61 / 79
29
しおりを挟む
レイヴンside→ユフィ
「ヘリオス殿下…彼女に触れていただけますか?」
「…分かった」
「だめ」
ヘリオスが近付き、レイヴンが触らせまいとユフィを引き寄せるも、頭が揺れてユフィの顔がヘリオスの方へと晒される。
「傷つけはしないよ」
ヘリオスは、レイヴンの強ばった顔が一瞬解けるのを見てユフィの頬にそっと触れる。
「そろそろ離してくれないかな?」
長い時間ではなかった。それでもユフィの頬に数十秒触れて固まるヘリオスを、敬意などないと言うようにレイヴンが冷めた目で見下ろした。
「あ…うん、彼女は…間違いなく聖女様だよ」
「うそだっ…」
「いいえ…嘘ではありません、ヘリオス殿下は聖女様の能力を見極める力を持っておられます」
「……では、今後フィをどうされるおつもりなのですか」
押し黙る2人にレイヴンは耐えられず、ユフィを抱えて立ち上がろうとした。
「……ん…ヴィ?」
声のする方を覗けば、ふにゃりと笑う彼女がレイヴンの頬を優しく撫でてくる。
*************
「ねぇ…起きてっ…」
頬を擽られて、目を開けると辺り一面真っ白な空間にユフィは寝そべるように漂っていた。ユフィを起こした人物は光り輝き、ぼやけていてよく見えない。
「よかった…ねぇ、あまり時間が無いの」
「ここは…どこ?」
「もうっ!それを説明している暇なんてないのっ!」
「え…はい」
訳も分からず異様な空間の中で怒られているのに、その場所はとても暖かく居心地がよかった。
「それにしても…ほんと…とんでもなく汚い色の瞳ね……うーん、いいんだけどね?」
「え…っと、ごめんなさい」
「謝らないでよ!それよりも…あなたは幸せになりたいんじゃないの?」
「幸せ…」
「そう、幸せ…その体じゃあなたの幸せは手に入れられないの?」
「それは…今頑張ろうって…」
レイヴンや出会った人達に迷惑かけたくない、嫌われたくはない、手離したくない、そう思ったばかりだ……まぁ、ヒロインの幸せではないけど…
「ねぇ、また余計なことを考えてない?三者三様、十人十色、百人百様、ほんと言葉がたくさんあって面白いんだけれど…複雑すぎてめんどくさいからこそなのね…」
「え…」
「時間切れだわ…ねぇ、あなたはあなたらしく行動して…あなたの本当の幸せを……う遠慮しな………持ち主…あなた…から…過去の……感」
遠ざかる声が途切れ途切れになり、やがてブツリと途絶えると、身体を暖かく締め付けられている感覚がして身じろいだ。目を開けると、そこにはレイヴンがいて…安心する。
「……ん…ヴィ?」
思わず声をかければ、ぎゅっとキツく抱き締められて、不安な顔に変わったレイヴンがこちらを見下ろしてくる。手を伸ばしてその頬に触れれば、柔く暖かい感触が伝わる。
「苦しいよ」
「…ごめんね」
ゆっくりと腕が解けて、長い黒髪が頬を擽った。レイヴンをよく見ると薄い化粧も施していて思わず笑ってしまい、その頬を撫でた。
「ふふ、綺麗だね…」
「こほん」
横から咳払いをする声が聞こえて、そちらを見れば王子と悪役令嬢が並んで座っている。
「えっ」
ユフィは辺りを見回し、自分が女装したレイヴンの膝に座っていることに気付いて、慌てて居住まいを正す。
「レイラ嬢と…」
「……ユフィです」
「ありがとう…こちらはキーラ嬢、私のことはヘリオスと呼んでくれ、ユフィさんは…その、レイラ嬢と随分仲が良いんだね」
うわあああ…寝ぼけてヴィしか見えてなかった…というかレイラ嬢ってヴィのことだよね?…それにさっきのは夢?何が起きてるの?とりあえず合わせないと…
ヘリオスは相変わらず王子スマイルで、キーラ嬢は不安そうにこちらを伺っている。混乱して顔を真っ赤にしたユフィはレイヴンへと目を向けた。それに答えるようにレイヴンが微笑み、頷く。
「は、はい…レイラとは小さい時からずっと仲良しです!」
「うん、ちなみに年齢を伺っても?」
「…明後日、12歳になります」
「同い年だね、そうか…だったら自身の魔力についても知らないのは当然だ」
「いえっ……私は聖女じゃありません!」
「何をおっしゃっているの?あなた以上の聖女がどこにいるっていうのよ!」
突然、声を張り上げたキーラにユフィの身体はビクリと跳ねる。
「キーラ嬢落ち着いてくれ、あとレイラ嬢もそんなに睨まないでやってくれ」
「あ…申し訳ありません…」
「……フィをこんなところに一人で置いてはおけません、帝国に連れて帰ります」
「それは困るな」
三人の押し問答が続く中、声もあげられなかったユフィは目覚める前の夢を思い返していた。
大人っぽい女性の声で、明るい性格をしていた。
