24 / 79
18
しおりを挟む
「ねぇねぇ…あーん」
「いいよっ…自分で食べれるから」
「あーん」
頬を掴んだレイヴンの手は一向に離れない。人目が気になって、周りをキョロキョロと見渡すけれど誰もこちらを気にする様子はない。諦めて、差し出されたフォークに乗るケーキを頬張った。
「……あまい」
前世を思い出してから、こんなに甘いものを食べた記憶がない。デザートなんて、果物中心の砂糖が入っていないものだった。唐突に訪れた甘味をゆっくりと口の中で味わう。
「さすが侯爵家、あの〝天才〟娘が考案したレシピらしいよ」
ごくり、と呑み込んで、視線の下がりそうになったユフィの顔はレイヴンによって持ち上げられる。
「僕、甘いの苦手」
口元に押し付けられた生クリームが零れそうになって、ユフィはまた、それを受け入れる。
ふとレイヴンの手首にあるカフスボタンが光って、その正装に視線を動かした。
ベストと合わせた黒のジャケットはシワひとつなく、光が当たれば輝いて見えるほどに丁寧に織り込まれた布地が使われている。首元の2重リボンの中央には真っ黒な宝石がついていた。
「お貴族様みたい」
思わず漏れた言葉はレイヴンの耳にしっかりと届いていたようだった。
「…僕はレイヴン、ただのレイヴンだよ。君のためにお洒落したんだ。君の名前は?」
「あ……ユフィ……」
「うん。ユフィ、これからもよろしくね?」
あそこ面白いことやってるよ!見に行こう?
手を引くレイヴンは考え込む時間を与えてくれない程に私を連れ回す。それが何故か嬉しくて、レイヴンの笑顔に釣られて私も笑った。
「ねぇユフィ、あれ見て!!」
「え、あ、ちょっと待って」
まるで前世の夏祭りみたいな催し物に、レイヴンが目を輝かせて動き回る。
「待ってよ……うっ」
ぷかぷか揺れる風船を持った男性が子供達に囲まれているのを見つけたレイヴンが不意に腕を引っ張るから、通りすがった人の胸に思いきりぶつかってしまう。
「ご、ごめんなさいっ」
「………」
その人はユフィの肩を掴んだまま固まっている。不思議に思って、見上げるが影になっているせいか顔がよく見えない。
「……あ、えっと、すまない。君は大丈夫?」
「あ、いえっ私がよそ見をしていたせいなので、すみません。ありがとうございまっ」
言い切る前に、レイヴンに腕を引かれて青い風船を持たされる。
「離したら駄目だよ」
「そんなに引っ張ったらついて行けないよっ…もっとゆっくり歩いて?」
「だって…楽しかったから」
「ぶつかっちゃったのにちゃんと謝れなかったんだよ?」
「ごめんね?」
「いいよ…はい」
差し出した手を嬉しそうに繋ぎ直すレイヴンに、甘かったかな?と思う自分がいたが、その手を離そうとは思わなかった。
「いいよっ…自分で食べれるから」
「あーん」
頬を掴んだレイヴンの手は一向に離れない。人目が気になって、周りをキョロキョロと見渡すけれど誰もこちらを気にする様子はない。諦めて、差し出されたフォークに乗るケーキを頬張った。
「……あまい」
前世を思い出してから、こんなに甘いものを食べた記憶がない。デザートなんて、果物中心の砂糖が入っていないものだった。唐突に訪れた甘味をゆっくりと口の中で味わう。
「さすが侯爵家、あの〝天才〟娘が考案したレシピらしいよ」
ごくり、と呑み込んで、視線の下がりそうになったユフィの顔はレイヴンによって持ち上げられる。
「僕、甘いの苦手」
口元に押し付けられた生クリームが零れそうになって、ユフィはまた、それを受け入れる。
ふとレイヴンの手首にあるカフスボタンが光って、その正装に視線を動かした。
ベストと合わせた黒のジャケットはシワひとつなく、光が当たれば輝いて見えるほどに丁寧に織り込まれた布地が使われている。首元の2重リボンの中央には真っ黒な宝石がついていた。
「お貴族様みたい」
思わず漏れた言葉はレイヴンの耳にしっかりと届いていたようだった。
「…僕はレイヴン、ただのレイヴンだよ。君のためにお洒落したんだ。君の名前は?」
「あ……ユフィ……」
「うん。ユフィ、これからもよろしくね?」
あそこ面白いことやってるよ!見に行こう?
