待った。

 やがて彼女が、二人分のカップと焦茶色の液体の入った透明なコップを乗せた盆を持って歩いてくる。

 私はその様子をずっと見守っていた。

 ニッカが恥ずかしそうに笑い、言った。

「なんですか、そんなに見られても、これ以上は何も出せませんよう? 私、こういうおもてなし、初めてなので、緊張してしまって……。ああ、どうぞどうぞ。普通のコーヒーですが。多分美味しいと思います。私はそう思うので、多分、大丈夫……」

「……じゃあ、お言葉に甘えて」

 私はカップを手に取り、口につけ、傾けた。

 確かに、コーヒーの味だった。カルネの家で飲んだものよりも、色も濃く、味も強い。仄かなコクが苦味の奥で閃くようで、舌の奥をくすぐる。

 美味しい、と思った。

 そして、自分の体から緊張が少し解れたのを感じた。

 ニッカは私が飲むのを眺めたまま、自分はなかなかカップを口にしようとはせず、暫くしてから、カップを口につける仕草を見せた。

 カップの中を半分程飲んでから、私はカップを置いて、言った。

「……で、話とは?」

 私がそう言うと、ニッカは一気に緊張した様子で、動かなくなった。それからそろそろと動いてカップをテーブルに置くと、私の目を見据えて、決然とした面持ちで、切り出した。

「……ヴェロニカさん。私を、この世界から連れ出して欲しいんです」

 私は、黙ってもう一度、カップを持ち上げた。


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