彼はやっぱり気づかない!

水場奨

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32話 sideクリス

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「大っ変申し訳ありませんでしたあああ!!」




兄さんが王城に呼ばれて、控室で待つこと2時間。
「リク、カラン、どんなことが起こっても許可するまで動くな、喋るな。 それができないようなら、今後、俺にお前たちは必要がない」
兄さんは部屋に戻って来るなり、ドぎつい一言を放った。
言われた2人は涙目で動揺したようだったが「はい!」と言ったあと、言葉を発しないように奥歯を噛み締めている。

そして冒頭の謝罪である。
しかも、僕の目の前に膝をついて、いわゆるドゲーザってやつだ。
おい、何があった。土下座はいいから説明しろ。
王との面会から帰ってきて即土下座の意味を言え。

カランとリクが声にならない呻き声を上げてこっちを睨んでいるが、僕を睨みつけるのではなく、早く兄さんに理由わけを問い詰めろ。

あ、話せないんだったな、お前ら。


☆☆☆


行方のわからなくなっていた兄が見つかって、暫くすると城に呼ばれた。
母は兄さんが城に呼ばれたと知ると、ものすごい剣幕で捲し立て、気がついたら父さんと一緒に僕まで登城することになっていた。
呼ばれてもいないのに、大勢をぞろぞろと引き連れて行ける場所ではない。だからカランとリクまで同行することになった時には、父を納得させた手腕に舌を巻いた。
将来、あの2人を手元に欲しいものだ。

何の理由で呼ばれたかは知らないが、呼ばれたのは兄さんだ。当然と言えば当然のことだが、王が用のあるのは兄さんだけで、僕たちが目通りすることは叶わなかった。
であるのにも関わらず、待っている間の母の不機嫌が……実に鬱陶しかった。
もう少し常識というものを身につけて欲しいものだ。
我が母ながら本当に恥ずかしいと思う。

しかしこの世界は、知っている漫画はなしと大まかな流れは似ているけど、随分と内容に齟齬がある。



王太子を呪う呪術により、巻き込まれ危険に晒された小さな王子が何とか危機を脱して逃がされた。
王子を愛する神が、王族の魔の手が王子に届かないように黒い川で中洲まちを守るように囲った状況は現状と同じ。
黒い川が思っていた以上に人々に苦しみを与え、またその中に王子が含まれてしまうとは神も思っていなかったのだろう。

神は慌てて中洲内にいる、裕福ではあるが不憫な子供に焦点を当て、王子を救ってくれるようにと力を与えた。
しかしその時には既に後戻りできない程王子は闇にのまれていたのだ。同じ境遇にいる孤児たちをまとめ上げ、金持ちや貴族を襲う悪の軍団へと堕ちていた。

そして同じ頃その子供は黒い川の秘密を探って行くうちに、王家の秘密と王子の悲しい過去を知る。
子供は王子と戦いぶつかり合う中で、彼を救う方法を探し出した。
諸悪の根源を示し、市民を導引して王太子を呪った王の妃を屠ると、王子の呪いは解け川も元通りになった。
そして子供はその功労の褒美に絶世の美女である妹姫と結婚するっていう……。



けれど僕に癒しを授けてくれるオオウルカミは、未だに森に現れないし、それどころか冒険が始まらないうちにルイベル川は浄化されてしまったのだ。

僕、物語に関係ないモブになってない?
本当に仲間を集めて浄化を成し遂げ、姫様とのラブラブエンドに辿り着けるのか?

などと思っていたのだが……。

「王様に王立学院の入学を勧められたんだけど、俺、勉強したくないていうか、家業を継ぎたくないというか……。商会を継ぐの弟なんで貴族との顔繋ぎしたいのはクリスですって、俺の代わりにクリスが入学することになっちゃったんだけど」
とか言ってるじゃん。

父さんが
「え、サフィちゃん、家業を継ぎたくないの?まだ、お父さんのこと許してくれてなかったの?」
とショックで高そうなコップ落としたし、カランも両手で口を押さえて言葉を発しないように絶叫してるけど。
ああ、母さんだけが満面の笑みになったな。

ん?あれ?
僕、学院に通うことになるの?てことは、学院で黒い川の秘密を知る流れは、結局変わらないままか?
兄さんがケガで家業を継げないのではなく、学びたくないから家業を継ぎたくないっていう違いはあっても、流れは変わらないってこと?

どうなっているのかとじっと兄さんを見つめて観察していると、正面で正座した兄さんが上目遣いでビクビクと僕の反応を待っていた。

……なに、このかわいい生き物。

兄さんてこんなに小動物みたいだった?
兄さんなのに、僕よりはるかに小さいし。まあ、年齢の割に僕がデカいともいうけど。
そういえば、兄弟なのに今まであまり接点無かったよな。
今の兄さんは、母さんのせいでケガもしてないから、僕を恨む必要もないもんな。

そっかあ。これが本来の兄さんなのか。

て、待て待て。
もしかして、よくある転生主人公横取りみたいな感じだったりしないか?
兄さんが僕と一緒で日本からの転生者とかだったりして、悪役で死にたくないからなんとかして生き抜きます!みたいな……。
だとするならば、話は別だ。
僕の邪魔をするなら、兄さんは僕にとって最も大きな敵になる。

「ねえ、兄さん。シルベール様にもお会いしたの?」
兄さんに物語を知っているのか、姫様に惚れているのか探りを入れる。

「ん?シルベール様って誰だ?」
きょとんとした兄さんが、いきなり変わった話題に戸惑っているのがわかる。
「シルベール様を知らないの?」
「??」
首を傾げた兄さん、かわいい……じゃなくて。

あれ?漫画を知らない?
日本からの転生者じゃなかったか?
てことは、姫様狙いではない、と。
じゃあ、僕の邪魔をしようとしてるわけではないのか。

「あ、あのさ、クリス。それで、ゆ、許してくれるか?」
一向に反応しない僕に、兄さんがれてもう一度たずねてきた。
もう、すみません感出過ぎてて、めっちゃかわいいんですけど。
ただでさえ、顔の造りとか可愛い系なのに、目を潤ませて上目遣いとか……どこの美少女だよ。
っていやいや、兄さんは男だ、男!

あー、もしかして、自分が勉強嫌いだから僕も嫌いだとでも思ってるのかな。
それを僕に押し付けたわけだから、申し訳ない、みたいな。
ははは、笑える。
僕は元から成り上がるつもりだったから、学ぶことも鍛えることも苦にならないよ。
でも。

「んー、許してあげてもいいけど、僕のお願いを1つ……いや、3つ、無条件で聞いてくれるならいいよ」
せっかくの機会だ、兄さんよりも上位に立つために、これを使わない手は無いよなー。
「む、無条件で?」
兄さんは何を頼まれるかと不安そうになっている。

じゃあ、もうひと押しするか。
「うん、それが嫌なら、許さないってことで。兄さんが学院に通うしかなくなるね」
兄さん、肩をビクっとさせて顔色が真っ白になっちゃったよ。
どんだけ勉強したくないんだよ。

「わ、わかった。3つお願いを聞けばいいんだな。わかった。そ、それで、許してくれる?」
そんなに勉強したくないもんなんだ。
勤勉じゃないとか、これはますます日本からの転生者の線は消えたな。
何でも無条件で、3つも言うこと聞かないといけないのに、ね。

「……仕方ないなあ。約束だからね」
「う、はい」

僕は、なんだか兄さんを手に入れたみたいだと思って高笑いしそうになった。
兄さんを手に入れたって、なんだ。
それが嬉しいってどういうことだ。

それに気づいた途端、心臓が高鳴りして……焦った。

僕の心臓、どうした?





ーーーーーーーーーー

漫画の世界ではあるけれども、それぞれに人格(心)があることにやっと気づいたクリスさん
元々素質が良かったから異世界に連れてこられた人なので、これからはサフィに対しても誠実に向き合うことになります
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感想 8

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