前世を思い出したら超絶ドアマットヒロインになっていたんですが。

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「ねぇねぇ…あーん」
「いいよっ…自分で食べれるから」
「あーん」

頬を掴んだレイヴンの手は一向に離れない。人目が気になって、周りをキョロキョロと見渡すけれど誰もこちらを気にする様子はない。諦めて、差し出されたフォークに乗るケーキを頬張った。

「……あまい」

前世を思い出してから、こんなに甘いものを食べた記憶がない。デザートなんて、果物中心の砂糖が入っていないものだった。唐突に訪れた甘味をゆっくりと口の中で味わう。

「さすが侯爵家、あの〝天才〟娘が考案したレシピらしいよ」

ごくり、と呑み込んで、視線の下がりそうになったユフィの顔はレイヴンによって持ち上げられる。

「僕、甘いの苦手」

口元に押し付けられた生クリームが零れそうになって、ユフィはまた、それを受け入れる。

ふとレイヴンの手首にあるカフスボタンが光って、その正装に視線を動かした。

ベストと合わせた黒のジャケットはシワひとつなく、光が当たれば輝いて見えるほどに丁寧に織り込まれた布地が使われている。首元の2重リボンの中央には真っ黒な宝石がついていた。

「お貴族様みたい」

思わず漏れた言葉はレイヴンの耳にしっかりと届いていたようだった。

「…僕はレイヴン、ただのレイヴンだよ。君のためにお洒落したんだ。君の名前は?」
「あ……ユフィ……」
「うん。ユフィ、これからもよろしくね?」

あそこ面白いことやってるよ!見に行こう?
手を引くレイヴンは考え込む時間を与えてくれない程に私を連れ回す。それが何故か嬉しくて、レイヴンの笑顔に釣られて私も笑った。


「ねぇユフィ、あれ見て!!」
「え、あ、ちょっと待って」

まるで前世の夏祭りみたいな催し物に、レイヴンが目を輝かせて動き回る。

「待ってよ……うっ」

ぷかぷか揺れる風船を持った男性が子供達に囲まれているのを見つけたレイヴンが不意に腕を引っ張るから、通りすがった人の胸に思いきりぶつかってしまう。

「ご、ごめんなさいっ」
「………」

その人はユフィの肩を掴んだまま固まっている。不思議に思って、見上げるが影になっているせいか顔がよく見えない。

「……あ、えっと、すまない。君は大丈夫?」
「あ、いえっ私がよそ見をしていたせいなので、すみません。ありがとうございまっ」

言い切る前に、レイヴンに腕を引かれて青い風船を持たされる。

「離したら駄目だよ」
「そんなに引っ張ったらついて行けないよっ…もっとゆっくり歩いて?」
「だって…楽しかったから」
「ぶつかっちゃったのにちゃんと謝れなかったんだよ?」
「ごめんね?」
「いいよ…はい」

差し出した手を嬉しそうに繋ぎ直すレイヴンに、甘かったかな?と思う自分がいたが、その手を離そうとは思わなかった。

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