「その体じゃあなたの幸せは手に入れられないの?」
まるで私の心の内を知っていて、非難するような、悪魔の囁きのような言葉。
これまでレイヴンに依存し、小説内の知っている展開を都合良く利用しておいて、自分はヒロインの器ではないからと自身の容姿や小説のハッピーエンドに関することから自然と逃げ続けていた。せめて、バッドエンドにならないようにしよう、と。
そんな自分勝手な私がヒロインのガワだけ被ってやりたいように生きたら、どうなってしまうのだろう。
間違いなく前世はバッドエンドだったのだ。意見を言えず、人の顔色ばかり伺って、何かをしたいと伝えたところで愛想笑いや拒否されて終わるだけ。
前世の容姿が悪いと言われたらそれまでだけど、根付いたものは、そう簡単に変えることなどできない。
「ヘリオス殿下…彼女に触れていただけますか?」
「…分かった」
「だめ」
ヘリオスが近付き、レイヴンが触らせまいとユフィを引き寄せるも、頭が揺れてユフィの顔がヘリオスの方へと晒される。
「傷つけはしないよ」
ヘリオスは、レイヴンの強ばった顔が一瞬解けるのを見てユフィの頬にそっと触れる。
「そろそろ離してくれないかな?」
長い時間ではなかった。それでもユフィの頬に数十秒触れて固まるヘリオスを、敬意などないと言うようにレイヴンが冷めた目で見下ろした。
「あ…うん、彼女は…間違いなく聖女様だよ」
「うそだっ…」
「いいえ…嘘ではありません、ヘリオス殿下は聖女様の能力を見極める力を持っておられます」
「……では、今後フィをどうされるおつもりなのですか」
押し黙る2人にレイヴンは耐えられず、ユフィを抱えて立ち上がろうとした。
「……ん…ヴィ?」
声のする方を覗けば、ふにゃりと笑う彼女がレイヴンの頬を優しく撫でてくる。
*************
「ねぇ…起きてっ…」
頬を擽られて、目を開けると辺り一面真っ白な空間にユフィは寝そべるように漂っていた。ユフィを起こした人物は光り輝き、ぼやけていてよく見えない。
「よかった…ねぇ、あまり時間が無いの」
「ここは…どこ?」
「もうっ!それを説明している暇なんてないのっ!」
「え…はい」
訳も分からず異様な空間の中で怒られているのに、その場所はとても暖かく居心地がよかった。
「それにしても…ほんと…とんでもなく汚い色の瞳ね……うーん、いいんだけどね?」
「え…っと、ごめんなさい」
「謝らないでよ!それよりも…あなたは幸せになりたいんじゃないの?」
「幸せ…」
「そう、幸せ…その体じゃあなたの幸せは手に入れられないの?」
「それは…今頑張ろうって…」
レイヴンや出会った人達に迷惑かけたくない、嫌われたくはない、手離したくない、そう思ったばかりだ……まぁ、ヒロインの幸せではないけど…
「ねぇ、また余計なことを考えてない?三者三様、十人十色、百人百様、ほんと言葉がたくさんあって面白いんだけれど…複雑すぎてめんどくさいからこそなのね…」
「え…」
「時間切れだわ…ねぇ、あなたはあなたらしく行動して…あなたの本当の幸せを……う遠慮しな………持ち主…あなた…から…過去の……感」
遠ざかる声が途切れ途切れになり、やがてブツリと途絶えると、身体を暖かく締め付けられている感覚がして身じろいだ。目を開けると、そこにはレイヴンがいて…安心する。
「……ん…ヴィ?」
思わず声をかければ、ぎゅっとキツく抱き締められて、不安な顔に変わったレイヴンがこちらを見下ろしてくる。手を伸ばしてその頬に触れれば、柔く暖かい感触が伝わる。
「苦しいよ」
「…ごめんね」
ゆっくりと腕が解けて、長い黒髪が頬を擽った。レイヴンをよく見ると薄い化粧も施していて思わず笑ってしまい、その頬を撫でた。
「ふふ、綺麗だね…」
「こほん」
横から咳払いをする声が聞こえて、そちらを見れば王子と悪役令嬢が並んで座っている。
「えっ」
ユフィは辺りを見回し、自分が女装したレイヴンの膝に座っていることに気付いて、慌てて居住まいを正す。
「レイラ嬢と…」
「……ユフィです」
「ありがとう…こちらはキーラ嬢、私のことはヘリオスと呼んでくれ、ユフィさんは…その、レイラ嬢と随分仲が良いんだね」
うわあああ…寝ぼけてヴィしか見えてなかった…というかレイラ嬢ってヴィのことだよね?…それにさっきのは夢?何が起きてるの?とりあえず合わせないと…
ヘリオスは相変わらず王子スマイルで、キーラ嬢は不安そうにこちらを伺っている。混乱して顔を真っ赤にしたユフィはレイヴンへと目を向けた。それに答えるようにレイヴンが微笑み、頷く。
「は、はい…レイラとは小さい時からずっと仲良しです!」
