備忘世界の運搬屋

星兎

文字の大きさ
30 / 64
酸性雨の街

しおりを挟む



 少年の話によると、こういう事らしかった。

 彼等はここに仮暮らしをしている子供だけのグループで、親のような管理人がいて、自分達を守ってくれている。

 私達は管理人がいない間は、この街の外を自由に出歩いていい。訓練と称する遊びをして、体をいつも鍛えている。

 この辺りは岩が幾つもあり、その中には秘密の通路もあり、この街の地下と繋がっている。

 そこから岩場で遊びに出た所、沢山のバッファローの群れと、それから何かが大きな音を立てて壊れるような音が聞こえて、それを見に行ったら、私と機体がそこに倒れていた。

 意識もなく、怪我をしていたから、とりあえず秘密の通路を通って街に戻り、手当をしようと、自分が言い出した。

 バイクも持っていこうとしたが、大きすぎるし重すぎて、岩山のある秘密の通路の脇に置いてきた。

 まだ管理人が帰ってきていなかったのを見て、使われていないテントを探して、そこに横たえさせて、治療をした。

 私が口に含んで捨てた水は自分達も飲んでいる濾過した水で、安全である。

 そして、今に至る。

 私は話を聞いて、気になることがあり、聞いた。

「その、管理人っていうのは、誰? あなた達の、親?」

 そう言ってから私は、朧げながらも感じていた、幾つもの視線の気配を思い出し、それはないな、と心の中で打ち消した。

 案の定、少年は首を振って言った。

「いえ、実の親ではないです。ここには親のいる子供達はいません。……僕達は皆、管理人さん達にどこかの街や国で拾われた、孤児なんです」

 〈失われた子供達〉。その存在は、掲示板で仕事のやり取りをしていたり、情報を収集する過程で耳にしたことはあった。

 機械と人間の戦争が集結し、機械側の一方的な勝利で人間の世界が一つの終末を迎えてからも、人々は細々とだが、確実に世界中で何とか命を紡いできた。

 そうして連綿と紡がれている人間の命だったが、機械側はその存在を許さない。というよりも、機械たちの中の一部が人間の営む小さな繁栄を許さず、未だに廃墟とかしたエリアや、被害を免れている都市を襲い、破壊し略奪している。

 『媼』の街が破壊されたのは、数十年も前の話だった筈だが、ここにいる子供達のように、破壊され、親の命を奪われた経験をした子供達が、今でもいる。

 それはつまり、世界にはまだ数多くの人間達が生きて生活をしているという証でもあった。

 私は連綿と受け継がれてきた命の歴史の端にある、目の前の少年と子供達の境遇と生涯に想いを馳せ、束の間、胸が苦しくなる。

 息を吐く。吐けば自然と空気が入ってくるから。

 その通りにはいいてきた空気を吸い、気持ちを落ち着かせると、私は少年に向かって礼を言った。

「ありがとう。おかげで大分状況がはっきりしたよ。管理人さんとは、話が出来るんだろうか? 出来たらお礼が言いたいんだけど」

 そう言うと少年は何故か、一瞬だが表情を固く強ばらせた。

「どうしたの?」

 私が言うと、少年は俯きがちになり、それから呟くような声量で答えた。

「……すみません。それは出来ないんです。今も、管理人さんからはあなたの事は隠していますし、皆にもそうするように言っています。

 管理人さんがもしあなたを見つけ、僕達がしたことを知ったら、多分……」

「多分?」

 嫌な予感がする。

 そして私の嫌な予感は大体において、的中するのだ。

 この間もそれがあったばかりだった。

 私は口の中に漂い始めた苦い味の気配を感じながら、少年の気配を待つ。

 少年が口を開こうと顔を上げたその時、テントの入り口から野太い声がした。

「おやおや、これはこれは」

 私と少年は同時に、テントの入り口を見た。

 そこには大きな腹の出た、どっしりとした中年の男が仁王立ちしており、油断のならない眼で、こちらを見据えていた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

処理中です...