前世を思い出したら超絶ドアマットヒロインになっていたんですが。

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「綺麗だけどなぁ…」

紫の瞳、何かを忘れているような気がするけれど思い出せない。だけど、その美しさに不満は無かった。

小説で読んでいた分には、ヒロインの性格も相まって情熱的で可愛らしいと思っていた赤い瞳だけど、今の濃い青紫に赤色が混じる瞳は幻想的で、なんとなくヒロインに紛い物が混ざっているのを表しているかのようで…どこかほっとしていた。

怖がられているのなら尚更、解放も近いだろう。

部屋から出られず、暇になってしまったユフィはベッドにある、ふかふかの枕を抱えて悩んだ。

明日には出れるかな…ヴィと建国祭回れるといいんだけど…

3日間の建国祭の真ん中、その日がユフィの誕生日だ。その日を過ぎて、平日になれば冒険者ギルドで身分証を発行できる。不安ばかり抱えていたけれど、楽しみにしていたのも事実だった。それにレイヴンも一緒に来てくれる。

思えばレイヴンは出会った時から寂しさを露わにして私を拠り所にしてくれていた、と思う。小説内でも人を弄びながらも一番「愛情」に飢えていた人物だった。

その感情に付け入った、といえば罪悪感が押し寄せてくるけど、それでも自分もレイヴンに縋ってしまうのだから「孤独」というものは厄介だ。
いつも人をからかって甘えるその表情に計算されたものだと分かっていても、推しの顔面というだけで今でも慣れずに赤面してしまう。騙されていたとしても、寂しさに潰されそうだった私にはそれが充分すぎるほど心を満たしてくれていた。

性格は違うし、瞳の色が変わって「ヒロイン」とは遠のいたから魅力はないかもしれない。けれど、きっとレイヴンは変わらずに計算し尽くされた表情で私に「寂しさ」を共有してくれるのだろう。都合のいい人とでも思ってもらえるならそれでいい。

せめてレイヴンが心から愛し合える人と出逢えるまでは、この生温い泥沼に浸っていたい。

「ほんと…私はとことんダメな人間だ…」

自身に対する愚痴をこぼすと、それに返答するかのようにお腹がきゅるきゅると鳴る。

ベッドサイドテーブルに置いてあるベルを見つけて、それを鳴らすとすぐに控えていたメイドがやってきた。

「お呼びでしょうか」

先程までいたメイドとは違い、小麦色の髪を綺麗に纏めたクールビューティと言った感じのメイドが無表情のまま問いかけてくる。

「すみません…お腹が空いてしまって…」
「かしこまりました」

そのメイドは静かに一礼すると、足音もなく、部屋を退出した。



**********
レイヴンside


聖女が悪竜の血によって気を失い、今は治療を受けているという報告を聞いて、足が震える。

「レイラ嬢は…聖女信仰者だったのか?」
「…いえ」
「レイラ様…落ち着いてください。聖女様はきっと大丈夫ですから」

ヘリオスの執務室で待つレイヴンはドレスがシワになるほど握りしめ、俯いていた。今まであまり感情を見せなかったレイヴンの挙動に気付いたキーラとヘリオスは瞑目する。

しばらくして「聖女様がお目覚めになられました」とやってきた騎士の報告にレイヴンが立ち上がると、「大勢で行って聖女様を驚かせてはならないよ」というヘリオスと「ヘリオス殿下の報告を待ちましょう?」と手を握ってくるキーラによって遮られた。

フィじゃないフィじゃないフィじゃない…

呪文のように言い続けた言葉は神様に届いたのだろうか。

やがて執務室に戻ってきたヘリオスは難しい顔をして黙り込む。

「ヘリオス殿下…?聖女様はご無事だったのでしょうか?」
「あ、ごめんね…うん、結論から言うと無事だよ」

キーラが声をかけ、ヘリオスに話を聞くとその少女は青紫の瞳をしているのだという。

それは「黒竜眼」と呼ばれ、災いの印だと昔から人々に言い伝えられてきた御伽噺のようなものだ。

かつて悪しき黒竜の子を退治した一人の村人がいた。子を失った親の黒竜は悲しみ、嘆き、そして怒り、我が子を殺めた村人を呪った。いずれ私の目を持つ子が誕生するだろう、と。
やがてその村人の妻は黒竜と同じ紫の瞳を持った子を産み、同時に飢饉や洪水、争いが村を襲った。そしてその子は災いを呼ぶ子と敬遠され、村を追放された。

今は貴族以外にはあまり知られていないが、レイヴンは歴史書でたまたま読み、ケイルが会ってみたいと話していたから覚えがあった。

しかし「黒竜眼」は生まれ持っているものだと聞く。フィじゃなかった…と安堵しつつも、その「聖女様」の姿を見るまでは安心できなかった。

「聖女様には会えますか?」
「レイラ嬢…」
「私も気になります、一目見ることもかないませんか?」
「どうだろうね、とりあえず様子を見よう…本当なら死んでいてもおかしくはないはずなのに聖女補佐3人程度の治癒で済んでいるのだから…」

黙り込んだ3人のいる執務室はあまりにも重い空気で満たされ、それ以上、口を開く人は誰もいなかった。
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