「うん、ちなみに年齢を伺っても?」
「…明後日、12歳になります」
「同い年だね、そうか…だったら自身の魔力についても知らないのは当然だ」
「いえっ……私は聖女じゃありません!」
「何をおっしゃっているの?あなた以上の聖女がどこにいるっていうのよ!」
突然、声を張り上げたキーラにユフィの身体はビクリと跳ねる。
「キーラ嬢落ち着いてくれ、あとレイラ嬢もそんなに睨まないでやってくれ」
「あ…申し訳ありません…」
「……フィをこんなところに一人で置いてはおけません、帝国に連れて帰ります」
「それは困るな」
三人の押し問答が続く中、声もあげられなかったユフィは目覚める前の夢を思い返していた。
大人っぽい女性の声で、明るい性格をしていた。
「その体じゃあなたの幸せは手に入れられないの?」
まるで私の心の内を知っていて、非難するような、悪魔の囁きのような言葉。
これまでレイヴンに依存し、小説内の知っている展開を都合良く利用しておいて、自分はヒロインの器ではないからと自身の容姿や小説のハッピーエンドに関することから自然と逃げ続けていた。せめて、バッドエンドにならないようにしよう、と。
そんな自分勝手な私がヒロインのガワだけ被ってやりたいように生きたら、どうなってしまうのだろう。
間違いなく前世はバッドエンドだったのだ。意見を言えず、人の顔色ばかり伺って、何かをしたいと伝えたところで愛想笑いや拒否されて終わるだけ。
前世の容姿が悪いと言われたらそれまでだけど、根付いたものは、そう簡単に変えることなどできない。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください
ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。
義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。
外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。
彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。
「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」
――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。
⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
素顔を知らない
基本二度寝
恋愛
王太子はたいして美しくもない聖女に婚約破棄を突きつけた。
聖女より多少力の劣る、聖女補佐の貴族令嬢の方が、見目もよく気もきく。
ならば、美しくもない聖女より、美しい聖女補佐のほうが良い。
王太子は考え、国王夫妻の居ぬ間に聖女との婚約破棄を企て、国外に放り出した。
王太子はすぐ様、聖女補佐の令嬢を部屋に呼び、新たな婚約者だと皆に紹介して回った。
国王たちが戻った頃には、地鳴りと水害で、国が半壊していた。
【完結】母になります。
たろ
恋愛
母親になった記憶はないのにわたしいつの間にか結婚して子供がいました。
この子、わたしの子供なの?
旦那様によく似ているし、もしかしたら、旦那様の隠し子なんじゃないのかしら?
ふふっ、でも、可愛いわよね?
わたしとお友達にならない?
事故で21歳から5年間の記憶を失くしたわたしは結婚したことも覚えていない。
ぶっきらぼうでムスッとした旦那様に愛情なんて湧かないわ!
だけど何故かこの3歳の男の子はとても可愛いの。
他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!
七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?
心が折れた日に神の声を聞く
木嶋うめ香
ファンタジー
ある日目を覚ましたアンカーは、自分が何度も何度も自分に生まれ変わり、父と義母と義妹に虐げられ冤罪で処刑された人生を送っていたと気が付く。
どうして何度も生まれ変わっているの、もう繰り返したくない、生まれ変わりたくなんてない。
何度生まれ変わりを繰り返しても、苦しい人生を送った末に処刑される。
絶望のあまり、アンカーは自ら命を断とうとした瞬間、神の声を聞く。
没ネタ供養、第二弾の短編です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる