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殺戮港(ズア・ポート)
□
しおりを挟むお前は何故生きているのだ。
何故、お前の先には光が見えない。
教えてやろう。それは、己に嘘をついているからだ。
己に嘘をつき続けるものが、誠実に生の光を見ることなどできるものか。
お前は欺瞞に満ちている。掌から、足先から、お前が持っているものが全て、欺瞞という腐食の液体によって侵され続け、お前はいつしか、欺瞞という化物と共に暮らすことになった。
暗闇。見えない光。届かない手。失われた時。
お前は直面しなければならない。お前が失わせてきたもの達と。お前が自身のエゴによって変質させてきた、あらゆる環境と。お前が見ることを避けてきた、破壊の歴史と。
お前は忘れても、彼らは忘れない。
そしてお前も、本当は、忘れてなどいないのだ。
ーーーー
周囲を覆い隠す砂塵の中に、ふと、潮の気配を感じる。
道は砂で覆い隠され見えないが、方位磁石に従っていれば、方向に迷う事はない。
砂塵の先に煙突のような影がポツポツと見え始める。
私が向かう先は、海に面したその街だった。
殺戮港。人間の世界ではそう呼ばれていた。
ダストシティを出た後、私は博士と液晶タブで連絡をとった。
博士は快活な声で言っていた。
(「よお、元気にしてたかい、ヴェロニカ」
「……ぼちぼちですね」
「なんだい、その返事は。生焼けの貝殻みたいな返事だね。中身がない。美味しくないな」
「何か御用ですか。私はまだ仕事があるので、あまりゆっくりとはしてられないんです」
「……そうかい。まあ、用事があって連絡したのだがね。君、近々家に来られないか? 君に話したいことが沢山あってね。それで連絡したんだよ」
「話したいこと……今ここでは無理なのですか」
「無理だよ。レジスタンスが聴いてるかもしれないだろう。君も分かってる筈じゃないか」
「……。わかりました。この仕事が終わり次第、そちらに向かいます。二、三週間かかると思いますが、いいですか?」
「いいよ。待っている間に、君をもてなす準備でもしておこう。あと、何か欲しい物でもあるかい?」
「欲しいもの?」
「土産にしたい物だよ。帰るんだろう? あのむさ苦しいアジトにさ」
「帰る……そうですね。多分帰るんですよね。そうでした……」
「大丈夫か?」
「大丈夫です。何か珍しい食べ物があれば、下さると嬉しいです。じゃあ、これで」
「分かった。珍しい食べ物ね、……。なあ、ヴェロニカ。あなた、本当に大丈夫かね? 生きている感じが声から感じられないのだけれど」
「ちゃんと生きていますよ。それじゃあ」
「何かあったら、すぐに連絡するんだよ。君からの連絡なら、僕は大歓迎だから。じゃあ、これで」
「はい」)
時折、自分の声なき声を代弁させるかのような気持ちでエンジンを噴き上げる。
機体は確かに、自分の心を裏切らない。ハンドルを捻れば、私の言う通りに動いてくれる。それは彼が、彼等が機械だからだ。私がよく知っている、機械の一つ。心のない、生きていない、操作者が必要なただの無機物。
再び懐に振動を感じる。液晶タブが特定の場所からの着信を知らせているのだ。反機械組織、レジスタンスか、カルネか、博士か。
振動の仕方で、レジスタンスと把握する。私は無視して、アクセルを更に踏み込んだ。
遥か遠くにあった筈の煙突の立った港が、気付けばすぐ眼前に広がっている。
私は速度を落とすことなく、港へと真っ直ぐに向かっていった。
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