手を引くレイヴンは考え込む時間を与えてくれない程に私を連れ回す。それが何故か嬉しくて、レイヴンの笑顔に釣られて私も笑った。
「ねぇユフィ、あれ見て!!」
「え、あ、ちょっと待って」
まるで前世の夏祭りみたいな催し物に、レイヴンが目を輝かせて動き回る。
「待ってよ……うっ」
ぷかぷか揺れる風船を持った男性が子供達に囲まれているのを見つけたレイヴンが不意に腕を引っ張るから、通りすがった人の胸に思いきりぶつかってしまう。
「ご、ごめんなさいっ」
「………」
その人はユフィの肩を掴んだまま固まっている。不思議に思って、見上げるが影になっているせいか顔がよく見えない。
「……あ、えっと、すまない。君は大丈夫?」
「あ、いえっ私がよそ見をしていたせいなので、すみません。ありがとうございまっ」
言い切る前に、レイヴンに腕を引かれて青い風船を持たされる。
「離したら駄目だよ」
「そんなに引っ張ったらついて行けないよっ…もっとゆっくり歩いて?」
「だって…楽しかったから」
「ぶつかっちゃったのにちゃんと謝れなかったんだよ?」
「ごめんね?」
「いいよ…はい」
差し出した手を嬉しそうに繋ぎ直すレイヴンに、甘かったかな?と思う自分がいたが、その手を離そうとは思わなかった。
2
あなたにおすすめの小説
【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください
ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。
義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。
外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。
彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。
「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」
――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。
⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
素顔を知らない
基本二度寝
恋愛
王太子はたいして美しくもない聖女に婚約破棄を突きつけた。
聖女より多少力の劣る、聖女補佐の貴族令嬢の方が、見目もよく気もきく。
ならば、美しくもない聖女より、美しい聖女補佐のほうが良い。
王太子は考え、国王夫妻の居ぬ間に聖女との婚約破棄を企て、国外に放り出した。
王太子はすぐ様、聖女補佐の令嬢を部屋に呼び、新たな婚約者だと皆に紹介して回った。
国王たちが戻った頃には、地鳴りと水害で、国が半壊していた。
【完結】母になります。
たろ
恋愛
母親になった記憶はないのにわたしいつの間にか結婚して子供がいました。
この子、わたしの子供なの?
旦那様によく似ているし、もしかしたら、旦那様の隠し子なんじゃないのかしら?
ふふっ、でも、可愛いわよね?
わたしとお友達にならない?
事故で21歳から5年間の記憶を失くしたわたしは結婚したことも覚えていない。
ぶっきらぼうでムスッとした旦那様に愛情なんて湧かないわ!
だけど何故かこの3歳の男の子はとても可愛いの。
他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!
七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?
心が折れた日に神の声を聞く
木嶋うめ香
ファンタジー
ある日目を覚ましたアンカーは、自分が何度も何度も自分に生まれ変わり、父と義母と義妹に虐げられ冤罪で処刑された人生を送っていたと気が付く。
どうして何度も生まれ変わっているの、もう繰り返したくない、生まれ変わりたくなんてない。
何度生まれ変わりを繰り返しても、苦しい人生を送った末に処刑される。
絶望のあまり、アンカーは自ら命を断とうとした瞬間、神の声を聞く。
没ネタ供養、第二弾の短編です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる