前世を思い出したら超絶ドアマットヒロインになっていたんですが。

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「あなたはまるで…他人事のようですわね」

顔を上げれば、冷たいアイスブルーの瞳がユフィを射抜く。

「キーラ嬢、どうしたんだ…君らしくないよ」
「……」
「いえ…上の空だった私が悪いんです…ごめんなさい」
「フィ…こんな人達の言うことなんてほっとけばいいよ」
「ヴィ、お願い…そんなことを言うのはやめて」

キーラを冷たい目で見るレイヴンをユフィが宥める。

キーラの言っていることはもっともだ。意見も言えなくて、他のことに逃げる癖がついた自分が嫌になる…見ている側からすれば、もっとストレスだろう。

知らない場所に来て、聖女って言われて、小説の主要人物達に囲まれて…卑屈なことばかりが思い浮かんでしまう…

5年間、ほぼひっそりと暮らしてきたせいで限られた人としか話をしてこなかった弊害が今になって顕になった。


「ユフィさん、少し…2人きりでお話できないかしら」

キーラにそう言われてドキリ、と心臓が跳ねる。

キーラが同じ前世持ちだと言うことはなんとなくわかっていた。

彼女は小説内で王妃になれず、気づいた時には仲間もおらず、最終的には国外追放を言い渡されて絶望して自身の火の魔力で焼死する悲惨な結末を迎える。

だけど今は苛烈な性格でもなく、王子との関係も良好なようで、悪い方向に転ぶはずがない。

むしろ「聖女」の存在は邪魔なはず…

キーラは揺らぐことの無い綺麗な姿勢で、真っ直ぐにユフィを見ている。背中の丸まったユフィに拒否することなど出来なかった。

「分かりました…」
「…ということなのでレイラ様、ヘリオス殿下はご退出願います」
「いやだ」
「一応…ここ僕の部屋なんだけど…」

渋々、と言った感じでヘリオスがレイヴンを連れて退出すると、キーラが小さくため息を吐いた。

「あなたも前世の記憶があるんでしょう?」
「あ…はい…」
「ねぇ…こんな陰気なヒロインいやなんですけどっ」
「ひっ…すみません」
「私がどれだけっ…あーーー調子狂うなぁ」

座る姿勢は綺麗なまま、先程まで令嬢然としていた口調は崩れ、捲し立てるように話しかけてくるキーラにユフィは怯える。

「手当り次第に孤児を集めて…子爵家まで潰したのよ?あなた、今までどこに居たのよ」
「あ、えっと…森に…」
「森って」
「学園で課外授業で行く森です」
「あー、あったわねぇ…まぁでも仕方ないか…それであなたはレイヴンと付き合ってるの?」
「えっ…そんなんじゃないです…」

ふーん、と目を細めたキーラは腕を組むとニヤリと笑い、ソファから身を乗り出した。

「私ね、推しがいるのよ!リオ、分かる?」
「リオ……幻獣と精霊がいる森に住んでる子ですか?」
「そう!」
「でも…リオって…」
「言わないで…挿絵もないし登場も一瞬だったけど一目でいいから見たいの」
「な、なるほど…」
「だからね!あなたが来てくれて本当に感謝してるのよ」

そう言って、キーラは伸ばした手をユフィの手に添える。

「聖女になってヘリオスと婚約して?」
「え…む、無理です!」

この人は何を言ってるの?どうして、それが婚約と結びつくの?

キラキラとした目でユフィの手をがっちりと掴んだキーラはゆっくりと顔を寄せてくる。ユフィの逃げ道を阻んだソファの背もたれがギシリと音を立てた。

「どうして?あなたがヘリオスとくっ付けるように今まで準備してきたのよ?」
「そんなこと言われても…他の聖女様はいないんでしょうか?」
「あー、いたわよ…だけど、あなたに危害を加えちゃったから」
「えっ」
「その目」
「あっ…あの人はどうなったんですか?」
「さぁ?というかその目の色じゃ婚約は無理かぁ…」

乗り出した体から力を抜いてソファに沈んだキーラは顎に手を置いて考え込む素振りを見せる。

聞けば、キーラは今までヘリオスがトラウマを抱くストーリーを回避しつつ全力サポートをしていたら、周りから婚約者候補第1位と持て囃されていると言う。ヘリオスからも「聖女が見つからなければ君と結婚するんだろうな」と言われて、焦っているのだとか

それからユフィの瞳に人々が怯える理由を聞いて、とりあえずは婚約が無くなったのだとユフィは胸をなで下ろした。

「まぁ、計画は練り直しになったけど…また時間のある時に話し合いましょう」

そう言って笑うキーラは自信に満ち溢れていて、とても楽しそうで羨ましくなった。
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