彼はやっぱり気づかない!

水場奨

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44話 あの日々への後悔

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今や引っ張りだこの3人を少し離れたところから眺めているボっちの俺。
あの日の町での活躍は、最近頻繁に現れるようになった瘴気に怯える人々の希望になっていったのだ。

「女子にモテモテじゃーん」
よかった、よかった。
これでアイツらも俺なんかに道を踏み外すこともなく、所帯を持てそうじゃないか?

なーんて。
いいことのはずなのに、素直に喜べないようになってしまっているとは。
はあぁぁあ。
女子に囲まれてるアイツら見ると面白くないとか、だいぶヤバいだろ俺。



「あら、こんなところでお茶だなんて、いいご身分ですこと。サリスフィーナ様、ですわよね」
「はい?」
誰だ?
まあ、女子は面倒くさいし、身分は絶対向こうの方が上だろうし、挨拶しない選択肢はない。
が、うん、なんていうか強烈な美女だな。

「シルベール様、このような平民に声を掛けるなど」
うわ、横の女子から面倒くさそう発言も出たぞ。
関わったら面倒なヤツだ。
さっさと退散しよう。

ん?
シルベール様?
聞いたことあるな。うーん。どこでだ?
あ、クリスが言ってた人だ……って思ったのが悪かった。
シルベールさんが腰掛け、俺はお仲間に囲まれて、席を外すタイミングが無くなった。

「だって、興味があるんですもの。あのクリス様が大切にしてまない方なんでしょう?」
マジか。
外部にまでブラコンぶりが漏れてるとかヤメレ。
何してくれとんじゃ、あのアホかわいい弟は。

「もし、この方がクリス様の基準だとするならば、私に勝ち目などあるはずもありませんわね。腹立たしいほどに正反対なんですもの」
「ま、待て待て」
兄弟として良しっていうのと、恋愛の良しっつうのは別物だぞ。
って言う前に、ダン!と割り込んでくる女子達。

「それの何が悪いのですかシルベール様。シルベール様の方が美しいことにかわりはありませんでしょう?」
言葉を被せられたら、もう俺黙るしかねえ。
それにな、クリスは俺のこと兄として好きなのよ。
ってマジで口を挟む隙もねえな。
つうか、俺の意見なんか聞く気もねえな、こいつら。

「そうです。こんなボヤッとした男など、シルベール様の凛としたお姿の足元にもおよびませんわ」
んで、なんでか目の前でディスられ始めたんすけど。

「男の身でありながら、国のために汗水垂らすこともなく男に媚び売る男娼風情ですよ。見てください、あの細腕を。なんと恥ずかしいことでしょう」
ってめっちゃ言われてるやん。
傷つくからやめて欲しいわー。
筋肉つかないんだもん。
それなりに鍛錬してても、ムキムキにならないんだもん。俺、別に悪くなくね?

それに、俺、めっちゃ国に貢献してるはずなんですけど!!
いや、外部に情報流れてないんだったわ。
そりゃ知らないよな。
うん、男娼風情だよね…………はっ?男娼ってなんで?

あー、ていうか、俺的には気に入ってる容姿も、やっぱりこの世界の人からしたらそうでもない部類に入るのかもなー。
薄々気づいてはいたけど、ショックだ。

「おい、お前、これだけ言われて何も言い返すこともないのか!」
いるいるー。
女子グループに必ず1人いるー。
男と張り合うガサツ女子ー。

ていうかね、こんなの言い返したら倍になって返ってくるだろーが。
お喋り好きな女子に口で勝てる男なんかいねえからな。
あー、面倒くさいなー。どうしようかなー。
言い返して泣かせたら、俺悪者になるヤツじゃん。

「それはこちらの台詞ですよ。このようなところで1人を寄ってたかってなじるなど淑女のなさることとは思えませんね」
「へ?」
「きゃっ」

「シルベール様、兄に何か用がございましたか?」
「い、いえ。ただの世間話ですわ」
間に入ってきたのはクリス達だった。
正直、助かった。

「リク、カラン。僕はシルベール様と話があるから、兄さんを部屋に連れて行ってくれるかい?」
「はい」
「サフィ様、行きましょう」
「うい」
んー。
結局のところ、クリスのことが気になるからその兄貴を見にきたってことでOK?
なんでディスられないといけなかったかが、わからんけど。


部屋に帰る道中、リクもカランも一言も喋らなかった。
なんだか不機嫌なことはわかる。
部屋に入ると、両側を挟まれたまま、ソファーに押し付けられた。
めっちゃ狭い。
普通に座ろーぜ。

「サフィ様、シルベール様から何を言われましたか?」
「たとえ相手が王族であろうとも、サリス様を苦しめたのであれば処理に動きます」
いきなり一言目がそれ?
怖えぇって。

「あのなあ、挨拶してただけだぞ。特に何か言われたわけじゃないから」
男が女に手をあげたり罵ったりしたら、大変なことになっちまうだろ。
「そんな怖そうな顔してどうしたんだよ、2人とも」

