前世を思い出したら超絶ドアマットヒロインになっていたんですが。

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「申し訳ございません。すぐにご用意できるお料理がこちらしかございませんでした」

そう言ってメイドが運んだ料理にユフィは目を輝かせた。

お野菜がこんなにたくさん入ったスープなんて今世初めてだ。おまけに鶏肉がゴロゴロ入っていて、パンもふわっふわだ。

「なんか…感動して泣きそう」

ユフィの独り言を聞き取った無表情のメイドが後ろで若干引いているようにも見える。

実際に美味しかったけれど、いっぱい食べて元気アピールすれば、すぐに解放されるかもしれない、とユフィは淡い期待も込めていた。ところが

「許可できません」

顔色一つ変えずメイドは頭を下げる。散歩どころか部屋から一歩も出してもらえないなんて…

いっその事、窓から飛び降りてみる?

そう思い、窓に手をかけ下をのぞき込むと綺麗なレンガの歩道が真下に見える。ユフィは落ちた後のことを想像して、顔を青ざめさせた。

クッションになりそうな植木もないし、骨折は免れない…すぐ治癒すればバレないだろうけど、絶対痛いよね…

メイドが扉の外にいる騎士に対応している隙を盗んで、ユフィは何処かに足場がないかと窓から身を乗り出すと後ろから怒声が上がった。

「おいっ!!何をしているっ」

誰かの腕がユフィの腰をキツく抱き寄せる。そして、そのまま後ろへと激しく倒れ込んだ。

「君は死ぬ気かっ?」

抱き寄せられたまま耳元で大声で怒られたユフィは声も出せずに震え上がった。

「あ…いや、すまない…」

ユフィの怯えに気付き、締め上げるようだった腕が緩んで、その手が顔の前に差し出されるとユフィはさらに縮こまった。

指先が冷える。寒くて感覚がなくなっても殴られたら痛い。そして、その痛みの前には必ず人の怒鳴り声がした。邪魔だ、臭い汚い能無しドブネズミ…

ユフィは路地裏で酔っ払いに怒鳴られ、暴力を受けていた日々がフラッシュバックして震えが止まらなくなってしまっていた。

「ごめ…なさい」

あまりにか細い声はバタバタと騒ぎを聞き付けてやってきた人々の足音にかき消される。近寄る人々にも気付かず、ユフィはガタガタと震えて謝り続けた。


「大丈夫だよ」

そんなユフィの耳元に優しい声が響く。冷えて震える指先は暖かな手に覆われて、抱き寄せられる。

「ヴィ…?」
「うん、もう大丈夫だからね」

浅い呼吸を続けていたせいで目眩がする。もう夢か現実かも分からない。だけど酷く安心するその手を離すまいと強く握った。



*********
レイヴンside



ヘリオスが聖女補佐や神官の対応をしている中、レイヴンとキーラは執務室でただひたすら待たされていた。

「ここのバラ園は素晴らしいとキーラ様に聞きました、私も…見てみたいです」

ここは王宮で、自分がコンドラーの名を借りている以上、派手に動くことの出来なかったレイヴンはヘリオスに提案を投げかけた。

「気晴らしにはいいかもしれないね」
「まぁ、でしたら私がご案内します」

キーラが立ち上がり、「陛下がお帰りになったら僕も行くよ」とヘリオスも了承する。

幸い自分達が居た建物の真横にバラ園はあり、騎士達が来た方角もこちら側だった。ただ、どの部屋に聖女がいるのかは分からない。芝生の広がる景観に合わせた赤いレンガの道を歩いて、外側から幾つもの窓を眺める。

「入口にある小さな白や黄色の薔薇から始まって奥に進むにつれて、赤やピンク色の大輪の薔薇が辺り一面に広がっていくんです、それがもう…幻想的でして」

キーラが熱心に説明する中、レイヴンは奥の一番上にある窓のカーテンがはためいているのに気が付いた。そこから銀色の髪が覗く。

「見つけた」
「いえ?バラ園はあそこを曲がった先なのでまだ見えては…レイラ様っ?!」

レイヴンはくるり、とキーラに背を向けると来た道を引き返し、階段を駆け上った。長い廊下をひたすら走る。やがて騎士とメイドが立ち止まっている扉を見つけた。

「おいっ!!何をしているっ」

ちょうど駆け込む騎士を見て、すぐにレイヴンも扉へと向かう。扉越しに驚く彼女の横顔を見つけて、抱き留めた騎士をレイヴンは乱暴に押し退けた。

震えるユフィは今にも壊れそうで、触れれば消えてしまいそうな気がして

「大丈夫だよ」

そう自分に言い聞かせるようにユフィの耳元で呟いた。ユフィの存在を確かめるようにその指先に触れる。

「ヴィ…?」
「うん、もう大丈夫だからね」

ユフィが消えることはなく、レイヴンの名前を呼んだ。それが酷く胸を締め付けて、一人にさせてしまったことを後悔する。気を失っても離れないその手を、落とさないようにしっかりと抱き寄せた。




「レイラ嬢…説明してくれる?」

ヘリオスがレイヴンに厳しい目を向ける。ユフィが手を離さないため、気を失ったユフィを抱えたままレイヴンはソファに座っていた。

「見たままの通りです」
「まぁ…お知り合いでしたのね」
「それじゃあ言葉が足りないよ」
「フィは聖女じゃありません」
「いいえ、その方は聖女です」

反論したのはキーラだった。堂々と言い切ったその瞳は真っ直ぐにレイヴンを見つめる。

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