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人間牧場
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アラキの角張った姿がそこにはあった。
アラキはよく分からない微妙な表情を作り、ドアノブを持ったまま、私たちの事を見ている。
やがて彼は微笑を作り、言った。
「……アア、やっぱリ、ここにいらしたのでスネ? ヴェロニカさん……ニッカさんモ、ご機嫌ヨウ」
傍で彼女が引き攣った笑みを浮かべるのが感じられた。
私は言った。
「どうも。もう、動作確認の方は終わりましたか? ……すみません、結構自由に出歩いてしまって。色々と勉強させて頂きました」
アラキがドアノブを掴んだままの姿勢で、私の方を見た。
それから再び目と口元を歪ませて、笑みのような表情を作り、言う。
「……それは、良かっタ。ゼヒあなたにも我々の仕事を詳しく知っていただけタラト、常々そう思ってイタのデスよ。
点検の方は、終わりましタガ……。いや、失礼。ヴェロニカサンには申し訳ありませんガ、私、今はニッカサンに用事があって来たのでスヨ」
彼女が一瞬、大きく震えたのが見えた。
「私……、ですか?」
アラキは満足そうに微笑む。
「エエ。あなたニですヨ。ニッカさン。大丈夫、大したお話じゃありまセン。お仕事のお話デスヨ。さあ、こちらヘ。私の部屋デ、お話シマショウ。その間、ヴェロニカサンには退出して頂イテ、外で待って頂けタラ、と。モチロン、今のようニご自由に園内を回っテ頂いテモ結構デス。
……あなたノ運んで下さッタキュロス・エネルギーは、素晴らしい品質のものでシタ。お礼を申し上げマス。報酬の方は、後でお支払い致しマス。
さあ、ニッカサン。こちらヘ」
私は黙って立ち上がり、彼女の方を見やる。
彼女は止まらない震えをどうにかしようと心の中でもがいている風に見えたが、その努力は虚しく、彼女の体は間断なく震え続けていた。
私は口を開く。カップに残っているコーヒーを見やる。
「じゃあ、私はこれで」
「ヴェロニカさん‼︎」
ニッカの声が、扉に向かう私の背中に届く。
私は何も言わずに、瞬きをしているアラキの傍を通り過ぎ、外に出た。
生ぬるい空気が肌に触れ、吐き気が再び込み上げてきた。
外に出ると、白い肌の人間動物達が、相変わらず空な顔で、立ち止まって天井を見つめていたり、芝生のような床に寝そべって寝ていたりしている。当然だが、彼らは全裸で、肉体の全てを露出している。
私は彼等の事を一瞥したが、小屋の方を振り返らず、歩き始める。
もう出ていく準備をしておいた方がいいだろう。
これ以上は話がややこしくなる。私はそう確信していた。
だが、胸の縁の辺りが再び、どきりと跳ね上がるように痛み出す。それが不安を伴った緊張である事に私は気が付いた。
「私」はそれでもいいのかもしれない。でも。
『私』はそうは感じていない、思っていないのかもしれない、いや、恐らくはきっと、確実にそうなのだろう。
でも、「私」はそうする訳にはいかないのだ。様々な事情があり、「私」は行動をどこまでも制限されている。
私は自由ではない。制限された箱庭の中で、自由を謳歌しようと思っても、結局、彼等と同じようになるだけだ。
私は横目で、彼等のことを見る。
彼等は何も考えていない顔で、のっそりと柵の中を歩き回り、そして、〇号達の見守る中で、時々思い出したように性交をしていた。
私は再び込み上げてくる吐き気を押さえつけて、その吐き気が意味する事を、不意に考えそうになる自分の事も振り払い押さえつけ、必死にいつもの自分の姿に戻ることに努力した。
私は大きく、生ぬるい空気を吸い、それから時間をかけて、ゆっくりと吐く。
早くここを出たほうがいい。
ここに長く入ればいるほど、私はーー……。
その時、けたたましい音が園内中を響き渡った。私は反射的に、顔を上げる。
何かの気配を感じて、天井付近を見る。黒い影のような存在の気配が、小さいが確実にそこにはあった。
私はそれを見やり、影もまた、私の方を見据えているように感じられる。
見知ったその気配。私はその影が持つ独特の気配を、嫌と言うほど知っている。
黒い影はやがて私の視線を外し、視界から消えた。後に残されたのは、けたたましく鳴り響き続けるサイレンの音だけだった。
背後で気配がし、二人が出てきたのが感じられる。
だが、私は彼等の方を振り返ろうとはしなかった。
視線はいつまでも、黒い影があった場所に留まっている。
私は何故自分がそうしているのか、既に自分でも分かっている気がした。
アラキはよく分からない微妙な表情を作り、ドアノブを持ったまま、私たちの事を見ている。
やがて彼は微笑を作り、言った。
「……アア、やっぱリ、ここにいらしたのでスネ? ヴェロニカさん……ニッカさんモ、ご機嫌ヨウ」
傍で彼女が引き攣った笑みを浮かべるのが感じられた。
私は言った。
「どうも。もう、動作確認の方は終わりましたか? ……すみません、結構自由に出歩いてしまって。色々と勉強させて頂きました」
アラキがドアノブを掴んだままの姿勢で、私の方を見た。
それから再び目と口元を歪ませて、笑みのような表情を作り、言う。
「……それは、良かっタ。ゼヒあなたにも我々の仕事を詳しく知っていただけタラト、常々そう思ってイタのデスよ。
点検の方は、終わりましタガ……。いや、失礼。ヴェロニカサンには申し訳ありませんガ、私、今はニッカサンに用事があって来たのでスヨ」
彼女が一瞬、大きく震えたのが見えた。
「私……、ですか?」
アラキは満足そうに微笑む。
「エエ。あなたニですヨ。ニッカさン。大丈夫、大したお話じゃありまセン。お仕事のお話デスヨ。さあ、こちらヘ。私の部屋デ、お話シマショウ。その間、ヴェロニカサンには退出して頂イテ、外で待って頂けタラ、と。モチロン、今のようニご自由に園内を回っテ頂いテモ結構デス。
……あなたノ運んで下さッタキュロス・エネルギーは、素晴らしい品質のものでシタ。お礼を申し上げマス。報酬の方は、後でお支払い致しマス。
さあ、ニッカサン。こちらヘ」
私は黙って立ち上がり、彼女の方を見やる。
彼女は止まらない震えをどうにかしようと心の中でもがいている風に見えたが、その努力は虚しく、彼女の体は間断なく震え続けていた。
私は口を開く。カップに残っているコーヒーを見やる。
「じゃあ、私はこれで」
「ヴェロニカさん‼︎」
ニッカの声が、扉に向かう私の背中に届く。
私は何も言わずに、瞬きをしているアラキの傍を通り過ぎ、外に出た。
生ぬるい空気が肌に触れ、吐き気が再び込み上げてきた。
外に出ると、白い肌の人間動物達が、相変わらず空な顔で、立ち止まって天井を見つめていたり、芝生のような床に寝そべって寝ていたりしている。当然だが、彼らは全裸で、肉体の全てを露出している。
私は彼等の事を一瞥したが、小屋の方を振り返らず、歩き始める。
もう出ていく準備をしておいた方がいいだろう。
これ以上は話がややこしくなる。私はそう確信していた。
だが、胸の縁の辺りが再び、どきりと跳ね上がるように痛み出す。それが不安を伴った緊張である事に私は気が付いた。
「私」はそれでもいいのかもしれない。でも。
『私』はそうは感じていない、思っていないのかもしれない、いや、恐らくはきっと、確実にそうなのだろう。
でも、「私」はそうする訳にはいかないのだ。様々な事情があり、「私」は行動をどこまでも制限されている。
私は自由ではない。制限された箱庭の中で、自由を謳歌しようと思っても、結局、彼等と同じようになるだけだ。
私は横目で、彼等のことを見る。
彼等は何も考えていない顔で、のっそりと柵の中を歩き回り、そして、〇号達の見守る中で、時々思い出したように性交をしていた。
私は再び込み上げてくる吐き気を押さえつけて、その吐き気が意味する事を、不意に考えそうになる自分の事も振り払い押さえつけ、必死にいつもの自分の姿に戻ることに努力した。
私は大きく、生ぬるい空気を吸い、それから時間をかけて、ゆっくりと吐く。
早くここを出たほうがいい。
ここに長く入ればいるほど、私はーー……。
その時、けたたましい音が園内中を響き渡った。私は反射的に、顔を上げる。
何かの気配を感じて、天井付近を見る。黒い影のような存在の気配が、小さいが確実にそこにはあった。
私はそれを見やり、影もまた、私の方を見据えているように感じられる。
見知ったその気配。私はその影が持つ独特の気配を、嫌と言うほど知っている。
黒い影はやがて私の視線を外し、視界から消えた。後に残されたのは、けたたましく鳴り響き続けるサイレンの音だけだった。
背後で気配がし、二人が出てきたのが感じられる。
だが、私は彼等の方を振り返ろうとはしなかった。
視線はいつまでも、黒い影があった場所に留まっている。
私は何故自分がそうしているのか、既に自分でも分かっている気がした。
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