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6話 10歳の苛立ち sideイフト

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「バンダイさん、リースいますか」
もう3日もリースの顔をみていない。リースの顔を見ないと頑張れない。
最後に会ったのは山でだった。
何度も『山に行くなら同行したい』と言っても、リースが声を掛けてくれることはない。

リースに会いたい。
そう思ってリースの家に行くと、リースの父さんが水を運んでいるところだった。
いつもはリースがやってるのに、もしかして具合でも悪いのだろうか。心配だ。

「ああイフトか。リースは独り立ちしたぞ。アンミーン神の寝床山の方に家を構えたらしい」
「え。い、いつですか」
そんなの聞いてない!
この間山で会った時に、引っ越したことすら教えてもらえなかった、なんて。
なんで……?

リースが独り立ちするなら、その手伝いには絶対呼んでくれるって思っていた自信があっただけに、とてつもなくショックだ。
独り立ちの時に手伝いを頼んだ友には、一生の付き合いも頼むという意味があるのだから。

「もう10日も経つかな。イフトにも声をかけようとしたんだが、1人でいいって言われちまってなあ。俺達も手伝わせてもらえなかったんだよ。あんなにやわそうに見えて、アレも一端いっぱしの男だったってことだ」
バンダイさんが嬉しそうに言ってる言葉は、頭に入ってこなかった。

なんで?
なんでリースは俺に声かけてくれなかったんだ?
そんな問いばかり、ぐるぐると頭を回っていた。





小さな頃、リースは俺の憧れだった。
俺の母親は強かったがあまり丈夫ではなかった。
そのせいか俺の生まれるのが早かったとかで、俺は随分小さく生まれたのだ。
独立の儀を受けるまでに大きくならないと、得られる魔力も少ない。その後生きていくのは大変だろうと、俺について周囲はそういう認識だったと思う。

だから一緒に仲間に入れてくれる友人は少なかった。仲良くなったところで利益になるものがないからな。
そんな時、どんなにグズでもトロくても見捨てないで付き合ってくれたのがリースだったのだ。
時々本当に俺がトロ過ぎて嫌な顔はされたけど。

当時同年代の代表になるのはリースだろうとリースの気を引きたい奴らはたくさんいたのに、リースが始終気に留めていたのは自分だった。
それがとてつもなく嬉しかった。
俺はリースのものだ。
仮にリースに理不尽なことを言われても、一生リースの下僕でいい。
そう、思っていた。
まあ、理不尽な目にあったことなんかないんだけど。

でも少しでもリースの役に立ちたくて、リースに追いつきたくて、捨てられたくなくて。

大きくなるために必死で食べた。食べるために運動も頑張った。
いろいろなことができるようになるまで人よりも時間はかかったが、リースが根気よく付き合ってくれたから頑張れたんだ。

努力の甲斐もあって、独立の儀を迎える時には俺の身体は大きい方になっていた。
儀式が終わると、大人たちに身体を巡る魔力が多いと褒められて、ホッとした。

これでずっとリースと一緒にいられると、リースの側にいるのに相応しい人間になれたと、胸を撫で下ろした。
やれることも増えて、リースの周りに集まるヤツらからも一目置かれるようになっていた俺は、誰よりもリースの1番近くで生きていくんだと、これからもそのために頑張ると決心したのに。

それなのに。

現実は非情だった。

リースの身体は大きくて、リースに入り込む魔力の量は歴代で1番多かったらしい。
しかしそれを伝えにきた大人の顔には、喜びはなかった。

「あれでは長く持たないかもしれん」
なんて。
たくさん血を吐いて今も意識が戻らない、とか。
リースが死ぬかもしれないと聞いて、目の前が暗くなった。
それじゃあ、俺は何のために頑張ってきたんだ。
リースがいないのに、俺が生きてる意味ってなんだ。

でも、リースは生きていてくれた。
目覚めたリースは痛ましく見る周囲を、誰よりも理解していたのだと思う。

あっさりと、それはもうあっさりと、全てを捨てて1人で生きていく決意を決めていたのだ。
それまでどんなに俺がダメダメでも決して見捨てたりしなかったのに、俺のことまで『お前ももう一人前だな』なんてスッパリと切り捨てたんだ。

よくよく考えてみたら、リースの家族っていうのはみんな優秀で、弱者に優しいんだよ。
だから、弱者から抜けた俺には興味がなくなってしまったのかもしれないと、リースの前では頑張り過ぎないように気をつけることになった。
リースの役に立ちたいけど、リースの関心は独り占めしたい。
そしていつか、リースに頼られる存在に、なれたらいいのに。

俺は考えた。
リースの方からこっちに来ることはなくなっても、俺の方からリースについていってはいけないなんてことはないだろ?
俺はリースが何も言わないのをいいことに、今まで通り付き纏うことにした。
『教えて、教えて』ってできないヤツのフリをして。
俺がリースから離れるなんて、そんなの耐えられるわけがないんだから。

俺はリースの物だし、リースの下僕でいたいんだ。
それでいい、そう、思っていたのに。

思ってるだけじゃダメだったんだ。
もっと積極的にリースに付き纏わないと、俺なんかはリースに簡単に捨てられてしまう存在なんだ。
俺がリースのことを想う、何百分の1ですら想っていてもらえてなかったんだ。

そう、思い知った。
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