「……すみません。サリス様がシルベール様と話しているのを見て嫉妬しただけです」
「お二人が並ぶとお似合いですから……サフィ様を取られるかと思って」
「はあ?」
お前ら可愛すぎかよ。
むしろさっきまで俺が思ってたヤツだろ、ソレ。


あー、俺、こんなに毎日好きって言われてさ、コイツらの気持ちを疑う余地なんかないわけよ。
なんなら、風呂の時にほにゃほにゃされることもあるけど、もう、なんていうか、嫌じゃなくなったっていうか。
慣れたし、気持ちいいし……なんか、嬉しいし。

そういうこと、クリスが一緒に入らない時だけにしてくれるのも、気を使われてる感じっていうか、大切にされてるってわかる。

だから、かな。

俺がサリスフィーナになってから気づいたことがあるんだ。
コイツらが、ずっと大切にしてくれるのがわかるから、思うことがあるんだ。

俺は向こうの世界で、確かに嫁さんを愛していたけれど、それは彼女に伝わっていただろうか、と。
伝えられていたんだろうか、と。
コイツらみたいに、こんな風に好きだって言えてなかったことに、気がついたのだ。

俺と一緒になってくれたことへの感謝を。
毎日の美味しい食事への感謝を。
過ごしやすい環境を整えてくれることへの感謝を。

きちんと言葉にして、毎日、たくさん……伝えてこなかった。

それは彼女にとって、どれだけ寂しいことだっただろうか。
全てを1人でこなしてくれていたのだ。随分と負担をかけていただろう。
彼女がどう思っていたのか、それすら、もう正確に知ることはできないけれど。

確かなのは、それを伝える機会はもうない、ということだ。


だからこそ思う。
今の、サリスフィーナとしての気持ちは?
俺はまた同じことを繰り返そうとしているんじゃないのかって。

こんなにしてもらって気持ちは揺れているのに、それを伝えないことは、正しいのだろうか。
また、いつかどこかで、こんなに苦い悔いを、後悔を、噛み締めたりするんじゃないのか?

何よりも、嫁さんと同じように彼らを苦しめている現状は、酷いことではないのか。

なんて。

都合のいいことを考えて、俺は、ズルい。
2人を好きで居続けるための言い訳を、ずっと探してるんだからな。

「サフィ様、どうしました?」
「元気がないようですけど」

「そ、そんなことないぞ」
「シルベール様に嫉妬したのが悪かったですか?」
「サフィ様の話も聞かずに責めるようなことを言ってすみません」

お前らが謝る必要はないんだ。
そうじゃなくて、

「そうじゃなくて、俺、お前らのこと選べないから、酷いことしてるなって思っただけ」
「私達を選べない、ですか?」
リクが低い声で唸るように言った。
その唸りが、腹の奥に直接響いてくるようだ。
あ、あれ?なんか身体が震えてきた、ような。
なんで?

「どういう理由でか、聞いてもよろしいですか?」
ひぃぃ、カランからは黒いの出てるぅ。
なんか、怖いんだけど、な、なんで?
身体が勝手に震えてくる。

「あ、あ、あのな!リクもカランも、どっちも大事だから、どっちか1人なんて選べないなって」
あぁぁっ!
まだまだ、内緒にしておこうと思ってたのに、怖くて思わず言っちまった!
「や、やっぱ、今のナシ!!」

「それのどこが酷いんです?」
さっきまで般若面だった2人が、表情を落としてきょとんとした顔をしている。
「え、だって、1人を大事にしないといけないのに、俺浮気者じゃん」
自分のダメっぷりを暴露とか、死ねる。

「……なるほど。サリス様は恋愛事に本当に疎いのですね」
疎いって、何が?
「サフィ様。それは平民の一般的な話であって、サフィ様には当てはまりませんよ」
「へ?」
「身分が高いか生活力のある富裕層は幾人も伴侶を得るのは普通です」
「え、そうなの?一夫多妻、的な?でも俺はどっちにも属さないだろ?」

「一夫多妻でも一妻多夫でも、養う力のあるものが多くを養うのは大事なことです。それで救われる者もいるわけですから」
「サフィ様は道を切り開く力も富も両方お持ちですから、たくさんを娶るのは、もう義務でしょうね」

え、じゃあ、2人とも選んでもいいの?
そんな都合いいこと、ある?

「誤解がとけたならよかったです。これで心置きなく、私たちのことを考えられますね、サリス様」
「サフィ様も私達のことを好きでいてくださったと知って、嬉しいですよ」

だ、だからっ、近、近いって。
「あっ、ああ!」
2人の魔力が、入っ、て、くるぅ。
「はっ、んっ」

「好きですよ、サフィ様」
「愛しております、サリス様」

そんな、こと、言われた、ら、
「あ、あ、俺、俺も、好きっ、ってあぁぁあっっ!!」
やめっ、なんで急にっ、強っ。
ひいぃぃぃい!

最近、多過ぎない?
お前ら、ガッつき過ぎじゃない?
俺、さすがに昼間っからとか、恥ずかしい人なんですけど!!

あ、ダメなやつだ。
も、身体、動か、せ、ない。






翌日目覚めた時の気怠さに、やっぱり告白を早まったと後悔した俺だった。
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