前世を思い出したら超絶ドアマットヒロインになっていたんですが。

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ユフィは気を遣って、キーラの名前を出さないようにした。しかし、キーラの話がなければこれ以上、共通点が見つからない。
天気の話など続く訳もなく、外套の裾をいじり、ソワソワしだしたユフィに気付いたヘリオスは微笑んで、建国祭のことや今までの暮らしについての話題を振ってくれた。

「君のことは…少し調べさせてもらったんだけど、市場の見知った者達には随分慕われているようだね」
「え…」
「あ、捕らえたりはしていないから安心してね…あくまで調査しただけだから」

その言葉に胸をなで下ろしたユフィは、最後に見た不安混じりのマーサの顔を思い出す。

「慕ってくれている…というよりは孤児で居場所のない私でも唯一受け入れてくれるような暖かくて優しい人達なんです」
「そうなんだね…誰も君を「聖女」と言わなかったよ、むしろ、無理矢理連れて行ってどうするんだ、建国祭を楽しみにしていたのに、って騎士達が詰められたみたいだからね、全く…逞しくて誇らしいよ」
「……」
「……君が聖女になりたくないことは、なんとなく分かってはいるよ…だけど僕が嘘をつくことはできないんだ」

ヘリオスは困ったように笑ってユフィを見ると、控えていたメイドを下がらせた。部屋にはユフィとヘリオス以外には居なくなる。

「僕が君を聖女だ、と言い切る理由は教えられない…だけど、君の質問に答えることは出来るよ」
「どういう…ことですか?」
「絶対結婚するのか…って言ったよね?今まで能力を授かった者が聖女を見つけた場合、漏れなく皆が聖女と婚姻を交わしている」

ユフィは手を握り締め、首を何度も横に振った。

「ははっ…そんなあからさまに拒否されちゃうと流石に僕も傷付くよ?」
「あっ…違うんです」
「分かっているよ、今までの話を聞いて君の気持ちはよく分かった…だから時間が欲しいんだ、お互いを知る時間が…」
「時間…ですか」
「そう…今、能力を持つ僕が君を「聖女ではない」と父上に報告してしまえば、それはもう二度と覆らないから」

眉を下げて懇願するようなヘリオスの顔を見たユフィは「すぐに報告しましょう」という言葉を飲み込んだ。

「治癒魔法が使えることで貴族や神官に「聖女」だと名乗り出てくる者はたくさんいる。だけど実際、その者らの命はとても儚いんだ…自分自身を上手く治癒できないからね、だから「聖女補佐」として丁重に保護している。そんな中で出自関係なく王族が「聖女」と結婚出来ていたのは、聖女自身の生命力にもあるんだ…傷も毒も呪いも自身で治すことが出来たから」
「聖女は不死身ってことですか?」
「あっ、違うよ…意図的に傷や病気を治さなかったり、浄化せずに瘴気の渦に飲まれれば普通に死んでしまう、魔力の質と量が違うだけで聖女も同じ人間だよ」

ヘリオスはそこで顔を上げると真っ直ぐにユフィを見た。

「だから…聖女の証明をしないためにと危険なことはしないで欲しい」
「………」
「命というものはいくつもある訳じゃないからね」
「……はい」
「うん、約束だよ」


「長居したね」と退出するヘリオスの背中を見送ると、どっと疲れが押し寄せたユフィはソファに膝を抱いて蹲る。

ヘリオスは小説通りの優しい人だ。だけど彼の責任を一緒に背負っていける程の頭の良さも強さも勇気も今の私にはないということも分かった。

「いのち…今のこの命は誰のものなんだろう…」

ユフィはベッドに目を向けるも動くことも億劫になり、そのままソファに横たわると目を閉じた。
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